2014年6月18日(水)
監督:矢口史靖
出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、近藤芳正、柄本明
95点。
今年観た映画の中では(洋画・邦画を通じて)ダントツである。
原作は三浦しをんさん。
実は、私、しをんさんの大ファンである。ちゃんと作品を読んだことはまだないが(どーゆーファンだ。)。
しをんさんはVISAカードの情報誌「VISA」に「旅する好奇心」というエッセイを連載しておられるのだが、これが面白い。
私はVISAカードの会員なので、毎月「VISA」が送られてくるのだが、実は、これまでまともに「VISA」を読んだことがなかった。
が、ふと読んだしをんさんのエッセイに惹かれ、今では毎月の「VISA」が待ち遠しい(そこまで好きならちゃんと本買って読めよ、俺。)。
ちなみに、しをんさんは私と同じgooでブログも書いておられる(もちろん私は読者登録済だ。)。これはもう、運命の赤い糸で結ばれているのではないか? 私には妻も子供(しかも2人)もいるが、サンタは死んじゃったし、もう大丈夫だ。試しに今、左手の小指をくいっくいっと動かしてみた。しをんさん、2014年7月22日の午前11時8分頃、左手の小指が疼きませんでしたか? ・・・疼きませんでしたね。
あと、「VISA」には私の好きな沢木耕太郎さんも「feel 感じる写真館」という連載を持っておられる。センスいいぞ、VISA。これなら毎年払う会費にも納得だ。
で、映画。
どーでもいい理由で林業体験に応募した主人公が1年間の林業研修を通じてどんどん成長していく過程が描かれているのだが、それ以外の場面、「木の正しい切り倒し方」とか「山で生きる人たちの山への尊崇」とか「広がる絶景」とか「山奥の村の子供たち」とかが一つ一つ丁寧に描かれていて、淡々としたストーリー展開なのに何故かぐいぐい引き込まれる。これはしをんさんの原作もさることながら、矢口史靖監督の技ありの才能だろう。
私事で恐縮だが、なかなか司法試験に受からず少し投げやりになり始めていた頃、妻と縄文杉(@屋久島)を見に行ったことがある。
朝4時くらいにホテルを出て、ホテルで作ってもらった握り飯をディパックに突っ込んで、廃線になったトロッコ道をトコトコトコトコ歩いて行く。途中からはトロッコ道もなくなり完全な山道。縄文杉まで歩くこと4時間か5時間くらいだったように記憶している。
縄文杉の手前で、何故か私と妻の周りから人がいなくなり、怖いくらいの静寂と木漏れ日だけが射しこむ幻想的な森の中で、鹿の親子がこちらをじっと見て立っていた。鹿の親子がいつ現れたのかまったく分からない。気がつくともう鹿の親子は消えていた。幻だったのかもしれぬ。
縄文杉は圧巻だった。
数千年を生きて、なお、この先も生きていこうという生命体というのは、もはや人智を超えて圧倒的である。縄文杉は数千年。地球は更に45億年。宇宙に至っては130億年以上。信長が好んで舞ったという「敦盛」の境地だな。
そういうことをつらつら考えながら縄文杉をぼんやり見ているうちに、司法試験になかなか受からないことなどどうでもよくなってくる。数千年という時間軸の中では、2年や3年試験に受からないとか、浪人するとか、病気になったとか、儲かったとか、貧乏になったとか、女ができたとか、ふられたとか、実にどうでもいい瑣事である。縄文杉が生きてきた時間と、これから生きていく時間から見れば、司法試験に受かるとか受からないとか以前に、人間の一生自体が「点」みたいなものだろう。その「点」の中で嬉しいとか、悲しいとか、腹が立つとか、金が欲しいとか、名声が欲しいとか、誰かを好きになったり、誰かを憎んだり、追いかけたり、追いかけられたり、挫折したり、また立ち上がったりしているわけだ。
「ああ、俺の悩みなんざ、この杉が見てきた雲の流れの前では鼻クソみたいなもんなんだな。」
と思ったりした。その後しばらくして私は司法試験に受かり、今はこうして好き勝手にブログを書いている次第である。
というようなことをスクリーンを見ながら思い出していたら涙が出てきた。
自然には人智を超えた力があるのだ。それがなんなのかは知らないが。
あと、伊藤英明さんは「海猿」以来のファンであるし(今、「骨っぽくて、荒々しくて、どこか少し抜けてて、でも憎めない男」を演らせたら日本では彼の右に出る役者はいないのではないかと勝手に思っている。)、近藤芳正さんが出ていたのも嬉しい(私が演劇の世界でプラプラしていた頃、私のプロデュースした舞台に出て頂いたことがある。「カップルズ」という舞台である。その頃から近藤さんはいい役者だったが、最近はそれに磨きがかかってきた。)。長澤まさみさんもよかったし、優香も色っぽかった。
唯一、難を言えば、主人公役の染谷将太さんの「都会っ子」の演技が少し作りすぎかな、というところだろうか。ここが少し鼻についたので-5点。
まぁ、好みの分かれるところではあろうが。
この映画、私の嫌いなジャリタレ・アイドルも出ていないし、安易に原作をベストセラーのコミックに頼っているわけでもない。
いい原作があり、いい脚本ができて、いい監督が、いい役者の、いい演技を、カメラに収められれば、ちゃんとこういう作品ができるのだ。
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