「反原発」「CO2削減不能」が加速させる豪雨、台風、猛暑〝熱帯化〟…地域紛争招く世界的気候変動、世界の批判は日本の「原発忌避」に
記録的な豪雨や水害、猛暑による健康被害が続発する日本列島。異常とされる現象は見慣れた風景になりつつある。世界でも、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出増が原因とみられる気候変動が、これまでの予測を上回るスピードで進行するとの報告が相次ぎ、国際的な対策が急がれている。しかし、日本は東京電力福島第1原子力発電所事故以降、議論は停滞しCO2排出削減の目標を打ち出せていない。各国から批判が高まりそうだ。
余裕は0・6度以下
「遠い将来のものと考えられてきた気候変動が現在の課題となった」
米ホワイトハウスは5月、「気候変動に関する報告書」でこう指摘。豪雨被害や干魃(かんばつ)、山火事、熱波による健康被害などが増えるとした。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は昨年、海面は今世紀末に「最大82センチメートル」上昇するとの報告をまとめたが、米航空宇宙局(NASA)の研究チームは今年、「上方修正が必要になる」とした。
米海洋大気局(NOAA)の研究チームが英科学誌ネイチャーに発表した報告によると、世界的に熱帯域が拡大しており日本沿岸部などでは台風被害が増加していく。日本の環境省は、今のペースでCO2の排出が増え続けると、今世紀末に平均気温は4・4度上昇し、東京は亜熱帯化すると予測している。
産業革命前からの気温の上昇を2度以内に抑える-。
195カ国が参加する国連気候変動枠組み条約の目標だ。そうしなければ、人的被害やインフラ損壊などを招く自然災害の増加、農作物の生産高減少といった社会的・経済的損失が深刻になり、地域紛争さえ招きかねないという。
しかし、すでに0・8度上昇。今すぐ世界のCO2排出をゼロにしたとしても、あと0・6度上昇するとされ、余裕は残り0・6度しかない。
年内が勝負
日本政府は、主要経済国はCO2の総量削減目標を示すべきだとする意見書を国連気候変動枠組み条約事務局(ドイツ・ボン)に提出した。だが、最も出遅れているのが実は日本だ。
大排出国である米国のオバマ政権は、国内の火力発電所が排出するCO2を2030年までに05年比30%削減する方針を打ち出した。16年以降の実施を目指すとしている。
6月にボンで開かれた同条約の特別作業部会では、中国が「来年の早い段階で(排出削減の)目標案を示す」と表明。欧州連合(EU)は、排出量を2030年までに1990年比40%削減する考えを示した。
この会議で日本は新たな目標を示せず、居心地が悪かったようだ。共同通信によると、出席した北川知克環境副大臣は現地で「日本が今のままでは困る、という目に見えぬ圧力があった」と語った。
条約締約国は、排出削減目標などを「2015年末より十分に早い時期」に出し合って15年末に合意することを目指している。国内の法整備などに要する時間を考えると、各国は今年中にも目標を固めておかなければならないのだ。
出遅れる日本
日本は民主党政権下で、2020年のCO2排出量を「1990年比で25%削減する」との目標を掲げていたが昨年、「2005年比3・8%減」に引き下げた。発電時にCO2を排出しない原発を増やして達成する考えだったが、福島第1原発事故を経て、原発への依存度を減らす方針に転換したためだ。
ただ、この目標は1990年比で計算すると3・1%増となり、再考は不可避とみられる。放置すれば、過去にCO2を大量に排出した先進国に大幅な削減を求める途上国だけでなく、EUなど先進国も日本批判を強めるのは必至だ。
日本政府も手をこまねいているわけではない。温暖化対策の切り札とされるCO2の回収・貯留(CCS)などの技術開発を進めるほか、化石燃料に課す環境税や、太陽光など再生可能エネルギーでつくった電気を電力会社に買い取らせ、費用を一般の電気料金に上乗せする固定価格買取制度(FIT)などで排出削減を促す考えだ。
だが、CCSの実用化には相当の時間を要するし、環境税やFITは経済活動の重荷になってしまう。オーストラリアでは7月、環境税である「炭素税」の廃止法案が可決され、ドイツではFITによる電気代の高騰が問題となり、8月に買い取り価格の引き下げなど制度縮小に踏み切った。
原発をどうする
福島第1原発事故のあと世界的に一時、脱原発の機運が高まった。しかし、政策によるCO2排出削減や国際協調のための交渉で手詰まり感が強まる中、頼りはやはり原発だとの見方は強くなっている。
「チェルノブイリ原発で起きた事故でさえ、化石燃料を燃やすことで地球が被るダメージとは比較にならない」。リベラルな論調の米紙ニューヨーク・タイムズは5月、こんな社説を掲載した。一方で同紙は「原発の危険性は現実のもの」とも指摘する。
原子力を必要とする世界に向け、福島第1原発事故からどのような教訓を引き出し、どう生かすかを示すことは日本の責務だ。同時に、温暖化対策での貢献も求められている。科学技術における倫理、CO2排出削減と災害対策、エネルギー政策と経済成長などすべてを一続きの課題として検討し、早急に答えを導き出さねばならない。
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