東埼玉病院 総合診療科ブログ

勉強会やカンファレンスでの話題、臨床以外での活動などについて書いていきます!

悪性腹水の治療について

2021-02-21 15:39:26 | 勉強会

今回は悪性腹水の治療について調べてみました。がん末期の方の緩和ケアではしばしば遭遇するプロブレムですが思った以上に治療に関するエビデンスが乏しいと感じました。腹水穿刺、CART、利尿剤について調べています。

  • 腹水穿刺

★Up to date

卵巣がん以外の悪性腹水に対する主な治療

(卵巣がんは外科的な腫瘍減量や化学療法が治療のオプションとなる)

ケースシリーズでは数Lの排液で約9割が症状改善

通常1~2週ごとに穿刺が必要となる

繰り返し穿刺が必要な場合は、カテーテル留置(ポート含む)も行われる(感染のリスクは低い)

★がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017(日本緩和医療学会)

2C(弱い推奨、弱い根拠に基づく)

観察研究のみ(計8件、主なものは下記)

①McNamaraらの報告

悪性腹水40名に単回穿刺。2h後の症状がスケール平均5.7→3.6に減少。(平均5.3L排液)

②Mercadanteらの報告

悪性腹水34名にCVカテで持続ドレナージ。留置期間:平均5.5日。最初の24hの平均腹水2.85L。前後で65%で腹部症状が改善。(スケール値は不明)

③Courtneyらの報告

悪性腹水34名に間欠的ドレナージ(1日1200~2000ml)

2週、8週後の腹部膨満感スコアが有意に改善

④Rossらの報告

悪性腹水104名に持続ドレナージ。最初の24hで平均3.5L。37.5%で腹部症状が緩和。

8件の報告全体での重篤な有害事象は2%(腹部の激痛、肺梗塞による死亡、輸血が必要な貧血、代謝性アシドーシス、重篤な低血圧、感染性腹膜炎)

重篤でない有害事象は20.4%(嘔吐、感染、めまい、脱力、低血圧、腹膜炎、カテーテル閉塞など)

以上より、根拠は不十分。想定される益と害の差は小さい。薬物に不応性、速やかな症状緩和が必要な際に患者の意向を確認して十分な説明のうえで施行。

(ドレナージ量は日本人で安全な量は不明。経験的に委員会の合意として1~3L)

★その他の文献

①Cochrane Database Syst Rev 2019(12)

Management of drainage for malignant ascites in gynaecological cancer.

婦人科がんの悪性腹水に対するドレナージに関するシステマティック・レビュー

RCTは1つだけ

腹水穿刺+catumaxomab vs 腹水穿刺のみを比較したRCTで高いバイアスのリスクがあった

婦人科がんの悪性腹水に対する適切なドレナージを推奨する根拠は不十分である

② Cancer Manag Res 2017;9

Drainage of malignant ascites: patient selection and perspectives.

悪性腹水に対する異なったドレナージ方法の効果、安全性、 patient-reported outcomes (PRO)を評価するシステマティック・レビュー

ほとんどの患者はドレナージ後に症状改善。

19.7%(255/1297名)が有害事象あり。6.2%が重篤。

単回穿刺やCVカテでは有害事象少ない(単回穿刺では有害事象5.5%、重篤な事象4.4%) シャントで多い。

(単回穿刺は持続と比べて低血圧や腎障害多い)

 

  • CART(腹水濾過濃縮再静注法)

★ Up to date

記載なし

★がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017(日本緩和医療学会)

エビデンスが不足しているため結論できない

観察研究3件のみ

①Itoらの報告

悪性腹水37名の前向き観察研究。治療後24h以内の腹部膨満感のNRSは7.19→3.18

②加藤らの報告

悪性腹水27名のうち96%で食欲不振の改善あり。

③植田らの報告

婦人科がんによる悪性腹水20名に延べ51回CART施行。腹部膨満感84.4%で改善。1週間以内に腹水穿刺が必要となる症例は全体の25.5%。重篤な有害事象はないが、半数近くで有害事象あり(発熱35%、悪寒戦慄19%など)。

★その他の文献

Support Care Cancer 2018 ;26(5)

Efficacy and safety of reinfusion of concentrated ascitic fluid for malignant ascites: a concept-proof study.

悪性腹水51名に延べ104回CART施行。次の腹水穿刺までの期間は中央値27日(95%CI:21-35)。血性腹水、腹水WBC数、血清TP、リンパ球比率が規定因子。

腹部症状は全て有意に改善。GRADE3(入院期間の延長を要するような)低血圧1例あり。微熱が5%にあり。

 

  • 利尿剤

★ Up to date

一部の患者においては有効であるかもしれない(特に門脈圧亢進がある患者)。

RCTはない。

悪性腹水に対して61%の臨床医が利尿剤を処方するが、効果があると思っているのは45%との調査あり。

★がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン2017(日本緩和医療学会)

2D(弱い推奨、弱い根拠に基づく)

比較試験なく、症例数が少ないケースシリーズ3件のみ

★その他

利尿剤はケースの4割程度で症状を改善する

                                                 World J Gastrointest Surg 2012 ; 4(4)


特定健診(メタボ健診)の効果について

2021-01-13 19:31:17 | 勉強会

 調べてみて、特定健診の本来の目的自体の効果は懐疑的な面もあるかなと思いました。政策としては効果的な健診という意味で見直しも検討しなくてはいけないのかもしれませんね。ただし、実際に臨床をしている立場としては、より個別にどう対応していくかが重要であるなと感じました。健診の面談の中で喫煙のことや運動のことに触れたり、治療が必要な疾患に介入するきっかけになったりすることもあります。また有効ながん検診をすすめる機会となることもあります。これは本来の特定健診そのものの目的ではありませんが、健康増進という意味では意義があるかもしれません。特定健診の副次的な効果を臨床医としては追い求めて、受診者と接する必要があると再自覚しました。


宿便の合併症や予後

2020-12-05 17:40:20 | 勉強会

施設の高齢者などで重度の宿便(fecalomaというらしい)に遭遇することがあります。時に、それによる嘔吐やイレウス、尿路感染症の合併などをきたすことがあります。高齢者では「たかが便」とは言えないような合併症をきたすことがあり、注意が必要だなと思い、今回調べてみました。


セレコキシブにPPIは併用した方がよいか

2020-09-29 19:54:51 | 勉強会

最近、患者さんのエピソードを通じてカンファレンスで話題になったので、「セレコキシブにPPIを併用した方がよいか」について調べてみました。セレコキシブはCOX-2選択阻害薬で他のNSAIDSと比較して消化管合併症が少ないため、使用することも多いくすりです。他のNSAIDSの場合、PPI併用した方がよいわけですが、セレコキシブでもPPIはルーチンで併用するのがよいのか、もしくはどのような人には併用した方がよいのか疑問に思い調べています。

 

<セレコキシブにPPIは併用した方がよいか>

  • 消化性潰瘍ガイドライン(2015年) 

潰瘍既往歴がある患者は潰瘍発生予防治療を行うことを推奨する(A

 潰瘍既往歴がある患者はCOX-2選択阻害薬で3.7~24.1%の潰瘍発生の報告あり、他のNSAIDSと同等

潰瘍既往歴ない患者は潰瘍発生予防治療を行わないことを推奨する(A

Feng GSらの報告(World J Gastroenterol 2008)が根拠

  • Feng GSらの報告(World J Gastroenterol 2008)

Celecoxib-related gastroduodenal ulcer and cardiovascular events in a randomized trial for gastric cancer prevention.

対象:高度萎縮性胃炎や腸上皮化成や異形成のある中国人1024名(35~64歳)

介入:セレコキシブ200㎎1日2回とプラセボ、1.5年までフォロー(2重盲検RCT)

結果:胃十二指腸潰瘍の発症率はそれぞれ3.72%と3.31%で有意差なし、心血管イベントに関しても有意差なし

自分の解釈⇒対象患者としては偏りあるか(もともと胃がんの予防に関して調べた研究のため?)、また比較的若年の患者を対象としている 高齢者では?

 

ということで、さらに文献を調べてみました。

  • FKL Chanらの報告(Gastroenterology 2007)

対象:NSAIDS関連の潰瘍による出血で入院した287名を無作為割り付け(潰瘍が治癒し、ピロリ菌陰性を確認して登録)

介入:セレコキシブ200mgを1日2回、または徐放性ジクロフェナク75mgを1日2回+オメプラゾール20mgを1日1回 

6か月追跡し、症状がでたら内視鏡、なければ最後に内視鏡で確認

主要アウトカム:上部消化管合併症の再発

結果:セレコキシブ群18.7%、併用群25.6%に発生で有意差なし(P=0.21)

  • FKL Chanらの報告(Lancet 2007)

対象:上部消化管出血で入院した、関節炎に対して非選択性NSAIDSを内服していた441名を無作為割り付け

(潰瘍が治癒し、ピロリ菌陰性を確認して登録)

介入:セレコキシブ200mg1日2回に、エソメプラゾール20㎎1日2回併用群とプラセボ群 12か月追跡

主要エンドポイント:出血性潰瘍の再発

結果:主要エンドポイントの発生はPPI併用群0、プラセボ群8.9%で有意差あり

結論:出血性潰瘍のリスクが高いがNSAIDSを必要とする患者においては、COX-2阻害薬とPPIの併用がよい

 

この2つの論文からは・・・

出血性潰瘍の既往がある場合でも、上部消化管イベントに関して、セレコキシブはPPI+NSAIDSと同等の予防効果がある

さらにセレコキシブにPPIを併用するとより予防効果がある

費用対効果は不明であるが、出血性潰瘍の既往があるがNSAIDSを使用しなくてはならない場合においてはPPI併用したほうがよいか

 

さらに・・・

  • E Rahmeらの報告( Arthritis Rheum 2007)

Do proton-pump inhibitors confer additional gastrointestinal protection in patients given celecoxib?

ヘルスサービスのデータベースを使用して、1999年4月~2002年12月にセレコキシブか非選択性NSAIDSを処方された患者を対象にした過去起点コホート

セレコキシブ単独(1161508名)より、セレコキシブ+PPI(360799名)の方が上部消化管疾患による入院は有意に少なかった(HR:0.69)

サブグループ解析すると、PPI併用は75歳以上で利益があったが、66-74歳では有意差なかった。

結論:75歳以上ではセレコキシブにPPI併用した方がよいだろう。 66-74歳では必ずしも必要ないであろう。

・まとめ

出血性潰瘍の既往がある患者や75歳以上においては、セレコキシブにPPIを併用した方がよいかもしれない

(ただし、PPIの副作用や費用対効果も考慮したうえで処方する必要があると思いました。)

 


心不全に対するフロセミド皮下注について

2020-08-23 22:37:31 | 勉強会

ある緩和ケアのWEB勉強会に参加した際に、心不全の緩和ケアのトピックスの1つとしてフロセミドの皮下注の話が出てきました。

フロセミドの皮下注がある程度心不全に効果があるようであれば、日常診療の選択肢の幅が広がるなあと思い、今回調べてみました。

  • Arun K Vermaらの報告(Ann Pharmacother 2004)

12名の健康なボランティアを対象とした2重盲検のクロスオーバーRCT

フロセミド20㎎皮下注群とプラセボ群で尿量を比較

(飲水量と食事量はコントロールされた)

尿量やNa利尿は、皮下注群で有意に多かった

結論:フロセミドの経口・静注が望ましくない時、利用できない時に選択肢となりえる。他の様々な対象での確認が必要である。

  • Hannah Zachariasらの報告(Palliat Med 2011)

32名の進行した心不全の患者に対してフロセミド持続皮下注を行った43のエピソードを後ろ向きにレビュー

28エピソードは入院回避のため、15エピソードは死にゆく人の症状予防のため

26/28で入院回避でき、20/28で体重減少を認めた(中央値-5.6kg)

15エピソード全てで症状コントロールできた

フロセミドの量は40~250㎎/日

投与日数は10.5日(中央値)

10/43で留置部の反応があったが2例を除いて軽度であった

結論:進行した心不全患者に対してフロセミドの持続皮下注は入院回避や体重減少に関して効果があるのではないか

  • Zatarain-Nicolasらの報告(Rev Esp Cardiol 2013)

非代償性心不全患者24名にフロセミド皮下注を行った41のエピソードを解析(外来セッティング)

治療の効果は体重減少で評価した

患者の平均年齢は75歳、NYHAⅢ~Ⅳが93%

皮下注の平均量は146㎎/日、投与日数は平均9日

介入後に、有意に体重が減少したが、Cre、Na、Kの有意な変化はなかった

患者の61%がNYHAのclassが改善、36%が変化なく、2%が悪化

結論:フロセミド持続皮下注は、忍容性があり、入院を回避するためや医療コスト削減に有用であると考えられる。

  • Domenic A Sicaらの報告 (JACC Basic Transl Sci. 2018)

フロセミドのPHを低くして(9程度⇒7.4)、皮膚への刺激を少なくして行った2つの調査、経口でフロセミド内服している心不全患者を対象

①10名を対象としたクロスオーバーRCT

経口群(80㎎内服)と皮下注群(最初30㎎/h、その後4hで50㎎:計80㎎)で薬物動態を調査

⇒皮下注群は30分以内に治療域に達し、5h維持

②16名を対象としたクロスオーバーRCT

静注群(最初40㎎、2h後に40㎎)と皮下注群(最初30㎎/h、その後4hで50㎎)で薬物動態と尿量、Na利尿を調査

⇒皮下注群は30分以内に治療域に達し、5h維持

絶対的バイオアベイラビリティは99.65%であった

尿量、Na利尿は静注群と同様の効果であった

①②とも局所の皮膚反応も問題となる事象はなかった

  • Nisha A Gilotraらの報告(JACC Heart Fail 2018)

心不全が増悪している外来患者を対象としたRCT

19例が静注群(IV群)、21例が皮下注群(SC群)

IV群:平均量123㎎(±47㎎)、SC群:5hで80㎎(固定)

1次アウトカム:6hの尿量は有意差なし

         (IV群:平均1425ml、SC群1350ml)

2次アウトカム:平均の体重減少は有意差なし

      (IV群:平均-1.5±1.1kg、SC群-1.5±1.2kg)

         Na利尿はSC群で多い

結論:フロセミドの静注と皮下注で尿量の有意差は認めなかった。自宅での治療として許容されるかもしれないが、さらなる調査が必要。

 

まとめ

  • フロセミド皮下注の効果は望めそうである。
  • しかし、フロセミド皮下注が静注と同等の効果があるかを判断するには、エビデンスはまだ不足している。
  • 静注で治療可能な状況のときは、静注での治療が望ましいと思われる。
  • ただし、静注での治療が困難な場合(末梢ルート困難であるがCV挿入するような状況ではないなど)や自宅での治療を希望した場合には選択肢となりえるのではないか。
  • (PH調整されていない場合は)皮下注刺入部の皮膚反応には注意が必要。