はちみつブンブンのブログ(伝統・東洋医学の部屋・鍼灸・漢方・養生・江戸時代の医学・貝原益軒・本居宣長・徒然草・兼好法師)

伝統医学・東洋医学の部屋・鍼灸・漢方・養生・江戸時代の医学・貝原益軒・本居宣長・徒然草・兼好法師・・

No.63 幻肢と治療

2008-12-13 21:13:40 | 幻肢痛など

幻肢の報告は戦争があると増えるような印象があります。30年戦争の只中でのデカルト、普仏戦争後のベルクソンや第二次世界大戦後のメルロ・ポンティなど戦争というものは幻肢に言及した哲学者たちにも影響を与えているかもしれません。


それは戦争が起こると手足を切断された患者さんが増えるからかもしれません。軍事病院からの幻肢の報告がイラクの戦争以来目に付くようになりました。人類の文明が発達するとともに地雷やミサイルなどの兵器も発達してきました。不祥の器による悲劇はさけたいものです。


「文明。それに比べれば、死はさしたることではない。われわれは星に向かって消えた音楽である」(サンテグジュペリ『手帖』より)


私たちの幸せや安全のために生み出されたものが時には私たちの犠牲を求めるようです。このジレンマはどのように解消すれば良いのでしょうか。


さて幻肢の治療の続きです。医療機関では薬物療法が一般的です。しかしその治療を受けていた患者さんのうち一部から、より効果の高かった治療法があったという報告があります。それは気晴らしやリラックスすることです。(註1)


また高周波パルス療法も幻肢痛に効果があるようですね。複数の治療が無効であった幻肢の患者さんにそれを行ったところ、薬を止めても長期的に痛みから解放されているとの報告がありました。(註2)


ラマチャンドラン博士の鏡を使った幻肢の治療は興味深いですね。患者さんの右手と、切断され今はもうない左手(しかし無いはずの痛みに悩まされている)の間に鏡を置いて、右手とその鏡に映っている(あたかも左手のように見える)右手を見ながら両手を動かそうと試みます。すると左手の感覚がよみがえり、数週間後には幻肢痛が消失したという話があります。(註3)


まだ他にも治療法はありますが、その多様性は不思議なものですね。身体の一部を失ったという、免疫や代謝性疾患と比べると単純に見えるものにも個人差が存在し、その人にはどんな治療法が合っているのかはやってみるまでは判らないのですから。治療にはいろいろありますが、その価値とか意味というものは人によって異なるようですね。自然環境における生態系であれ、生命の体内環境であれ、生命の治療であれそれらを成り立たせている鍵は「多様性の維持」かもしれません。


しかしながら医学界、鍼灸医学の世界には別の考え方もあります。それは医療者がそれぞれいろいろな治療を行うことは安全性や信頼性を失うので、治療法はマニュアル的に統一したほうが良いというようなものです。


それはさて置き、どうしてこれらの治療は幻肢痛に効果があるのでしょうか。全てを同時に説明することははたして可能なのでしょうか。


(註1)Ketz AK."The experience of phantom limb pain in patients with combat-related traumatic amputations."Landstuhl Regional Medical Center, Landstuhl, Germany. Archives Physical Medicine and Rehabilitation. 2008 Jun;89(6):1127-32.


(註2)Wilkes D, Ganceres N, Solanki D, Hayes M."Pulsed radiofrequency treatment of lower extremity phantom limb pain."Department of Anesthesiology and Pain Management, University of Texas Medical Branch, Galveston, TX 77555, USA. Clinical Journal of Pain. 2008 Oct;24(8):736-9.


(註3)V.S.ラマチャンドラン『脳の中の幽霊』より


(ムガク)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿