ハーベスト・タイム『収穫の時』

毎月発行の月刊紙『収穫のとき』掲載の聖書のお話など。

グリーフ・ワーク - 悲しみを癒す作業 -

2008-04-10 | 番組ゲストのお話
グリーフ・ワーク—悲しみを癒す作業—     

ヒーリング&リカバリーインスティテュート水澤都加佐 横浜カウンセリングオフィス
水澤 都加佐

【水澤都加佐 みずさわつかさ】
 学習院大学卒、日本社会事業大学研究科修了。一九七五年より米国の諸施設や研究所において、アディクション問題へのアプローチ、家族問題プログラム、集団療法などに関するトレーニングを受ける。神奈川県立精神医療センターせりがや病院心理相談科長をへて、一九九四年四月より、(株)アスク・ヒューマン・ケア取締役研修相談センター所長。二〇〇五年四月に横浜に「ヒーリング&リカバリーインスティテュート」を開設。アルコール薬物問題全国市民協会(アスク)副代表。著書には『もえつきの処方箋』、『もちきれない荷物をかかえたあなたへ』、『子どもを生きればおとなになれる』など多数あり。

先生のところに持ち込まれる相談にはどのようなものがありますか。
家族関係、うつ、アディクション(依存症)、漠然とした生きにくさ、などを抱えた方々が来られます。いわゆるアダルト・チャイルドも相当数おられます。また、深い悲しみを抱えた方々も多いです。

グリーフ(悲しみ)からの回復を必要とする方々の割合はどの程度ですか。
グリーフとは、何か大切なもの、人、状況などを喪失することによって生ずる深い悲しみを指します。ここにおいでになる方々は、ご自分ではそのことに気がついていない方が多いのですが、お話をお聞きすると、すべてといってよいほどこのグリーフの課題を抱えておいでになります。その方々は、グリーフが癒されてないために起こる問題で苦しんでいると言っていいと思います。

『すばらしい悲しみ(Good Grief)』を翻訳しようとした意図はなんでしょうか。
まず、喪失体験による深い悲しみが癒されないまま、そのつらさをマヒさせようとして不健康な、機能不全な行動をしてしまう方が多いという現実があります。過度の飲酒、服薬、ギャンブル、浪費などをする、あるいは、私は強いんだ、なんでもないんだと、強がって生きる、悲しみに打ちのめされて生きる、再び悲しまなければならないような出来事が起こるのではないかと恐怖感を持って生きる、罪悪感を持って生きるなどです。癒されていないグリーフは、体、心、思考力、行動、そして周囲とのつながりに悪影響を与えます。
 そうした方々のために、何か指針となるような本が必要だと長いあいだ求めておりました。また。最近は、ヒーリングという言葉があちこちで使われ、中には占いまがいのものや、高額な支払いを求められるものがあったりして、危惧しておりました。
 一方、信仰をお持ちの方々の中に、その信仰ゆえに深い悲しみをどなたかに打ち明けることもなく、内面に抱え込んでしまったり、悲しみが癒されないのは自分の信仰が足りないせいだと思ってしまう方が多いことにも気がつきました。
 そうしたなかで出会った本が『Good Grief』でした。はじめは、この「Good」の意味に迷いましたが、読みすすんでいく中で、悲しみには意味があること、本来の信仰が誤って人々の心に伝えられ受け止められていることに気がつきました。そこで翻訳をしたいと考えた次第です。

グリーフからの回復に関する誤解について教えてください。
よくある誤解は次のようなものです。
(1)時がすべてを解決します。
(2)自分の感情は葬って、なにかに集中しましょう。
(3)一人で悲しみを受け入れましょう。
(4)失ったものの代わりを見つけましょう。
(5)喪失を招いた過去を後悔しましょう。
(6)いつまでも悲しんでいるのは、大人気ない。
(7)信仰心が強ければ、悲しみはすぐに癒されるはずだ。
(8)世の中にはもっと大変な人たちがいるのだから…。

グリーフからの回復にみられるプロセスとはどのようなものですか。
何か大きな喪失を体験すると、普通はじめに生ずるのはショックです。そしてその喪失を否認します。そして次に怒りが出てきます。その後、ああしておけばよかった、こうしておけばこうはならなかった、なぜ私はこうしなかったのだろう、などと、心の中でやり取り、駆け引きをします。そして次に孤立感を味わい、落ち込み、次第に喪失の事実を受け入れられるようになります。そしてグリーフの回復の最終段階では、元気を取り戻し、喪失を受け入れ、その喪失を前提にした新たな人生を生きるようになります。元の生活に戻るというよりは、新たな人生に出会います。その時点では、大きな喪失に、何か重要な意味があったことに気づかされるものです。
 人生とは出会いと喪失の繰り返し。悲しみは残念ですが、新たな出会いがあるものです。