メルケル独首相の個人的な招待で昨日からキャメロン英首相一家がベルリンの北にある18世紀の古城で週末を過ごしている。今回、キャメロン首相はサマンサ夫人のみならず3人の子供も同伴しているということで首相の訪問としては異例であり、両首脳の間では、EU改革、G8(今年は英国が議長国)の事前調整およびシリア情勢、などが話し合われるとみられている。ただ、この訪問が、サッチャー元首相の逝去を受けて、キャメロン首相がフランスのホランド大統領との面談をキャンセルした直後であるというのもキャメロン首相がいかにメルケル首相との関係を重視しているかがうかがえる。
特に、EU改革では、キャメロン首相が既に議会で公約している通り、次回の総選挙で保守党が勝利すれば、英国のEU加盟の可否についての国民投票を行う事にしており、それを英国保守党の公約に盛り込むにあたっては、キャメロン首相が主張しているEUの柔軟さ(加盟国に権限を復帰させる)についてドイツの支援をとりつけたいところである。一方、メルケル首相としても国内にEU懐疑派をかかえていることから、英国の動向は気になるところであり、さらに今年夏にはドイツの総選挙結果では、EU懐疑派が勢いを増す恐れもある。こんな中で、キャメロン首相としては、メルケル首相からの招待を奇禍として、ドイツの本音を探りたいところだろう。
おりしも、(同様に財政危機に瀕している)アイルランドのダブリンで今日開催されたEU蔵相会議でキプロス向け100億ユーロの支援が承認された。しかし、キプロスが銀行救済に必要とする資金は当初の見込みである175億ユーロではなく230億ユーロにのぼるものとなっている模様で、追加必要資金55億ユーロはキプロス自身でねん出しなければならない。EUはこれ以上の支援は困難であり、それでなくても加盟国の中にはロシアの新興財閥のマネーロンダリングに利用されてきたキプロスの銀行救済には否定的な気運がある。キプロスが増加分を更なる緊縮財政でねん出しようとすれば、キプロス経済が崩壊することは明らかだろう。
さらに、憲法も裁判所が違憲判決をだしたポルトガルの緊縮策を巡ってポルトガルでは一部有力政治家が債務不履行宣言も辞さないと主張しているようだ。もしそうなれば、ポルトガルのユーロ離脱は必至となる。仮に、すべて予定通り上手くいったとしても、EUからの緊急融資を期日どうりに返済することは不可能で、7年程度の期限延長が必要になってきている。この期限延長についてもドイツ議会での論戦が予想され、すんなりと通るものではない。EUからの緊急融資の期限延長はアイルランドもポルトガルと同じ状況にある。
このような状況下、EU主要国の中で比較的財政が安定しているイギリスとドイツであるが、いつまでも加盟国の支援を続けることはできないだろう。キャメロン首相とメルケル首相がMeseberg の古城でどのような方向性を見出すか、興味のあるところである。