先日の家の外壁塗装で思い出したのだが、この家を新築した時に買ったのがパイオニア製のステレオセットだった。1970年代、ステレオセットというとまだ家具の一部のようなもので、重厚で木目調、と言ったふうに随分大柄だった。勿論、そこにはレコードをかけるためのレコードプレイヤーもあった。応接間においてあったそのセットはいつの間にか処分されて、大きなスピーカーのあったところには代わりに飾り棚が鎮座している。
取り扱いが簡単で小さく、それでいて忠実な再現性のあるCDに押されて一時期はすっかり廃れてしまったように思われたLPレコード。買いためたLPレコードは場所を取るし引っ越しの際にも荷物になったが、どうしても処分する気になれずに随分と長い間書斎の奥に眠っていた。家電量販店でも、マニア向けの高額なものはともかく、一般向けのレコードプレイヤーはわずかに。特に最近では音楽はダウンロードして聴くもの、になってCDすら時代遅れになったような感じがする。
しかしここ数年、レコードの復権なのか、さほど高価でないレコードプレイヤーが登場してきたので思い切って3万円ほどのソニー製を買ってみた。特に用のない日曜日の午後、眠っていたLPレコードの中から見つけたのが、カラヤン指揮のベルリンフィルとラザール・ベルマンによる、誰もが知っているチャイコフスキーのピアノ協奏曲第一番。今から49年前、1975年の録音。何度も聞いたはずだが今回聴いてみると特に傷んでもおらず、雑音もなく、むしろレコードだと思うせいかしっとりとした柔らかい音色で耳に心地よかった。
二人ともとうにこの世を去っているが、音楽はいつまでも残る。ベルマンといえば、彼のデビュー盤ともいえるリストの『超絶技巧練習曲』に驚愕したカラヤンにギレリスが言った「リヒテルと私のふたりが、4本の手で対抗しても勝てそうにないピアニスト」というコメントが思い出される。カラヤンの指揮を最後に見たのは、1984年、ザルツブルグ音楽祭(オーストリアの銀行に勤める友人からの招待で切符が手に入った)での「ばらの騎士」。老齢のせいか、その時のカーテンコールで少しよろめきながら出てきた彼の姿が印象的だった。