気紛れ書評

かなり偏りがありますが、それでもよろしければ・・・

顔のない裸体たち

2007-03-25 21:05:06 | 男性著者
著者:平野 啓一郎
出版社: 新潮社 (2006/3/29)


ネット上においての個のあり様がテーマなんでしょうけど・・・

2006年に出されたにしては、今更なテーマな気もする。

「私」とネット上でハンドルネームを持つ「ワタシ」とでは
同じであって同じでない。社会で生きてる「私」では表現できない一面を
表現できるのが「ワタシ」。その「ワタシ」は不特定多数の世界中の人間に
ポチっと一押しで発信され、閲覧される。
というようなことを、うまく自覚できないうえに
人間関係の機微もよく分からないまっま大人になった女が陥った事件をもとに
その怖さを伝えたい
って主旨なんでしょうか。。

女と男の子供の頃からの事実を追って
事件に至るまでの背景を描いていますが
事件が起きてしまった事について肯定的な流れになっているのが気になります。
特に女側に。

小説なら分かるんですが、こういう随筆みたいなルポみたいな本として扱うと
その肯定が陳腐に感じます。
しかも「顔」と「裸体」が一致していない、的な分析がしつこい。
いくら長々と書いても、キレイにはまとまらないからさ・・・
まだ続くの?またですか?と感じてしまいます。全体を通して。

警告的にしたいのなら、もっと別の書き方もあったし
もう少し、ネットでの個人のあり方について
裸体を抜きにした意見を述べて文章を繋いだ方が説得力があったかな。
何の為に書いたのかよく分からない。

この本を読んだ感想は
ネット上では何でもできちゃうから犯罪ギリギリ(てか軽犯罪)のこともへっちゃらで
でも歯止めが利かないし、自分でも境界線が分からないから
勘違いが進んで犯罪まで行っちゃう事もあるけど
仕方ない面もあるよね~ってことが言いたいように感じるけど、いいの?
しかもエロネタで釣ってるように見えますが。あまりにも安すぎない?
です。

かなり期待はずれでした。
やっぱり小説だけ書いてて欲しい。

レンタルお姉さん

2006-12-11 23:27:31 | 男性著者
著者:荒川 龍
出版社:東洋経済新報社 (2006/05)


面白い名前の仕事があるもんだ。

ニートを外へ引き出す支援をする団体の
ニートと直接対話する女性を「レンタルお姉さん」と呼ぶそうだ。
もちろん「レンタルお兄さん」もいる。


実際、手にしたときは

仰々しく社会問題を語って脅しておきながら
ニートとの触れ合いを美化して
むしろニートそのものも美化しちゃって
お姉さんたちはボランティアボランティアした精神にあふれて
私たちはすばらしい活動をしているんだ!!
・・・自己満足
最後にはニートの問題なんてどうでも良くなっちゃったり。。。

みたいな、よくあるガッカリな本なのでは?と思ったが
とりあえず目次を読んでみて、大丈夫そうな雰囲気だったので中身を読んだ。

お姉さんたちはクライアントの友達になってあげるわけではない。
親になるのでもなく先生になるのでもない。
ただのボランティアごっこでもないし、自己満足でもない。
「第三者のお姉さん」の仕事をして対価をもらう、プロだ。

そのプロとしての仕事ぶりと現実のニートの様子が
大げさに描かれる訳でもなく、著者の思想をぶつけるわけでもなく
事実をそのまま記録している感じだ。
クライアントが部屋から出て、共同生活を始める決意をするまでのことが書かれているが
その後ちゃんと社会復帰できるのか?というところは、ちょっと読み手としては気になる。
でも、実際お姉さんの仕事は引き出すまでが仕事。
なのでその先のことまでは追っていない。
そのあたりも、レンタルお姉さんに視点を絞っている姿勢がみえるところで好感が持てる。


文章的には少し読み難いところもあって、私としては不快な部分もあったが
小説ではないし、内容はいいと思うので
ヨシとしたい。

診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界

2006-09-01 22:06:41 | 男性著者
著者:大平 健
出版社: 早川書房 (1994/06)

童話を患者さんに読ませての治療の過程を描いています。
なんとなく読んでしまうとなんとなく終わってしまう作品。
精神科の患者さんの治療という、ホントは理解するのが難しい話題なのに
誰でも知っている童話を元に話が進むことと
著者が難解な文章を使わずに描いていることで、すんなり理解することができる。
けど、そのまますんなり読んでしまうだけではもったいないなぁと。。。
ホントに数時間で読めてしまいますから。

童話によってどのように患者が自分の現状を把握するか、原因を見つけられるか、解決策に気付くか…
なんとなく読んでいると、とてもスムーズに治療が行われているかのように思いますが
実は一人の患者が糸口を見つけるまでには時間がかかっていることがわかります。
このへんは、やはりちゃんと現実に治療をしていた記録なんだなぁと感じます。

私はこの本を、謎解きをするように
患者の立場と医者の思惑と童話の内容とを考えて解決の過程を予想したり
登場する患者や家族とともに童話を読み、自分を整理していくプロセスを共有したりして
何度か読んでいます。

もちろん心理療法はこれだけではありませんが
心理系未経験で興味がある人に、この本はきっかけとしておすすめです。