気紛れ書評

かなり偏りがありますが、それでもよろしければ・・・

夏と花火と私の死体

2006-09-17 18:31:53 | 小説(国内)
著者:乙一
出版社: 集英社 (2000/05)

過ぎてしまった夏を惜しんで、こんな時期にホラーです。

著者の作品で一番初めに呼んだのは『平面いぬ。』だったと思います。
今回デビュー作を読んでみて、平面いぬ。を読んで想像していた彼の印象と
少々違ってびっくりしました。

確かにどちらもゾクっとするような話ですが
平面いぬ。は怖さよりも不可思議さ、夏と花火と・・・は現実的な恐ろしさと二転三転の展開の怖さ
「怖い」の種類が違うので、いろいろな書き方をするんだなぁと思いました。

基本的にはどちらもいいとは思いますが
作風としては平面いぬ。のほうが私は好きです。
(もともとホラーはあまり読まないので)
夏と花火と・・・のほうがゾクゾクする。


二つの作品が入っています。
『夏と花火と私の死体』と『優子』
この二つとも、面白い作品です。
前者の方は、登場人物の緑の描き方が、話が読めてしまってなんだか・・・とは思いますが
犯人探しやトリック暴きといった類の小説ではないのではないかと思い
特に気になる程でもないので目をつぶります。
語り手が死体であるところも、面白いのですが中盤は不自然な感じです。

後者は、初めは結構よくある話かな?と思いきや最後は・・・という感じです。


秋の涼しい夜に、更に涼しくなるのもよいかも知れません。

ウェルカム・ホーム!

2006-09-12 23:05:43 | 小説(国内)
著者 :鷺沢 萠
出版社: 新潮社 (2004/3/17)

著者も私が以前から好きだった作家です。
デビュー作から完成された文章を書かれており
力加減が好きでした。

この作品はフツーの家庭ではない空間を持つ人たちの話。

フツーじゃないから・・・
もしフツーだったら・・・

このあとに続くそれぞれの想い。
怒りやあきらめ、やるせなさ
好きで選んだわけじゃないけれど、でも。。。

そうは言ってもそれぞれちゃんと小さいシアワセを見つけられる
あたたかい話です。

二人分の話が入っています。
毅という居候のシュフの話と律子というバツ2のキャリアウーマンの話。
どちらも気付いたらフツーじゃなくなっちゃった人たちですが
どこか魅力ある主人公と、家族と呼んでもいい周りの人々のあたたかさ
それぞれ楽しめます。


次はどんな話を生み出してくれるのか。
著者の本を読むたびに、私はいつも楽しみにしていました。
でも、著者も若くして亡くなってしまい・・・残念です。
著者の文章の好きなところは
登場人物の会話や感情など、その時代の流行り言葉で書いたりしているのに
ちゃんと文章は純文学。不思議だけれどその配分が絶妙です。
微妙な年頃の主人公が悩み、なんとなく道を見つけるような話も
いくつか書かれていますが、決して説教くさくない。
状況や感情がリアル 等々
書き出したらキリがありません。
かえすがえす、残念でなりません。

著者の作品も、また読み返す折に感想を書きたいと思います。

向田邦子の手料理

2006-09-10 20:49:01 | 女性著者
監修・料理制作:向田和子
出版社: 講談社 (1989/05)

料理本です。

「私は向田邦子さんのファンです」
というのも恥ずかしいくらい、彼女の作品が好きです。
シナリオを読むのは、内容云々ではなく
読みものとして読むことがちょっと根気が要るので(私は)
小説の形式になっているものを好んで読んでいます。
(シナリオを元に、他の作家さんが小説に書き直したものは
なんとなく、一度も読んでいません)
エッセイも、普段はあまり読みませんが向田邦子さんの書かれたものは別。
自分でもおかしいと思うくらいの「好きっぷり」
今回は料理本ですので文章については語りませんが
今後、また今までの作品を読み返す時には、感想を書きたいと思います。


食べるのも作るのも大好きだったということはよく知られています。
この本には料理のレシピだけでなく
向田邦子さんに関わる方々の彼女と料理とのエピソードも書かれており
彼女の人柄や拘り・嗜好など、たくさん垣間見れます。

彼女の作品の中には食事や台所の場面や食べ物にまつわる話しがよく登場します。
料理の紹介とともに、それらの一節が引用されていますので
作品を思い出しながら、この料理をこんな感じで出して・・・など一人で想像してしまいます。

料理本としても完成されたものですが
向田邦子さんを愛する方々の読み物としても充分満足できるもので
さすがは30万部以上も売れたものだ、と納得。

しかしそれだけに、やはり彼女が居ない事が
彼女の新しい作品をもう見ることはできないのだということが残念でならない思いが
改めて胸にこみ上げてきます。
最後の、和子さんの言葉がグッときます。

実際、私は活躍されていた頃をリアルに生きていない世代
彼女の名前を一番最初に聞いた記憶は無くなったときのニュースでした。
仕方の無い頃ですが、同じ世代に生きていたかったなぁと思います。

好きな作家の新しい作品が生み出されるときに生きているって
気付かなかったけれど幸せなことだなぁと思います。
他にも好きな作家で亡くなってしまった方がたくさんいますが
同じように感じます。

作家への想いをちょっと語りすぎましたが、ホントに好きな方なのでお許し下さい。


同じ味は再現できないでしょうけれど
彼女の食卓や「ままや」に出されていた料理を
しばらく楽しみたいと思います。。。

八月の路上に捨てる

2006-09-04 22:12:50 | 小説(国内)
著者:伊藤 たかみ
出版社: 文藝春秋 (2006/8/26)

直木賞より芥川賞派の私ですので
まずはこの作品から手を出してみました。

読み始めが辛い・・・

最近あまり読みはじめに躓く本は無かったのだけれど
今回はなぜか進みが悪かったのです。

決して嫌味な文章でもないのだけれど
おそらく主人公の設定などがありふれたものだったので
私の先入観から脳にブレーキがかかったのではないかと思います。
なので短い作品にもかかわらず、途切れ途切れで読み進める。。。


全体的に程よくさらりと読みやすい文章。
やはりその点が物足りない。

私がイマイチと思ったのは、感情の説明が多いこと。
それなのに(それゆえか)宙に浮いてしまってるものや足りないモノがあるような。
大筋の内容は良いと思うのだけれど、抑えてくれるポイントが
私の好みとずれていたということでしょうか・・・
設定・背景から影響される心の動き、現実と行動と浮かんできそうなちょっと先の時間
こういうものがもう少し描写されていると
たとえサラッとした文章でも、もう少し好きになれたかも知れないです。

もう少し時間を置いて読み返してみたいと思います。
単行本にもう一つの作品が収録されています。
それも頑張って読みきらないと・・・

決しておもしろくない作品というわけではありません。

アキハバラ@DEEP(映画)

2006-09-01 22:32:32 | 原作vs映画・ドラマ
先週、小説を読み終わった直後に
この試写会へいってきました。

ページのしゃべりはどうなるんだ??とか
映画用に2時間くらいに縮めるのが難しそうな話だけど大丈夫か?とか
キャストたちカッコよすぎない・・・?とか思いながら挑みました。

中心にするエピソードや登場人物等、小説と映画とでは若干違いましたが
短時間でまとめるためには、それが正解だったのかも。
小説ファンとしては、みんなの出会いの部分ももっと時間をかけて欲しかったり
主人公たちの話ももっと観たいなぁと思ったりしてしまいますが
許容範囲内でしょうか。

個人的には映画オリジナルキャラの寺島しのぶと
失意のアキラが見つけた曲をバックに流れた富士純子の緋牡丹博徒の映像での
微妙に親子競演が好きでした。

アキバ系でなくても楽しめる度は小説より映画が勝つかな。
どっちも観ても変に片方にがっかりしない両作品です。


ドラマもあったらしいので、機会があったら観てみたいとは思いますが
キャスティングが映画とはまた雰囲気違う感じで
どっちに転ぶかわからなそうな感じ・・・

診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界

2006-09-01 22:06:41 | 男性著者
著者:大平 健
出版社: 早川書房 (1994/06)

童話を患者さんに読ませての治療の過程を描いています。
なんとなく読んでしまうとなんとなく終わってしまう作品。
精神科の患者さんの治療という、ホントは理解するのが難しい話題なのに
誰でも知っている童話を元に話が進むことと
著者が難解な文章を使わずに描いていることで、すんなり理解することができる。
けど、そのまますんなり読んでしまうだけではもったいないなぁと。。。
ホントに数時間で読めてしまいますから。

童話によってどのように患者が自分の現状を把握するか、原因を見つけられるか、解決策に気付くか…
なんとなく読んでいると、とてもスムーズに治療が行われているかのように思いますが
実は一人の患者が糸口を見つけるまでには時間がかかっていることがわかります。
このへんは、やはりちゃんと現実に治療をしていた記録なんだなぁと感じます。

私はこの本を、謎解きをするように
患者の立場と医者の思惑と童話の内容とを考えて解決の過程を予想したり
登場する患者や家族とともに童話を読み、自分を整理していくプロセスを共有したりして
何度か読んでいます。

もちろん心理療法はこれだけではありませんが
心理系未経験で興味がある人に、この本はきっかけとしておすすめです。

イン・ザ・プール

2006-09-01 11:25:19 | 小説(国内)
著者:奥田 英朗
出版社: 文藝春秋 (2002/05)

映画にもなったようだし、読んでみるか~と思って
今更ながら手にした本です。
(本当は自分の今の状況に一番近いのは『ガール』だったので
そっちを読もうかと思っていたのですが…)

内容は風変わり(というよりも、ちょっと危ない)な神経科医のところにやってくる
依存症や妄想癖の人々との話。
病気自体も現代の問題をモチーフにしていたりして、とっつきやすい。

そんなのあるわけ無いじゃん!と思うような病気もあり
それをちゃんとした治療なのかデタラメなのか分からないアドバイスで治療してゆくのが
面白さなのでしょう。
馬鹿かと思ったけど名医かもしれないと思わせるところが
読者の人気を呼ぶところなのか。

医者のキャラも患者のキャラも、やや意識して作りすぎかなぁとも思うが
軽く読む娯楽作品としてはちょうど良いのかもしれない。

シリーズ化されているらしいが
暇だったら読んでみようかな~というくらい。
私はもうちょっと文章が固めの方が好きかな・・・