A Diary

本と音楽についてのメモ

戦後イギリス小説のベスト10

2006-07-26 14:51:55 | イギリスの小説
戦後イギリスで発表された小説から、特に重要なもの、意義のあるもの、面白いものなどの観点からトップ10を挙げてみるとする。人によって何を選ぶかはいろいろだろう。僕なら次のような感じになる:

・イーヴリン・ウォー 『ブライヅヘッドふたたび』(1945)
・ジョージ・オーウェル 『1984年』(1949)
・ドリス・レッシング 『草は歌う』(1950)
・グレアム・グリーン 『情事の終わり』(1951)
・キングズリー・エイミス 『ラッキー・ジム』(1954)
・ウィリアム・ゴールディング 『蝿の王』(1954)
・アイリス・マードック 『鐘』(1958)
・ミュリエル・スパーク 『ミス・ブロウディの青春』(1961)
・アントニー・バージェス 『時計仕掛けのオレンジ』(1963)
・マーガレット・ドラブル 『碾臼』(1965)

年代順に挙げてみた。良い順とかではないので。するとウォーの『ブライヅヘッドふたたび』が一番上にくる。ウォーがここに入るべきかどうかは悩むところだった。『ブライヅヘッドふたたび』と並んで知られる本に『一握の塵』がある。この作品は1934年のもので、個人的にはこちらのほうが面白いような気がする。今回、「戦後」というくくりをつけたので、ウォーを取り上げるべきかどうかは考えるちょっとだけ必要があったが、個人的には好きな作家なのでトップ10に入選。ちなみに、彼の『囁きの霊園』(1948)も面白いし、翻訳されていないけど「Sword of Honour」という三部作もあって、これも戦後の作品。

おそらくジョージ・オーウェルを入れることに疑問を感じる人はいないと思うのだけど・・・なんて感じるのは僕だけかもしれないが。『1984年』ではなくて『動物農場』(1945)のほうを入れたほうが良いという人もいるかもしれない。また、彼の両作品がフィクションという観点から芸術的に価値があるかどうか・・・という疑問を感じる人がいるとしたら(確かに政治的社会的示唆に富んだ作品ではあるので)、彼の数あるエッセイを読んでみてと言いたい。非常に良質な散文。

ドリス・レッシングを入れるなら、他の人を入れたほうがいいという意見は、かなり的を得ていると言える。おそらく上の十作品のうちで、彼女の『草は歌う』の地位はかなり危うい。むしろ、アラン・シリトーやジョン・ファウルズ、ロレンス・ダレル、アンガス・ウィルソン、アントニー・パウエルの作品のほうがいいかもしれない。僕自身、多少女流作家ひいきのところはあるかもしれないが(そういう教育を受けたので)、それでも、エリザベス・ボウエンやフラン・オブライエン、アイヴィ・コンプトン=バーネットという大家たちがまだ控えている。それでもレッシングを入れたい理由は・・・1919年生まれながらまだご活躍中という点に敬意を表して。去年2005年にも新作が発表されている。

グレアム・グリーン・・・彼をこのリストから除外するのは難しい。あえて問題点を探すとしたら、イーヴリン・ウォー同様、戦前から活躍している作家という点。この二人を入れるなら、時期的にはジョイス・ケアリーとL.P.ハートレーも考えるに値する人たちだ。また、グリーンは非常に作品を書くのがうまいので、こういうときにどの本を選べばいいかとても迷ってしまう。晩年の作品『ヒューマン・ファクター』(1978)なんかも僕は好きだ。

戦後のイギリス小説史、いや、文学史・文化史を説明している本のうち、キングズリー・エイミスの『ラッキー・ジム』について言及しない本はない。もしあったら、その本のほうがおかしい。エポックメイキングというか、新たな時代の到来を告げるような作品なのだから。同様に、ゴールディングの『蝿の王』に言及しないような文学史の本もおかしい。ゴールディングの場合は、『蝿の王』という作品自体が非常に強烈な衝撃をはらんでいるせい。

グレアム・グリーン同様、アイリス・マードックもまた、こういうときにどれを代表作に選んだらよいか迷ってしまう作家。一般的には、初期の四作品、『網のなか』(1954)、『魅惑者から逃れて』(1956)、『砂の城』(1957)、『鐘』(1958)が良いとされているし、実際、この順番でだんだん面白くなっていく。でも、その後の作品も十分読ませるものだし、晩年の作品、たとえば『本をめぐる輪舞の果てに』(1987)もなかなか面白かった。とはいえ、僕はアイリス・マードックびいきなので、その点は差し引いてもらってかまわないけど。

アントニー・バージェスの『時計仕掛けのオレンジ』が有名なのは、キューブリックの映画のおかげであることは間違いない。でも、こういうふうにして知られるようになった本がトップ10に入っていたっていいと思うし。というか、この本は読むとなかなか興味深い。マーガレット・ドラブルはこのトップ10の中では実際に一番若い(1939生まれ)。デビューからしばらくは、ちょっと「流行作家」という感じがしていて、若い女性の本音の生き様を描く・・・みたいな作品傾向だけれども、現在では文壇で確固たる地位を占めている印象。イギリス文学界の大御所のひとり。

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そのうちまた別の機会に、イギリス文学の「20世紀ベスト10」とか、「20世紀女性作家によるベスト10」とか、「最近30年間のベスト10」とかをやってみたいなと思った。


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