2022年11月8日のまにら新聞から
11月8日のまにら新聞から
住みよい街は鉄道から JICAチェア アテネオ大と共同開催
JICAがアテネオ大と共同で第3回JICAチェアを開催。専門家の阿部朋子氏が講師に
国際協力機構(JICA)は5日、首都圏ケソン市アテネオ大の日本研究科と共同で、JICA技術協力プロジェクト専門家の阿部朋子氏を講師に、第3回JICAチェアを開催した。
開発コンサルタント会社「アルメックVPI」の海外事業本部総合計画部マネジャーである阿部氏は、これまでインドネシアやベトナム、モンゴル、スリランカなどの都市計画・街づくりに関わってきた。
特に、鉄道など公共交通の路線や駅周辺の開発計画を策定し、それを基盤により便利で暮らしよい街づくりを支援する公共交通指向型開発(TOD)についてレクチャー、フィリピンへの適応性にも言及した。
一般財団法人「運輸総合研究所」の評議員で、政策研究大学院大学客員教授の森地茂氏は日本の鉄道の歴史を紹介する映像の中で、明治維新を経て、封建主義から近代国家に移行した約150年のダイナミックな鉄道発展史を解説。維新翌年にはすでに計画が始まり、3年後に新橋~横浜間が開通していた。
森地氏によると、当時20~30代の約50人が加わった岩倉使節団が西欧から広範囲にわたる先進的な知識を吸収し、日本は外国人専門家約3千人を高給で招へいするなど、積極的かつ包括的な学習を深めていった。
当初、西欧各国が鉄道システムを売り込んだ結果、東京は英国式、九州はドイツ式、北海道は米国式に分かれたが、後に日本政府は鉄道伸張の過程で、日本式の統合を行っていったという。
▽関係者は多い方がよい
阿部氏はJICAが継続的な支援を行っている首都圏鉄道(MRT)や軽量高架鉄道(LRT)は、渋滞の緩和や空気の清浄化、省エネでも恩恵が期待されるとした。TODの意義は「単なる鉄道発展に留まらず、政府や民間、コミュニティーなど関係者を多く巻き込んで、統合的な都市発展に繋げていくこと」にあると語った。
阿部氏によると、米国の都市計画家ピーター・カルソップ氏によって1993年に概念化されたTODは、社会経済発展、環境の保護・改善にも取り入れられている。日本ではこの概念に沿って、駅など主要な公共交通機関の停車場から2千歩以内に、住民の生活ニーズを満たし、便利さを追求した都市づくりが進められてきた。
例として東京は、駅から半径800メートルの徒歩圏内での開発といった「集合体」で成り立つ都市だという。
また、日本の駅前の憩い空間であるプラザといった要素、民間の鉄道会社がデベロッパーの役割も担ってきたユニークな特徴についても紹介があった。
首都圏地下鉄の建設が行 われている比へのTOD適応について阿部氏は、路線上の新旧のビジネス地区や商業地区、「その間の区間における交通機関や都市活動に、計画性や統合的な側面は薄い」と課題を指摘。その上で鉄道開発によるTODとしての駅施設、プラザやバス停周り、駅内の商業促進から始まり、民間セクターによる駅ビルや周辺の商業開発、都市開発へと持ち込む段階的アプローチが提案された。
さらに、より短いスパンで取り組めるものに、駅周辺の歩道やサインボード、歩行者空間の確保や補助的交通機関やバスネットワーク、プラザなどの整備、交通安全教育、モビリティ管理などが挙げられた。
▽「文化は変えられる」
JICAフィリピン事務所の坂本威午所長は、国際経営開発研究所(IMD)の2022年世界競争力ランキングにおいて、比は64カ国中57位、域内では最下位との結果に触れた。
その上で、政府が積極的なイニシアチブを取っている比とTODとの関係性を強調した。比が海外5カ国目の坂本所長は、JICAインドの事務所長だった7年前、インド首都圏の地下鉄事業に「1日遅れで到着する」と揶揄されていた電車を平均数秒の遅れまで改善し、インド人が列に並ぶ光景を実現した、かつての実績を回想。「国ごとに異なる文化があり、日本での成功が他ではうまくいくとは限らないとの心配は理解できる」とした上で「ただ、私は楽観的だ。文化は変えられると信じている。特に若者はそれが容易だ。他国で経験を積んだJICAがそれを支援できる」と期待を込めた。
JICAチェアは、2018年に始まった「JICA開発大学院連携プログラム」の一環として、開発途上国の一流大学などを対象に「開発学をリードする国」としての日本の近代化の経験を、自国の発展に役立ててもらう上で、将来の知日派・親日派のリーダー育成を目指している。(岡田薫)
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