はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第四章 はびこる悪が(2) 

2016年05月22日 | 短歌
世渡り  93.2


0527 とざされた夜に光る星の位置 私の死ののちも変わることがない        
0528 地べたにすわり行きかう人の足もとにこの世を見つめる視座を置く
0529 安い靴といえ、安い背広といえ、私は私である。私の道を歩むしかない
0530 世渡りという綱渡りいくど落ちてもわたらねばならない向こう側
0531 ここに立つしかないとき酸性雨をあびてもの言わず倒れる大木がある
       




0532 雨で窓はくもったままあやふやなむこうに見えない老後がある  
0533 考え事をしている雨の日の、そうだこの雨は酸性雨で私の心は汚れていくのだ
0534 いく本もの線路が重なりあったり別れたりして、それでも一本の道をつくっていく
0535 青い青い麦畑にひばりが高く低くとぶ 酸性雨の降りやんだ朝です
0536 心弱げな犬の遠吠えがして夜明けには冷たい風が吹く
0537 若者の体格はもうアメリカ兵にも負けないと厚生省は統計をとります      
0538 しなやかな女を抱いている朝に戦闘機が傍らをかすめていく




青い空  93.2


0539 手のひらにうけている光りのやさしさ たしかに春がやってくる兆し      

0540 言えないことの一つや二つはあって、やはり名もない人間でしかないんだ

0541 ぽつんとまっしろな雲が浮かぶただそれだけのどこまでも青空




春だよ  93.3


0542 梅の花のなお 八分ばかりに開いて ははは ふふふうふふふふ       
0543 一つ大きく深呼吸をする まあたらしい空を吸いこんだ
0544 今朝渡る荒川の水はとうとうと私をつらぬいて流れていく     
0545 本日は晴天にしてどこまでも穏やかな真鶴の海が光っている         
(金丸代議士逮捕)
0546 脹ら脛が突然につって走る激痛に隠した百億円の使途は忘れた        




愛していますか  93.4


0547 さしだした指先の皮膚の温もりは青春の微かな名残りなんです        
0548 桜の道を娘と並んで歩く父親のコート ゆらゆら 笑っている
0549 得たものは多少の金銭、失くしたもの自尊心、捨てたもの 夢
0550 地に生える小さな草はペンペン草で、枯れることがない
0551 何もなしえずにこのまま消えていくとしたら せめて一人の女は愛さねば




0552 許しあい、認めあい、裏切らず、いとしみあって残された年月をあなたと生きる
0553 その一人への愛をもって生きるため私の庭に薔薇の花を植える
0554 身の置き所どこにもないとすれば 人より早く寝入るとするか四月
0555 陰暦二月とうに過ぎてもなお冬ごもりより這い出せぬ朝です          
0556 それでも遅れて咲く八重桜 いささか羨ましくもある坂道です




東 京  93.6


0557 白い紫陽花がブロック塀から顔をだしてよろよろ帰る私をみている      
0558 ローマ円形劇場を背に座る女のレモンスカッシュは夏の色である        
0559 いかに過ごすとも逃れられない死を迎えるなら遠く離れるか 東京
0560 誰もみな群衆の一人、または一点としてまぎれこんでこの街に浮浪する
0561 また老夫婦死んだこと気づかれないままと報じる記事、朝刊の隅にある






0562 つばめが東京の四角い空を飛ぶとき生きつづけることを考える         
0563 都会の雑踏を空から見下ろす鴉ほど強かな生き様ではないか
0564 雨がやんで凹凸に裁断された空がビルを押し退けて真っ青になる
0565 雨上がりに湧く巨大な雲と一緒に活気がもくもくと僕をつきあげる








夏のおわりに  93.8


0566 老人のかたわらで横たわるブルドッグ、細い目でにらみつけるなよ       
0567 刑事たちがとり囲こむ、うつむいて歩く角川春樹の黒いサングラス
0568 夏を台風が奪っていきためいきまじりに高曇る空である
0569 夏のおわりに魂をふるわすようにひぐらしがまた鳴き出した
0570 何事も疎ましくなるのは腹の脂肪がやる気を奪っていくんだ



秋の夜に  93.9


0571 わがままな人間かかえていれば地球もときには気も狂うわな        
0572 自動改札機にカチャリとふさがれて嘘じゃないの生きてるなんて      
0573 雲のなかに高層ビルがつつまれて顔よりきれいな脚をみている
0574 台風が去った、蝉がいっせいに鳴きだした、夕日が雲を赤く染めている
0575 へのへのもへじ田の案山子そんな目をしておれを見るなよ