はぐれの雑記帳

極めて個人的な日めくり雑記帳・ボケ防止用ブログです

歌集 色褪せた自画像 第四章  はびこる悪が (3)

2016年05月22日 | 歌集 色褪せた自画像
闇の深さに  93.9


0576 約束の時間が過ぎて、あなたは来ない、人混みのなか低く口笛を吹く      
0577 蝉しぐれ、陽のなかで、幾千の愛のことば、あなたの瞳、黒い海
0578 黒い闇にまぎれて強くキスをすれば木立ちのなか誰かがみている        
0579 手にはずむ乳房に口づけるとき埋没していく青春がある
0580 妻をすてる子をすてる、夢とおもえば過ぎてゆく夜の闇の深さよ


0581 苦いと思うキスがある、目をとじている女と逃げてしまうか
0582 逃げられるなら逃げてみろと二人の背中に覆いかぶさる月明かり
0583 森の木々は世間を遮断し、二人の密会をのぞいている上弦の月
0584 世間をはばかる偽善者の一人そっと忍びでるラブホテル








握りこぶし  93.9-10


0585 ころり往生するとしても、まだだよまだ、恋して愛してもっと笑って
0586 金がない金がないと呪文を唱え夢とうつつをさ迷っている
0587 ぼくの死に金をかけて値踏みする、たかだか某かの金ではあるけれど
0588 笑顔のきれいなおねいさんが僕の死を電卓で算定してくれている
0589 透明な秩序は闇にまぎれてあなたの脳裏につくられていく           

0590 どんよりと厚い雲が球体をつつみ夜明けに不安はたちどまる          
0591 恋に悲しむ娘ひとりぽつぽつと語る夜を受けきれぬ親にて           
0592 折れかけている花に手をそえる 子の心ひらかない夜の暗さに
0593 ひらひらと目の前を白い蝶がとびさって坂道を冬がのぼってくる
0594 くやしまぎれを言いながらにぎったこぶしはたしかに愚ーである         





まどろめば  93.10


0595 私らしさと言うに相応しいもの見つけづらく終わるばかりの草紅葉        
0596 埋葬される日は青空であってほしいと紅葉前線いま南下する
0597 戦争のない世界待つ日の夕暮れは海洋墓場の汚水きらきら
0598 一人安穏と暮らす私を夢にみたまま過ぎてはや十一月
0599 我という私の無責任な一生に彩りそえる山の紅葉

0600 気負いすてて浮かぶ雲の行方、もうろうと暮れてゆく秋
0601 蜉蝣の骨を透かせる秋の陽を背中にうけて墓を掘る
0602 まどろめる秋のひざしのあわあわとボスニアの銃声止むことがない        
0603 晴天というべき空を映して 放射能汚染の海水はちぢに流れる
0604 寂しいか寂しくないか明けの鴉よ 貧しくロシアの今日の背信





はびこる悪が  93.10 94年新短歌連盟「アンソロジー」


0605 ほうづきを鳴らして歩く幼子の未来明るくリビング・ウィズ・エイズ       
0606 摩天楼の空澄みわたる一日、選択定年の枠拡大されていく
0607 虚か実かはたまた迷う人生の啄木が書き残した怨嗟の手紙
0608 風邪熱の冷めぬ目に朦朧とソマリアあたりの空が反射している
0609 カンボジアに雨季の訪れ、電線に大きな鴉二羽舞い降りる

0610 思いもよらぬことの一つに政権交代の中国はたまた北朝鮮
0611 首切りの声が遠くより寒風に運ばれてくる秋のひなたに
0612 見るからにやせ細る求人誌のああいま日本の静寂にして
0613 デパートの大理石の床に足を滑らせてあれ滅びゆく国かも
0614 麗しく友情を讃え杯を交わせ、北の四島は靄につつまれて
0615 何事も御意のままにとでんと鎮座まします知事室の机は
0616 市民が憩う建物の天井を支えるとても堅固な私利私欲の柱
0617 つれづれならぬ世の中にはびこる悪がつくづくうらやましいな