昭和初期の大阪 三十三
金谷点柱(こんたにてんちゅう)
…ぼくのタンクロウ茶碗無うなった!…
ある朝、いつもの御飯茶碗がないので母に聞いた。
…わるかった!わるかった!昨日手がすべっておかってで割ってしもうたけん!代わり を買うたんヨ…
母は慌てて棚から新しい茶碗を膳においた。
胴が黒で中が真っ赤なおわんにタンクロウとそっくりの顔したさむらいの子が川をわたっている絵がかいてあった。
…だれにも負けない一寸ぼうしじゃきタンクロウよりええろう!…
…ふーんタンクロウはばくはつしたんやな!しょうないわ!…
ぼくは一寸ぼうしの顔を見た。タンクロウはまゆがつよそうやったが一寸ぼうしのほうは口がだれにも負けん強い顔だった。
…一寸ぼうしはおわんの船でみやこへ行ったんや、えろうなったんや、針の刀でおにも やっけたんやろ!…
ぼくは嬉しかった。
ぼくの大好きなちくわがお皿にやまもりだった。
まだあった。イワシの眼がぼくにはよう食べてんかと二匹も四角の皿にならんでいた。 …ウメちゃん!ぼくの茶碗、こんどから一寸ぼうしやでェ!…
…ぼ、ぼ、ぼーくはタ、タ、タンクーや!…
…ほんならいっすんぼうしより強いやろ!…
…で、でーもあ、あ、かがは、は、げとるんや…
この間ウメちゃんちでごはんたべた時、ウメちやんのは赤がところどころのこった茶碗やったがあれはタンクがはげてもうたんやな…と分かった。
…住吉さんの向こうのこんまいいくね神社に一寸ぼうしを祭っちゅうけに…ごはんをぎ ょうさん食べて強い体になりや!…
母はたくあんをバリバリさせながら言った。
金谷点柱(こんたにてんちゅう)
…ぼくのタンクロウ茶碗無うなった!…
ある朝、いつもの御飯茶碗がないので母に聞いた。
…わるかった!わるかった!昨日手がすべっておかってで割ってしもうたけん!代わり を買うたんヨ…
母は慌てて棚から新しい茶碗を膳においた。
胴が黒で中が真っ赤なおわんにタンクロウとそっくりの顔したさむらいの子が川をわたっている絵がかいてあった。
…だれにも負けない一寸ぼうしじゃきタンクロウよりええろう!…
…ふーんタンクロウはばくはつしたんやな!しょうないわ!…
ぼくは一寸ぼうしの顔を見た。タンクロウはまゆがつよそうやったが一寸ぼうしのほうは口がだれにも負けん強い顔だった。
…一寸ぼうしはおわんの船でみやこへ行ったんや、えろうなったんや、針の刀でおにも やっけたんやろ!…
ぼくは嬉しかった。
ぼくの大好きなちくわがお皿にやまもりだった。
まだあった。イワシの眼がぼくにはよう食べてんかと二匹も四角の皿にならんでいた。 …ウメちゃん!ぼくの茶碗、こんどから一寸ぼうしやでェ!…
…ぼ、ぼ、ぼーくはタ、タ、タンクーや!…
…ほんならいっすんぼうしより強いやろ!…
…で、でーもあ、あ、かがは、は、げとるんや…
この間ウメちゃんちでごはんたべた時、ウメちやんのは赤がところどころのこった茶碗やったがあれはタンクがはげてもうたんやな…と分かった。
…住吉さんの向こうのこんまいいくね神社に一寸ぼうしを祭っちゅうけに…ごはんをぎ ょうさん食べて強い体になりや!…
母はたくあんをバリバリさせながら言った。