浮浪節

余暇

或る本を読んで

2006年10月31日 | Weblog
『はたらく若者たち(1979-81)』(後藤正治著)を読んでいる。
『自動車絶望工場』等・・・ノンフィクション物が盛んだったのかも知れない。
当時は体験ルポとでも言えるような物が流行っていたのかも知れない。
しかしこれらの作品は決して世の中の本流ではない。
それが証拠にここ数年の就職難の時期のみをもってして、
苦痛に満ちた世代であるという意識が該当世代にはしみじみと有る。
しかもその世代にしても本流的思考に照らせば、
「フリーター化」という言葉で片付けられてしまうのである。
それだけマスコミのイメージ操作というものは強力なのだろう。
マスコミが取り扱わなかった現象は、無かったものとして処理されがちである。
この本の面白い所は、潜入ルポ的な実地の労働話だけでは無い。
港湾労働に従事した際の次の文章に、
著者の時代を貫徹する分析眼を見た気がする。


元請け‐下請け‐孫請け‐手配師という港湾荷役の重層構造は、
ピンハネという中間搾取と暴力的支配をうみだす温床となった。


現在との違いは何かと言えばこの様な構造の強化である。
この著作から数年後の派遣法成立と近年の派遣法改正として結実した。
それまでは有りながらも黙認されて来た弱者虐めの徹底が、
これによって堂々と行われるようになったのである。
港湾労働はそれが最も如実に分かり易い形で出た例ではある。
それは暴力に依る支配であり、それは企業が社会を支配する事なのである。
そして何よりも企業は企業という体を為しているが故に、
直接的に労働者を攻撃する事が出来ないが故に部外者を必要とする、
という構造なのである。
この場合の部外者がかつては暴力団であり、多分今も大部分はそうなのだろう。
これは暴力団が暴力団という社会外の存在ではなく、体制内化されている事を意味する。
まぁそれが今はそうでないとしても、
企業の横暴の隠れ蓑として派遣会社が機能しているのは間違い無いだろう。
結局違法行為が横行するのは、企業側が人員を手配させる主導権を握っている為、
結果として派遣会社側がその要求に従う形で実現されるのである。
それは港湾労働の構造とさして変わらない構造を持っているのであり、
派遣会社の摘発が母体の利用している企業の摘発にならない限りは永続する。
スト破りとしての暴力を政府が黙認し、支持すらしている節がある為、
この手の問題はアメリカよりも深刻かも知れないのである。
まっ今ではそういう暴力が支配的な事を察知してる為か、
誰もストなんて起こそうとも思わないのが現実である。
こういう企業の横暴がある為、結果として暴力機構が必要になる。


それにしても今はネットがある為、これまでの時代よりは幾分有利である。
それまでなら「フリーター現象」という形で、
一方的に若者が社会的にリンチされていた事だろう。
しかしネットがあるお陰で当人達が声を上げる事が出来る。
下らない情報が多いとされるネットでも情報の取捨選択は可能な訳で、
マスコミが言う程下らないとは思えない。
むしろマスコミの情報寡占が崩れる事自体喜ばしい事である。
まぁ寡占業界にとっては困った状況であるのは確かだろうけどね。
それはともかく、こういう著作に出会う事は素晴らしい事だと思った。
この様な書物のお陰で、無用な世代間闘争を回避出来るのである。
問題なのは露骨なまでの搾取なのである。
まぁこの搾取って話自体マルクス主義とセットにして葬り去られた訳で、
マルクス主義はレーニン主義とくっつき、その後のソ連ともくっついた。
そしてソ連の失敗はマルクス主義の失敗とセットにされ、
結局資本主義万歳となる訳だ。
この中間搾取の構造は至って資本主義的で無いんだが…。
そういう意味では未だに資本家は不在の資本主義社会なのである。
企業集団という円形の支配構造が、結局支配者の不存在をもたらす。
ひとりひとりが持つ支配権は微力な為、誰にも支配している実感は沸かない。
微力でもグループ内では強権なので、当然その権力にしがみつく事になる。
妙な構造なのである。

厚生年金、パート労働者に拡大へ 首相が方針

2006年10月13日 | Weblog
安倍首相は6日の衆院予算委員会で、パート労働者への社会保険の適用について「厚生年金の適用、社会保険の拡大を進めていきたい」と述べ、実現に意欲を示した。厚生年金に加入できない非正規雇用者が急増しているため、首相はパート労働者に厚生年金の門を開くことを自らの「再チャレンジ支援策」の柱の一つに据えている。

 民主党の枝野幸男氏に答えた。厚生年金の対象をパート労働者に拡大すると、雇い主が保険料の半額を負担しなければならず、小売業や外食産業を中心に反発している。首相は官房長官当時の7月末に、日本経団連に協力を要請したが、御手洗冨士夫会長は「性急な実現」には慎重な姿勢を示している。

 首相は答弁で「1週間にどれぐらいの仕事をしているか、そうした要件などを勘案したうえで拡大を検討したい」とも語った。適用拡大の実施時期や規模が今後の焦点となる。

 歴史認識問題については、同党の岡田克也氏が「A級戦犯は戦争犯罪人ではないか」と尋ねたのに対し、首相は「国内法的に戦争犯罪人ではない」と持論を曲げなかった。また、戦争責任については「当時の指導者であった人たちにはより重たい責任があるだろう」としたものの、「責任の主体がどこにあるかについて政府として判断する立場にない」と述べた。


ttp://www.asahi.com/job/news/TKY200610070090.html



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はっきり言えば大迷惑だと感じている非正規雇用の人間も多いだろう。
何故なら現時点でも金銭面に余裕がある訳でもない。
これが半額であれ負担する事になれば更に生活を圧迫するだけである。
それでも老後は安心だと考えるのだとすれば想像力に欠けると言わざるを得まい。
現時点でも親元で生活しているので無い限り、
多くの非正規雇用の者達は過酷な生活を送っている。
それは例えば食事がカップ麺だったりコンビニ弁当だったりする訳だ。
この単調な食生活は恐らく相当身体を蝕む事だろう。
その上受給が恐らく70歳位にまで引き上げられるであろう事を考えると、
ほとんどの非正規雇用の人間達はそこまで生き延びる事は出来ないだろう。
恐らくこの非正規雇用の者達の待遇等が現状のままだと仮定すれば、
その平均寿命は恐らく55~65位だろう。

こんな事よりも同一労働同一賃金を実現するような施策を講じる事の
方が遥かに重要だと思う。




「負担増」「格差」で論戦 予算委で対立軸、鮮明に

2006年10月08日 | ニュース等(新しいとは限らない)
中略…

民主党の枝野幸男氏と大田経済財政相は、「実感なき景気回復」をめぐって論戦した。

 枝野氏は、企業業績が好調であるにもかかわらず家計の消費支出や勤労世帯の収入が減っている最近の統計を提示。企業の国際競争力強化を柱とする安倍政権の「成長路線」では、家計や中小企業への波及効果が期待できないと主張した。

 これに対し、大田氏は「(利益を人件費に回す)労働分配率の高さが日本企業の構造問題だった」と反論。「労働分配率が下がったことが家計への波及を遅らせた大きな要因」と、家計部門の回復の遅れは認めた上で「最近は人手不足感も出ており、これから企業と家計の好循環が生まれてくる」と述べた。

 経済格差に関しても、菅氏が「格差は拡大しているのでないか」とただしたのに対し、安倍首相は「基本的に格差はそれほど拡大していないという見方もある」と対立。今月の衆院補選や来夏の参院選に向け、こうした論争が加熱しそうだ。


ttp://www.asahi.com/politics/update/1007/005.html


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労働分配率が高い事が日本企業の構造的問題だと言っている。
労働分配率が低くなった今よりも改善する、
つまり労働分配率が伸びるという事は、
結局この人の言う元の構造問題に戻るって事になりはしまいか?
何が言いたいのか良く分からん、と言うよりも言いたい事なんて無いのだろう。
人手不足感が増えたからと言って、間接雇用に置かれた者達の直接雇用へと進む訳でも無い。
非正規雇用の者達がこれだけ多く存在するって事が、
実は労働賃金の下方修正に繋がるインセンティブと成り得る。