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鉄を含む汎用材料で鉄単体より20倍大きな磁気熱電効果が得られる

2020-05-15 | 科学・技術
 東京大学物性研究所の酒井明人助教、Taishi Chen特任研究員、肥後友也特任助教、東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻・物性研究所およびトランススケール量子科学国際連携研究機構の中辻知教授らの研究グループは、金沢大学の見波将博士後期課程大学院生(研究当時)、石井史之准教授(理化学研究所客員研究員)、東北大学大学院理学研究科物理学専攻の是常 隆准教授、東京大学大学院工学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所 チームリーダー)、物性研究所・トランススケール量子科学国際連携研究機構の三輪真嗣准教授らの研究グループと協力して、鉄を含む汎用材料で鉄単体より20倍大きな磁気熱電効果(=異常ネルンスト効果)が得られることを発見した。本成果は2020年4月27日(英国夏時間)、「Nature」オンライン版に掲載。
 磁気熱電効果は従来の熱電変換と異なり、温度差と垂直方向に発電し、大面積化やフレキシブル化が容易で、高効率で発電が行えるという利点を持つ。本研究により、鉄にアルミやガリウムといった元素を添加することで、鉄単体の場合より20倍大きな磁気熱電効果が得られることを発見した。特に鉄やアルミは地球上の資源として豊富で、廉価な材料であり、このような汎用材料での巨大な磁気熱電効果の発見はその実用化に向けて大きなブレイクスルーとなる。また、同一面積・温度差あたりの発電量は従来技術を凌駕しており、薄膜型デバイスへの発展が期待される。
 本研究開発における材料探索には、まず、東北大学を中心として第一原理計算を用いた磁気熱電効果を自動的に計算するハイスループット計算手法を開発し、磁気熱電効果の理論値をデータベース化した。その中から、安価かつ工業的にも利用しやすい鉄系材料に着目して材料の作製と実験を行った。その結果、本材料の発見につながった。また、この材料の性能理解のため、金沢大学および理化学研究所で電子状態の詳細な解析が行われた。その結果、ノーダルウェブと呼ばれるトポロジカルなバンド構造に由来していることが明らかになり、今後の材料開発の指針が明らかとなった。
 本成果により磁気熱電効果を利用した熱電変換デバイスの開発が加速し、IoT機器の自立電源などに利用されることが期待される。
 ポイント
 〇鉄にアルミやガリウムを添加した材料で鉄単体より20倍の磁気熱電効果の増大を発見するとともに、薄膜でも性能を維持し、室温・ゼロ磁場で世界最高の磁気熱電効果を実現した。
 〇高速自動計算(ハイスループット計算)による材料探索や、ノーダルウェブと呼ばれるトポロジカルな電子構造の解明など、本研究の発見には数値計算が大きく貢献した。
 〇同一面積・温度差あたりの発電容量は従来型熱電技術を凌駕するほど大きく、薄膜型熱電デバイスへの発展が期待される。
 研究の背景
 既存の熱電技術に代わりうる革新的技術として、近年、磁性体の磁気熱電効果が注目されている。これまで多くの研究開発が行われてきた熱電変換はゼーベック効果という物理現象に基づくもので、温度差と同じ方向に起電力が発生する。そのため柱状の多数の素子を立体的に並べるモジュール構造であり、薄膜化・フレキシブル化や大面積化が難しいことや、多重の接合に起因する不可避な大幅な性能低下などの問題がある。
 一方、磁気熱電効果を利用した発電では温度差と磁化に垂直方向に起電力が発生する。発電方向は磁化の方向で制御できるため、大面積の薄膜かつ無接合のモジュール構造が実現可能である。加えて、性能を下げるペルチエ熱の発生が起きないため、効率的な発電が可能になると考えられている。このような特長を持つ磁気熱電効果は、IoT 機器に搭載する自立電源や省エネ社会の実現に資する革新的な熱電変換技術として期待されている。
 研究内容と成果
 本研究グループは、鉄にアルミニウムやガリウムを25%添加したFe3Al, Fe3Gaが、鉄単体に比べて10倍以上大きな磁気熱電効果を示すことを明らかにした。また100℃の高温から-100℃の低温まで高い性能を維持し、耐久性・耐熱性にも優れているためさまざまな場所・シーンで利用可能である。さらに、厚さ数十ナノメートルのFe3Al, Fe3Gaの薄膜作製にも成功した。薄膜でも性能を維持するだけでなく、ゼロ磁場でこれまでの報告値を全て凌ぐ世界最高の磁気熱電効果を示すことが分かった。さらに、同一面積・温度差当たりの発電量は従来技術を凌駕するほど大きく、薄膜型デバイスへの発展が期待される。
 本研究で発見された巨大な異常ネルンスト効果は、ノーダルウェブと呼ばれるトポロジカルなバンド構造に由来していることが明らかになった。異常ネルンスト効果の増大にはベリー曲率と状態密度を同時に大きくするバンドの存在が重要だということが知られていたが、本物質のバンド構造はまさにそのような条件を満たすものとなっていた。
 本研究の材料探索には、ハイスループット計算を用いた候補物質のスクリーニングを行った。これまでの第一原理計算によるハイスループットスクリーニングでは、エネルギーやバンドギャップといった比較的単純な物理量が主な対象であった。今回、磁気熱電効果を利用した新たな機能性材料の探索のため、異常ネルンスト効果という非常に計算が複雑な物理量を自動的に計算することに成功した。さらに、この手法を磁性体のデータベースに適用することにより、1400以上の材料の理論値を計算し、候補となる物質を抽出した。本手法は、さまざまな複雑な物理量の計算をハイスループット化することを可能にする技術である。実験的にも今回のスクリーニング手法が有効であることが確認されたため、今後、さまざまな対象への適用が期待される。
 今後の展望
 磁気熱電効果を用いた熱電モジュールや熱流センサーの開発を行う。Fe3Al,Fe3Ga は、結晶の乱れに強い性質を持ち、汎用材料を用いた廉価で応用性の高い材料であるため、実用化へ大きな飛躍が期待される。実用化の暁にはフレキシブル化・薄膜化や大面積化によりさまざまな場所で排熱を回収でき、環境の微量な熱を利用した電源としてIoT センサーや熱流センサーなどに活用されることが期待される。
 ◆用語解説
 〇従来型熱電技術(ゼーベック効果)と磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)
 物質に温度差を加えると、電流の運び役となる電子(キャリア)が温度差に沿って移動するため、温度差と同じ方向に起電力が生じる(ゼーベック効果)。磁性体では磁化の存在のためキャリアの移動が曲げられ、磁化と熱流に垂直方向にも起電力を示す(異常ネルンスト効果)。
 〇第一原理計算
 第一原理計算は実験で得られた値を用いず、結晶構造のみから量子力学に基づいて物質の電子状態や物性を計算する手法である。物質の本質的な振る舞いを予言、解明するのに大変有効である。
 〇トポロジカルなバンド構造、ノーダルウェブ
 電子の持つ波数(運動量)により電子の状態を表したものをバンド構造という。トポロジカルなバンド構造とは2つのバンドが(偶然ではなく)何らかの対称性の存在により交差しているものを言う。そのような場合、対称性を破ることでしかバンド交差をほどくことができないため、「トポロジカルに守られている」とも言われる。点で接するものに、ワイル半金属やディラック半金属、線で交差するものにノーダルライン半金属などがある。
 「ノーダルウェブ」はノーダルラインが複数交わり、かつ平坦な形状をしている場合のことを指す。
 〇IoT 機器
 IoT(Internet of Things、モノのインターネット)を通じてやり取りをするセンサーやカメラなどの情報取得機器の総称。 〇ペルチエ熱、ペルチエ効果
 ゼーベック効果の逆効果であり、電流を流すと温度差が発生する現象。従来型熱電材料を電池として使うと、熱電材料自身に電流が流れるためこの効果が発生し、元の温度差を小さくするように働く。一方磁気熱電効果では温度差と電流方向が垂直であるためこの温度差減少機構が働ない。
 〇ベリー曲率
 波数空間で磁場と同様の数式で定義される物理量であるため仮想磁場ともよばれる。磁気熱電効果や異常ホール効果など横方向の応答の起源となる。
 〇状態密度
 電子が取りうる状態の数を表す。

 今日の天気は曇り~晴れ。お昼近くに、パラパラと小雨がパラついた。
 畑までの道沿いで、垣根を飾る様に小さな黄色の花が咲いている。満開の八重の”モッコウバラ(木香薔薇)”だ。”バラ”と言っても刺(とげ)のないバラである。
 ”モッコウバラ”と言うと、一般的にこの淡黄色の八重咲(ロサ・バンクシア・ルテア)を言うようだ。花姿には一重咲と八重咲があり、花色にも淡黄色と白色がある。黄色の八重には香りが少ないが、一重の黄花や白花に芳香がある。白花は黄花より少し遅れて咲き、花の数は少ない。
 因みに、この”モッコウバラ(木香茨)”は、秋篠宮家眞子内親王のお印である。お印(おしるし)とは、日本の皇族が身の回りの品などに用いる徽章・シンボルマークの事である。
 モッコウバラ(木香茨、木香薔薇)
 学名:Rosa banksiae f. lutea(黄色・八重)
 学名:Rosa banksiae f. alboplena(白・八重)
 バラ科バラ属(トゲがない)
 常緑つる性低木(丈は0.5m~7m)
 原産地は中国の西南部
  日本には江戸時代に渡来、観賞用として庭園に栽植
 開花時期は4月~5月
 花色は淡黄色と白色、一重・八重咲きがある
 花径は3cm位


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