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炭素二原子分子(C2)を常温常圧で化学合成することに成功

2020-05-16 | 科学・技術
 東京大学大学院薬学系研究科の宮本和範准教授、内山真伸教授(信州大学先鋭材料研究所教授(クロスアポイント)、理化学研究所 開拓研究本部 主任研究員(兼務)、JST CREST)らの共同研究グループは、発見から約一世紀経過した現在でも基本性質さえ謎に包まれたままであった炭素二原子分子(C2)を初めて化学合成することに成功し、その特異な化学結合(一重項ビラジカル性を有する四重結合性)を実験により明らかにした。さらに、本手法によって発生させたC2から炭素ナノ材料(C60、カーボンナノチューブ、グラフェン)が自然形成することを発見した。本成果は2020年5月1日(英国夏時間)、国際科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載。
 発表のポイント:
 〇高温・高エネルギーが必要不可欠と考えられてきたC2を常温常圧で初めて化学合成することに成功した。
 〇実験化学者と理論化学者間で論争となっていたC2の化学結合について、電荷シフト結合を含む4つの結合が存在することを初めて実証した。
 〇C2が常温常圧下において自然と重合し、炭素ナノ材料(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン)が合成されることを発見した。
 研究の背景
 二原子炭素(C2)は炭素二つから構成される地球上において最も単純な炭素分子である。古くから、ろうそくの青い炎や宇宙空間に存在することが知られてきたが、発見から一世紀が過ぎようとする現在でもその基本的性質さえ多くの謎に包まれている。C2 は過酷な条件(たとえば、3500度以上にした炭素蒸気)でしか発生しないと考えられてきたため、高エネルギー状態での発生・調査がこれまで行われてきた。たとえば、黒鉛へのアーク放電やレーザー光照射などにより C2 を人工的に発生させることができますが、こうして発生させた C2 は、「二重結合(一重項ジカルベン)」か「三重結合(三重項ビラジカル)」として振舞うことが知られてきた。ところが、2012 年に、イスラエルのグループらは高精度量子化学計算を用いて、C2 が基底状態において“四重結合(一重項ビラジカル)性”をもつと提唱しました(Shaik et al. Nature
Chem. 2012, 4, 195.)。すなわち、実験化学者と理論化学者の見解は、真っ向から対立していた。
 研究の内容
 実験化学者と理論化学者の大きな乖離は、実験条件(高エネルギー状態)と理論条件(基底状態)の違いによるものではないかと考えた。そこで本研究では、室温(あるいはそれ以下)でのC2の発生法に取り組んだ。その結果、超原子価ヨウ素の“超”脱離能を活用した分子設計により、世界で初めて常温常圧において C2を化学合成することに成功した。さらに本研究グループは、常温常圧下に発生させた C2を各種捕捉実験などにより丁寧に性質を調べることで、「一重項ビラジカル(電荷シフト結合を含む四重結合性」を初めて実験的に証明した。この結果は、理論化学者の予測を見事に再現するもので、実験化学者との長年の論争に決着をつけるものである。
 C2 はこのビラジカル性により、空気中の酸素や不純物ですぐに捕捉・不活化されてしう。そこで、本研究グループは、不活性ガス(アルゴン)雰囲気下に無溶媒・常温常圧条件にてC2の発生を試みたところ煙を上げて黒色固体が生じることを見出した。黒色固体を詳細に調べたところ、固体のトルエン抽出液からは、C60に対応する分子イオンピークが MALDI-MSによって観測された。このとき C70 以上の高次フラーレンは検出されなかった。次に、トルエン不溶の黒色固体について、アモルファス炭素部分を酸化処理により除去した試料を ラマンスペクトルや HRTEM(high-resolution transmission electron microscope)を用いて精査したところ、「2次元グラフェンシートが密に詰まったグラファイト」および「カーボンナノチューブとカーボンナノホーン」が観測された。これらは C2 が常温常圧下、ナノカーボンの起源になり得ることを証明した初めての結果である。
 今後の展開
 フラーレン(C60 など)、カーボンナノチューブ、グラフェンなどナノサイズの炭素物質は「ナノカーボン」と呼ばれ、その特異な構造や機能からさまざまな分野で応用研究が進められている。しかし意外なことに、その発生機構や構造多形の起源に関しては多くの謎に包まれてきた。
 本研究で見出された C2 の常温常圧における簡便発生法は、C2 から炭素同素体への成長メカニズムの解明を含む、新しい基礎科学(化学結合論)および炭素材料科学を展開するための、強力な方法になることが期待される。得られたナノカーボンは、その構造や形態がいずれも特徴あるものばかりで、抵抗加熱法やアーク放電法、レーザー光照射などの高エネルギーを用いる従来法と比べて大きく異なっている。本法により実現した低温 C2 発生法は、ナノ炭素材料の“化学合成”に向けた革新的な一歩になると期待される。
 ◆用語説明
 〇ビラジカル
 ラジカルとは、不対電子(対を作っていない電子)を持ち、かつ電荷を持たない化学種。ビラジカルは同一分子内にラジカルを2 つ持つものを指す。
 〇一重項と三重項
 一重項とは、分子全体の総ての電子スピン(角運動量)の総和が 0 になっている状態を指す。
 三重項とは2つ以上の不対電子を含み、平行な電子スピンを2 つ持っている状態を指す。
 〇カーボンナノチューブ
 カーボンナノチューブは、ナノカーボンの一種でグラフェンシートを円筒状に丸めたものを指す。ナノメートルサイズの細線で、導電性・弾性・機械強度に優れ、電子材料としての理想的な特性を持つ。
 〇グラフェン
 グラフェンとは、炭素1原子の厚さのシート状物質を指す。蜂の巣状の六角形格子構造をとっており、この二次元ネットワークがZ軸方向に積層したものが、グラファイト(黒鉛)になる。
 〇アーク放電
 アーク放電とは、気体放電現象の一種であり、高温(太陽の表面を超え、1万度以上に達する)で強い光を発するのが特徴である。炭素やタングステンなどの電極を接触させ、電流を流している状態で電極を引き離すと電極間にアーク放電が起こる。
 〇カルベン
 カルベンとは、電荷を持たない2配位(結合手を2つ持つ)炭素化学種。その中で一重項カルベンは空軌道と孤立電子対を併せ持ち、一般に非常に反応活性な化学種である。
 〇超原子価
 典型元素化合物は通常、価電子(最外殻電子)を8個持っているが、超原子価(化合物)では、それを上回る9個以上の電子を持っている。
 〇電荷シフト結合
 通常、分子は共有結合とイオン結合によって形成されるが、電荷シフト結合はその中間のような結合様式を示す。具体的には、ラジカル同士は“強い”共有結合を作ろうと相互作用するが、さまざまな理由でそれが妨げられ弱い相互作用しかできない時に出現する“弱い”結合である。
 〇MALDI-MS
 MALDI とはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法を指し、MALDI-MS はそれを利用した質量分析法である。分子量の大きな化合物を破壊することなく、直接検出する手法として生体分子や高分子の分析などに広く用いられている。
 〇Raman スペクトル
 Raman 分光法とは入射光と異なった波長をもつ光(ラマン散乱光)の性質を調べることにより、物質の分子構造や結晶構造などを知る手法で、Raman スペクトルはそれによって得られたスペクトルである。
 〇HRTEM(high-resolution transmission electron microscope)
 HRTEM とは、透過型電子顕微鏡(TEM)のうち、特に分解能の高い(HR)ものを指す。TEM とは、観察対象に電子線をあて、透過してきた電子線の強弱から、観察対象内の電子透過率の空間分布を観察するタイプの電子顕微鏡のことを指す。
 〇カーボンナノホーン
 カーボンナノホーンとは、ナノカーボンの一種で、グラフェンシートを円錐形に丸めたものを指す。燃料電池の電極材料やガス吸蔵材への実用化に最も近いナノカーボンとして注目されている。

 今日の天気は晴れ~曇り、朝は雲が多かった。
 駐車場と畑の堺に金網の塀が立っている。この塀に絡みつく様に、”ヒメウツギ(姫空木)”が満開に咲いている。小さな白い花が沢山咲いている。
 名(ヒメウツギ:姫空木)の由来は、”ウツギ(空木)”によく似て、花の大きさが少し小さいから。
 ヒメウツギ(姫空木)
 学名:Deutzia gracilis
 アジサイ科ウツギ属
 耐寒性落葉低木(樹高1.5m位)
 日本原産
 開花時期は4月~5月
 花はやや俯き勝ち、花色は白、花弁数は5枚
 雄しべ数は10本


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