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室温でテラヘルツ周波数を高効率に変換できる物質を発見

2020-05-18 | 科学・技術
 東京大学物性研究所の神田夏輝助教、松永隆佑准教授らの研究グループは、同研究所の池田達彦助教および板谷次郎准教授らの研究グループ、さらに米国の研究グループと協力して、テラヘルツ周波数(毎秒1兆回の振動数)帯の電磁波の周波数を極めて高効率に変換できる物質を発見し、さらにそのメカニズムを解明した。本研究成果は国際科学雑誌「Physical Review Letters」の2020年3月19日付オンライン版に公開。
 ポイント
 〇ディラック半金属の一種であるヒ化カドミウム薄膜が、テラヘルツ周波数帯の高調波を室温で非常に高効率に発生させることを発見した。
 〇高調波発生のメカニズムが、質量ゼロのディラック電子がテラヘルツ電場で加速されたことによる非線形電流であることを、超高速時間分解測定と理論計算により明らかにした。
 〇ディラック半金属特有の巨大テラヘルツ非線形電流を発見したことで、テラヘルツ周波数帯における新たな周波数変換技術としての応用が期待される。
 研究の背景
 物質に光が入射するとさまざまな応答が現れるが、ある程度強い光が入射したときには光の周波数が整数倍に変化する現象が知られている。これは非線形応答の一種であり、2倍、3倍の周波数に変換された光はそれぞれ第二、第三高調波、より高い次数の光が発生した場合は総じて高次高調波と呼ばれる。高次高調波発生は、気体原子・分子に対して非常に強い近赤外光レーザーを絞り込むことで100倍以上も周波数の高い軟X線を発生させる手法として知られ、アト秒(100京分の1秒)スケールの超高速科学や高分解能光電子分光などの最先端研究において欠かせない技術となっている。さらに2014年頃、固体でも高次高調波が発生することが発見され大きな話題になった。固体ベースのコンパクトかつ安定な周波数変換技術としての応用的側面と、非常に強い光電場が物質の中で引き起こす非摂動論的相互作用という基礎物理学的側面から、現在盛んに研究が行われている。
 通常の高次高調波発生の研究では、可視・近赤外から、最も波長が長いものでも波長10マイクロメートル程度の光が使われているが、松永准教授らはさらに数十倍波長の長い、テラヘルツ周波数帯に注目して研究を進めている。この波長域の光(電磁波)は既存のエレクトロニクスよりも周波数が2、3桁高いため、この帯域における周波数変換素子を実現することは次世代の高速エレクトロニクスにおいて非常に重要だと考えられます。松永准教授らは2014年、超伝導薄膜からテラヘルツ周波数帯で非常に強い第三高調波が発生することを発見した。これは超伝導体のテラヘルツ周波数帯における非線形応答が非常に大きいことを表しており、実際に宇宙・天文物理学観測における検出素子としてその性質が活用されている。しかし超伝導状態を作るにはマイナス260度ほどの極低温まで冷却する必要がある。もしテラヘルツ周波数の高効率な変換が室温で実現すれば、非線形素子としての幅広い応用が期待される。2018年にドイツのグループによって、炭素原子1層からなるグラフェンを用いてテラヘルツ周波数帯の室温高調波発生が報告され、その効率が他の物質と比べて体積あたり7桁ほど大きいことが判明して話題となった。しかし実際にはグラフェンは原子1層しか体積がないため、変換効率そのものはそれほど高くなく、高調波を観測するためには巨大加速器実験施設が使われていた。
 研究内容
 本研究で神田助教、松永准教授らのグループおよび米国のグループは、高品質なヒ化カドミウムCd3As2薄膜に注目した。ヒ化カドミウムはディラック半金属と呼ばれ、電子が3次元的に質量ゼロのように振る舞うことが2014年頃に発見されて以来、その性質に注目が集まっている。質量ゼロの電子(=ディラック電子)によって引き起こされる電流は非常に非線形性が強く、テラヘルツ周波数帯の高次高調波を効率よく発生させることが2007年から理論的に予測されていたが、実験による検証はなされていなかった。この理論は、同じくディラック電子を有するグラフェンを想定して提唱されたものであるが、ヒ化カドミウムはディラック電子としての性質を3次元的に示すため、グラフェンよりはるかに効率的に巨視的な非線形電流を発生させることが期待される。
 神田助教、松永准教授らは、物性研究所内のレーザー光源を駆使してテラヘルツパルス発生技術開発を進め、狭帯域の高強度テラヘルツパルス(周波数0.8THz)を発生させた。このパルスを厚さ240ナノメートル(原子数千層分)のヒ化カドミウム薄膜に対して照射したところ、3倍、5倍の周波数成分を持つ第三、第五高調波を明瞭に観測することに成功した。本研究で開発されたこの実験設備は、これまで加速器を使わなければ観測が難しかったグラフェンのテラヘルツ高調波をテーブルトップで観測することも可能にしており、グラフェンとヒ化カドミウムの比較も詳細に行われた。グラフェンに比べるとヒ化カドミウムではほとんどの入射電場成分が表面で反射されてしまうため試料内部に入る電場は5分の1ほどしかない。それにもかかわらず発生した第三高調波の電場は5倍ほど強いことが分かった。これはグラフェンよりもはるかに大きな体積を生かして周波数変換が非常に効率よく生じているためと考えられる。
 さらに神田助教らはこのテラヘルツ高調波発生のメカニズムを解明するため、テラヘルツパルスで励起された電子の時間変化を超高速に時間分解して調べる実験に取り組む。グラフェンのテラヘルツ高調波発生の研究では、その非線形電流の起源が、テラヘルツパルスによって加熱された電子が急速に加熱と冷却を繰り返すという、ディラック電子とは全く関係のない熱力学的モデルによって解釈されていた。しかし本研究で神田助教らが行った精密な時間分解実験から、ヒ化カドミウム薄膜中の電子が冷却に要する時間はグラフェンの電子よりもはるかに長いこと、非線形応答が等方的には現れないことなどが明らかになり、熱力学的モデルでは説明できない結果が示された。さらに池田助教の詳細な理論計算により、ヒ化カドミウム薄膜のテラヘルツ高調波発生は熱力学的モデルでは全く再現できず、ディラック電子が加速されたことによる非線形電流によってよく説明できることが確かめられた。このモデル自体は理論的に2007年頃から予想されていたが、実験的にはテラヘルツ周波数帯の高調波の観測が難しかったため、実際の物質ではテラヘルツ周波数帯においてこのモデルは成り立たないという解釈が広がりつつあった。池田助教らは、電子の散乱時間を考慮した詳細な計算から、テラヘルツ周波数帯でもこのディラック電子の加速モデルがよく成り立つことを示し、高調波発生のメカニズムがディラック電子の特異な非線形電流にあることを明らかにした。
 社会的意義・今後の予定
 本研究によってヒ化カドミウム薄膜が室温でテラヘルツ高調波を効率よく発生させることが見いだされ、テラヘルツ電磁場の周波数変換技術実現に向けた新たな指針が得られた。現在はテラヘルツ電磁場をそのままヒ化カドミウム薄膜に照射しているが、ヒ化カドミウム薄膜は半金属であるため、電磁場のほとんどは表面で反射されている。反射防止コーティングなどの表面加工や、電場を局所的に増強するメタマテリアル技術と組み合わせたり、あるいは電極から直接電場を印加したりすることで周波数変換をさらに高効率化することが期待される。
 また、ヒ化カドミウムのようなディラック半金属と同様に質量ゼロの電子を持つものとして、ワイル半金属が知られている。空間反転対称性の破れたワイル半金属の場合は第二高調波が発生すると考えられ、これはディラック半金属が示す第三高調波よりもさらに高効率に周波数変換が可能になると期待される。ディラック半金属およびワイル半金属は、物質をトポロジーによって分類する現代物理学の最先端研究によって発見された物質群であり、総称してトポロジカル半金属と呼ばれる。本研究によって今後もトポロジカル半金属が示す巨大応答とその機能性についてさらに研究が深まることが期待される。
 ◆用語解説
 〇テラヘルツ周波数、テラヘルツ電磁場
 毎秒約10の12乗(=1兆)回振動する周波数のことをテラヘルツ周波数と呼び、この周波数を持つ電磁波のことをテラヘルツ電磁場(またはテラヘルツ波)と呼ぶ。
 テラヘルツ電磁場は、携帯電話などに用いられる電波よりも1000倍ほど周波数が高く、それでいて我々が目で見ることのできる可視光に比べると周波数が数百倍低いため、「光」と「電波」の中間に位置する特殊な電磁波と言える。このような周波数帯の電磁波を自在に利用することはかつて難しかったが、レーザー技術と非線形光学が急速に発展し、さまざまな波長変換が可能になって、このテラヘルツ電磁場を用いた分光技術が著しく進展した。高速情報通信、セキュリティー、非破壊非接触の生体検査や宇宙観測などさまざまな観点から非常に興味が持たれている。
 〇非線形電流、非線形応答
 光は「電場と磁場が振動している波」であり、光を物質に照射するとその電場によって物質中に分極(または電流)が発生する。通常は分極の大きさが光の電場に比例すると考えることで多くの現象が説明可能であり、これを線形応答と呼ぶ。しかしより一般的には、電場の2乗、3乗に比例した非線形分極(または非線形電流)も発生しており、このような応答を非線形応答と呼ぶ。電場の大きさが大きくなるほど、非線形応答が如実に表れる。線形応答の計測は、「光によって物質の性質を調べる」ことに相当するが、非線形応答をうまく活用すると「光によって物質の性質を変える」「物質によって光の性質を変える」ことが可能になる。光の周波数変換はまさに非線形応答によるものである。
 〇非摂動論的相互作用
 前述の光が物質に入射した時に起こる現象を、線形応答と、2乗や3乗といったべき乗則で記述される非線形応答という観点から説明した。これは量子力学的には「摂動論」と呼ばれ、光が物質に与える影響が十分小さいと見なした近似を用いている。一方、さらに強い光電場が物質に入射すると、非線形応答が極端に顕在化し、もはや摂動論では記述不可能な現象が生じる。アト秒科学に使われている軟X線領域の高次高調波発生やレーザーによる物質加工はまさにその典型である。こういった非摂動論的な状況下では、物質中に入射する光を単なるフォトンととらえるのではなく、光が持つ巨大な電場によって物質の性質が刻一刻変化する状況を正確に記述する物理的理解が必要になり、未開拓の研究分野として現在大きな注目を集めている。
 〇超伝導薄膜からテラヘルツ周波数帯で非常に強い第三高調波が発生
 ある種の物質を低温まで冷却すると、マイナスの電荷を持つ2つの電子の間にある種の引力が働いて、ペアを形成し、超伝導と呼ばれる状態を作る。超伝導状態になると電流が流れる際の電気抵抗が厳密にゼロになるほか、さまざまな特殊な応答が生じるため盛んに研究が行われ、医療機器や量子コンピューターなどで実用化もされている。松永准教授らは2014年ごろ、超伝導体の非常に高効率なテラヘルツ高調波発生を初めて観測し、さらにこの現象が素粒子物理学におけるヒッグス粒子と深い関係性があることなどを報告した(Science 345, 1145 (2014))。ただし超伝導状態を得るためには多くの場合マイナス260度以下、高温超伝導体を用いても常圧下ではマイナス140度以下まで冷却することが必要である。
 〇ディラック半金属、ワイル半金属
 ある種の物質中では電子が質量ゼロのように振る舞い、その運動は相対論的量子力学におけるディラック方程式またはワイル方程式に従うことが最近発見され、大きな注目を集めている。ワイル半金属になるためには空間反転対称性または時間反転対称性が破れていることが必要で、その結果カイラリティによって区別される2つの異なるペアとなってワイル粒子が出現する。ディラック半金属の場合は空間反転対称性と時間反転対称性の双方が保たれており、ワイル半金属のようなカイラリティの区別が無くなる。より高効率な周波数変換である第二高調波発生のためには、空間反転対称性が破れている必要があるため、ワイル半金属を用いた高調波発生研究にも期待が持たれる。
 〇熱力学的モデル
 光が物質に当たったときに起こる応答を物理的に記述するにはさまざまなモデルがある。まずは個々の電子が光の電場によって微視的にどう時間変化してどのような分極(または電流)を生むのかを量子力学から計算することから考えるのが一般的である。しかし物質中にはたくさんの電子が存在しており、それぞれが散乱し合うため、ある程度長い時間スケールを考えると個々の電子が光から与えられた情報は消えてしまい、ごちゃ混ぜのような状態になる。そういった場合は個々の電子について追跡することはせず、電子系全体を統計力学的に取り扱ってもっと現象論的に記述するアプローチが取られることもある。その場合は物質の変化を温度の変化として取り入れることになり、ここではそれを熱力学的モデルと呼んでいる。本研究で得られた成果は熱力学的モデルでは説明できず、質量ゼロのディラック電子が電場で加速される微視的モデルが重要であることが分かった。

 天気、午前は曇り、午後は小雨。気温、最高気温18℃・最低気温13℃。明日の最高気温は13℃と今日の最低気温とか、明日は寒いんだ。
 畑までの道すがら、お庭で見立たないように咲いている”ミヤコワスレ”。
 名(都忘れ)の由来は、承久の乱で佐渡に遠流された順徳上皇が、この花を見ると都への思いが忘れられる(の説)、都を忘れることにしよう(の説)・・との事。花言葉は別れ・穏やかさ・しばしの憩い。
 ・・承久の乱(じょうきゅうのらん)
 承久3年(1221年)に、後鳥羽上皇が鎌倉幕府に対して討幕の兵を挙げた兵乱。敗れた後鳥羽・土御門・順徳の三上皇は配流、仲恭天皇は廃され、上皇方の公家・武士の所領は没収された。この乱で、武士(武装農民階級)がそれまでの支配階級(天皇・公家階級)と代わって、国の実効支配権(行政権・立法権・司法権)を握ったと言える。
 ミヤコワスレ(都忘れ)
 別名:野春菊(のしゅんぎく)、東菊(あずまぎく)
 学名:Gymnaster savatieri
 キク科ミヤマヨメナ属
 多年草
 日本原産
  山野に自生するミヤマヨメナ(深山嫁菜)の日本産園芸品種として栽培される
  栽培の起源は江戸時代
 開花時期は4月~6月
 花は菊に似て可憐
 花色は青紫色で、青・白・ピンクなどもある


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