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出芽酵母の細胞内で起こる新たなO-結合型糖鎖の代謝経路を発見

2019-10-06 | 科学・技術
 理化学研究所開拓研究本部鈴木糖鎖代謝生化学研究室の平山弘人研究員、鈴木匡主任研究員、岩崎RNAシステム生化学研究室の岩崎信太郎主任研究員らの共同研究グループは、出芽酵母の細胞内で起こる新たなO-結合型糖鎖の代謝経路を発見した。
 出芽酵母やヒトを含む多くの真核生物のタンパク質は、ブドウ糖(グルコース)のような単糖が複数個連なることで形成された糖鎖による修飾を受けている。このタンパク質への糖鎖による修飾は、結合するタンパク質内のアミノ酸残基の違いにより、主にアスパラギンの側鎖アミドの窒素原子を介して結合するN-結合型糖鎖(Nは窒素)と、セリンまたはトレオニンの側鎖ヒドロキシ基の酸素原子を介して結合するO-結合型糖鎖(Oは酸素)の2種類が存在することが知られている。また糖鎖修飾は、タンパク質自体の機能や安定性の向上に寄与するだけでなく、合成されたタンパク質の品質管理、細胞内輸送、シグナル伝達などさまざまな生命現象に関わっていることが知られている。
 これまでの研究により、N-およびO-結合型糖鎖の細胞内での生合成経路の詳細や、生物学的機能について多くのことが明らかになっている。しかし、糖鎖の分解、代謝機構については、不明な点が多くあった。
 研究手法と成果
 共同研究グループは、さまざまな炭素源(グルコース、ガラクトース、マンノース、グリセロール等)のうち1種類だけ含む培養液で出芽酵母を培養し、それぞれの条件下で細胞が生成する遊離糖鎖の代謝量に違いがあるか調べた。その結果、炭素源について、通常の培養に用いられるグルコースと比較してガラクトースやグリセロールで培養した場合は、代謝量に若干の変化が見られたものの、大きな違いはなかった。しかし、マンノースで培養したときのみに、複数の構造未知の遊離糖鎖が大量に生成されることを見いだした。
 これらの遊離糖鎖の構造を詳しく解析したところ、マンノースと呼ばれる単糖が2つから5つまで連なった構造をしており、かつ出芽酵母のタンパク質を修飾しているO-結合型糖鎖と構造が一致することが分かった。この“O-結合型糖鎖と構造が一致する遊離糖鎖が溜まる“という現象は、タンパク質に結合している糖鎖から切り出されてできるほかに、細胞内に存在するばらばらのマンノースを基質として、糖タンパク質のO-結合型の生合成と同じ機構でマンノース糖鎖として伸びるという二つのうちのいずれかによって起こる。
 そこで、さまざまな出芽酵母の変異体を用いて実験を行ったところ、(1)O-マンノースの量が減る変異体では遊離O型糖鎖の量も減ること、(2)マンノース誘導体と一緒に培養してもその化合物を基質としてマンノース糖鎖が延長しないことから、前者の可能性がより高いことが分かった。
 以上のことから、当該遊離糖鎖は、タンパク質を修飾しているO-結合型糖鎖から、出芽酵母の細胞内に存在する未知の酵素によって、タンパク質と結合している根元から切り出されて生成されている可能性が強く示された。このような酵素は、全ての生物においてこれまで全く知られていなかったため、共同研究グループは「エンドO-マンノシダーゼ」と名付けた。
 今回発見された遊離O型糖鎖の生成は、マンノースを炭素源とした培養条件でのみ観察されていることから、エンドO-マンノシダーゼをコードする未知の遺伝子の発現は、通常用いる炭素源であるグルコースからマンノースへ変化するときに活性化するのではないかと考えられる。
 そこで、細胞の炭素源変化に伴い、遺伝子の転写を調節する転写調節因子群の中に遊離O型糖鎖の生成に影響を与える因子があるか解析した。その結果、Cyc8と呼ばれる転写抑制因子を欠損させた酵母を、マンノースを炭素源とした条件下で培養すると、野生型と比較して約10倍以上の遊離O型糖鎖を生成し、強い生育阻害を示すとともに、細胞壁の恒常性を撹乱する薬剤に対して感受性が示された。また、正常株とCyc8欠損株を比較したところ、正常株では転写抑制因子Cyc8依存的にエンドO-マンノシダーゼの遺伝子発現量を介して調節されている一方Cyc8を欠損させた酵母ではエンドO-マンノシダーゼの発現が抑制されることなく恒常的に活性化することにより細胞壁を構成する糖タンパク質から多くのO-結合型糖鎖が切り出されて細胞壁が脆弱となり、細胞壁の恒常性の低下および生育阻害を起こしている可能性が示された。
 これらの結果から、出芽酵母の細胞内において、エンドO-マンノシダーゼによるO-結合型糖鎖の代謝機構は、炭素源変化によって誘導されること、およびO-結合型糖鎖の代謝は遺伝子の転写レベルで厳密に制御されていることが明らかになった。
 今後の期待
 本研究により、これまでほとんど分かっていなかったO-結合型糖鎖の代謝機構の一端を、出芽酵母をモデル系として明らかにした。今回発見したO-結合型糖鎖の代謝機構(エンドO-マンノシダーゼ)は、他の生物種ではまだ見つかっていない全く新しい糖鎖代謝機構である。また、これまで全く報告がないエンドO-マンノシダーゼ活性を持つ酵素が出芽酵母に存在し、タンパク質を修飾しているO-結合型糖鎖を切り出していることが強く示唆された。ヒトにおいて、O-マンノース糖鎖の合成不全は、さまざまな遺伝性筋ジストロフィー疾患を引き起こすことが知られている。
 今後の解析により、エンドO-マンノシダーゼをコードする遺伝子が単離されれば、O-マンノース結合型糖鎖の代謝機構の詳細が明らかになるだけでなく、本酵素をコードする遺伝子からエンドO-マンノシダーゼタンパク質を大量に生産することで、O-マンノース結合型糖鎖をタンパク質から切り出す実験ツールとして利用でき、ヒトの病気に関わるO-マンノースの糖鎖構造解析への応用が期待できる。
 ◆補足説明
 〇出芽酵母
 出芽によって増える酵母。パン酵母やビール酵母などが知られている。パン酵母は、細胞生物学や遺伝学実験のモデル生物として広く使われている。
 〇エンドO-マンノシダーゼ
 O-マンノース糖鎖を結合しているタンパク質の根元から遊離する酵素。糖鎖の末端から2糖以上の糖を遊離する酵素をエンドグリコシダーゼと呼ぶことから、今回存在が予想される全く新規の酵素を、O-マンノース糖鎖を遊離するエンド酵素という意味でこのように命名した。
 〇真核生物
 動物、植物、菌類、原生生物など核膜で囲まれた細胞核を持しその中に遺伝情報を有した染色体を持つ生物。
 〇転写調節因子、転写抑制因子
 遺伝子の発現(転写)を調節する因子のことで、タンパク質あるいはそれをコードする遺伝子を指す。通常DNAに結合し、遺伝子の発現を活性化あるいは抑制する。遺伝子の発現を活性化するものを転写活性化因子、抑制するものを転写抑制因子と呼ぶ。

 今日の天気は、雨~曇り、時々晴れ。気温は秋、最高気温は21℃・・平年並みなのかな。
 旅行先の、「賢治先生の家」で、お庭に”ススキ”が生い茂っている。”ススキ”がどうして植えられているのか、は不明。
 ススキ(芒、薄)
 別名:尾花(おばな)、茅(かや)
 尾花は穂を動物の尾に見立た
 茅は屋根材・炭俵用に使われた
 イネ科ススキ属
 多年生草本(丈は1m~2m)
 株を形成し多数の花茎を立てる
 秋の七草のひとつ


 「賢治先生の家」
 1926年、農学校を退職した賢治が農民たちを集めて農業技術や農業芸術論などを講義するために設立。
 1928年に病気になるまで、賢治はこの建物で自炊生活をしていた。
 1969年、現在地(県立花巻農業高等学校地内)に移築復元された。


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