村上春樹の新作,アマゾンで,「孤独なサラリーマンのイカ臭い妄想小説」という書評のが話題ですね.すごい面白い文章です.
それでもって今日,瀬田から台北に帰るまでの間に実際読んでみたのですが,ふつうによかったですよ.
この小説が発売になる宣伝を知ったときは,「色彩を持たない~と~」というタイトルに何そのラノベ,だめじゃね,っと一瞬軽蔑したけれど,こういう感じの小説タイトルをはやらした張本人が村上春樹ということで何も問題ない.新しくないというが問題でなければ.
結論から言うとアマゾンの書評にはほとんど賛同できない.
「孤独とか言って,いつも女にもてもてウイスキーとか飲んじゃって,そんなのボッチじゃねー」,という心の叫びは良く分かる.
しかし冷静に考えよう.収入も十分ではなく異性には持てない人物を主人公にしたら,そもそも食っていくための収入をどのように得るか,どうやって異性にもてるか,どうやったら他人と会話ができるか,というような非常に瑣末な(しかし同時に切羽詰った)目標に向かって生きていかなくてはならない.じゃあ,衣食住が足りたらそれで人間として満たされるのか,っていうと,「その通り」という答えなのが80近い自分の両親の世代の意見かもしれないし,したがって村上春樹が受け入れられることなんてないかもしれないけれど,「そんなことはない」,というのが本当のところなのだろう(話がそれるが,衣食住さえそろえばいいという世代の人たちが,必要最小限の衣食住を超える規模まで日本の経済を持っていったのはでは何のためなのかと,問いたい.) もしそうなら,衣食住異性についてはとりあえず満ちた状態から物語を始めないと本題に入れないでしょ.だからそこにかみついたら何も始まらないのでは,と考えると鼻に付くディテールも受け流せるのではないでしょうか.
彼女がほしい,結婚したい,子供がほしい,単身赴任は泣きたくなる,でも自分の時間もほしいとか,それこそが大部分の人にとっての現実だが,それをフィクションのテーマにするってどうなのよ.そんなリアルは自分の歩む人生一つで十分じゃないのか.
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