インクライン
斜面に沿って軌道を設け、巻きあげ装置などにより資機材を運搬する設備。
1)インクラインの名称を用いた傾斜鉄道例
「インクライン」の語源を調べてみると、ラテン語でclinare(傾く、横たわる)という動詞が語源であり、共通する単語としてincline(傾ける)、recline(横になる、もたれる)、decline(下落する、衰微する)などがある。「インクライン」という表現は広く使用されており、アメリカでは町の名前となっており、日本では会社の名前となっている。また、健康療法や健康器具の分野で、たとえば"角度のついた背もたれ椅子"のように傾斜の意味で広く使用されている。
幾つかの分野でインクラインの名が使用されている。
イ) 鉱山の斜坑インクライン
日本の主要鉱山で広く使用されたが、現存するものは多くない。
「鉱山用語集」には、"インクラインとは、荷物(ときには人)運搬用の軌道付昇降機で、きつい傾斜の土地で使用される"と書かれている。
雄別炭鉱、別子銅山、大嶺炭鉱、明延鉱山、三峰石灰など日本全国にわたって鉱石の輸送や資材の運搬に利用されていた。一部は観光ルートとして利用されている。
ロ) 森林鉄道インクライン
九州・四国・奥羽地方など交通手段の少ない森林の木材搬出手段として、インクラインは広く利用された。現存するものは少なくなったが、観光施設として利用しているところが数ヶ所ある。
ハ) ダム・発電所などの工事用インクライン
「建設用語小辞典」にも"インクラインとは斜面にレールを敷き、台車を動かして荷物を昇降させる装置"と記載されている。とくに発電用ダムや高所架橋工事などではよく使用されており、黒部ダム、宮ヶ瀬ダム、中里ダム、今渡ダム、合角ダム、広島空港大橋などの工事に使用され、工事完了後も利用されているものが多い。
ニ) 不特定多数の人の移動用インクライン
米国のピッツバーグ市にある住民用、ナイヤガラ滝のカナダ側の観光客用に示すように海外では人用インクラインが利用されているが、日本では人用には類似装置であるケーブルカーが使用されている。