関西ミドル 雑記帳
不動産賃貸業 元ゼネコン勤務
 



平成十九年度意見交換会を振り返る


  文 新村 圭介(Niimura Keisuke) 日刊建設工業新聞・記者

 社内で取材担当の配置替えがあり、新任の業界団体担当記者として五月のゴールデンウイーク明けから本格始動した。初めての大仕事が日本土木工業協会(土工協)と公共発注機関による意見交換会となり、正直に言って初回の関西地区は「果たして議論の内容を正確に伝えることができるのか」と、取材の場で久しぶりに緊張感を味わった。

 過去何年もの間、建設業界は公共工事の入札をめぐる談合、調整行為という暗部が表面化するたびに国民から厳しい批判を受け、失われた信頼を回復するために力を注ぐことを繰り返してきた。昨年来、土工協、そして建設業界はコンプライアンス(法令順守)を徹底し、古いしきたりと完全に訣別する決意を訴え続けてきた。構造改革への取り組みは、年初に名古屋市発注の地下鉄工事で談合が明るみに出た後も鈍ることなく進められ、今回の意見交換会でも議論の主要なテーマになると思っていた。

 土工協が意見交換のテーマに選んだ項目は(1)建設界への理解促進(2)透明性ある入札・契約制度への取り組み(3)総合評価方式の拡充――の三点。中でも透明性ある入札・契約制度への取り組みは、昨年に引き続き最大のテーマとなった。

 初回の関西地区。淡々と進む土工協と発注機関との議論は、川合勝公共工事委員長の発言後、一転して緊迫感を帯びた。川合委員長はコンプライアンスを徹底するため、非公式な形でゼネコンがかかわってきた工事発注前の技術協力、いわゆる事前協力には今後一切応じない考えを伝え、「それで予算をはじくことができるのか」と発注機関、特に地方公共団体に疑問を投げ掛けた。さらに特定JV制度に関する課題にも言及し、制度改善の必要性を強く訴えた。

 川合委員長が口火を切ったことで、意見交換会での議論は透明性ある入札・契約制度への取り組み、具体的には本来であれば一体的に発注するべき複数年工事の扱い、事前協力問題の改善、特定JV制度への対応という三項目に焦点が当たることになった。

 関東地区での意見交換会で葉山会長は「コンプライアンスの徹底だけですべてが解決するわけではない」と述べた上で、「特定JV制度や事前協力などの問題は談合根絶と切り離すことができない関係にある」と指摘。山本卓朗副会長も「(事前協力などは)談合、調整行為に陥りやすい要因だ。テーマに取り上げた本来の意味を理解していただきたい」などと制度改善の必要性を強調した。

 関東以降の意見交換会でも土工協は各地区の発注機関に対し、一貫して事前協力問題などへの対処を求め続けた。九地区中六地区で議論の様子が報道陣に公開されたが、「公開の有無に関係なく本音の話をした」(中村満義副会長)という。コンプライアンスの徹底に妨げとなる談合、調整行為という「深いわだち」に二度とはまらない強い決意が、土工協幹部の発言につながったのだろう。

 意見交換会での要請によって地方公共団体が即座に、制度改善に動くとは考えにくい。地方公共団体には発注者という役割だけでなく、産業育成を担う役割などもあり、建設業界団体の要望があったからといって、現行制度を簡単に変えることはできないだろう。ただ土工協が本音を直接、発注者に伝えたことは大きな意義があったと思っている。制度改善に時間がかかったとしても、ひたむきに取り組む姿勢を示すことで土工協、そして建設業界が過去のしきたりと訣別し、構造改革の実現という課題に真摯に向き合っているとの評価は得られるはずだ。

 公共工事に対する国民の理解は決して十分とは言えず、建設業界への批判や誤解も根強い。意見交換会で葉山会長は、先人の言葉を借りる形で改革に向けた決意を発注機関に伝えた。それは土工協の設立趣意書に記された「業界に道義を昂揚し技術を研鑽し責任感を増強し以て土木復興事業推進の一翼として国家再建に寄与せん」という一文だ。

 戦後の荒廃した国土を復興するため、建設業界は力を尽くした。道義という言葉を法令順守に置き換え、葉山会長はコンプライアンスの徹底を追求し続ける決意を全国で訴えた。

 建設会社といっても全国には五十数万社の許可業者があり、土工協の会員はほんの一握りにすぎない。法令違反などの問題が表面化するたびに「建設業界は」とひとくくりにする論調や考え方に疑問を持つ業界人は決して少なくない。建設業界に対するイメージを変え、信頼回復につなげる努力も、ひとたび問題が起これば水泡に帰してしまう。

 意見交換会の全日程が終了した後、記者会見した葉山会長は「コンプライアンスの徹底は(業界が)生まれ変わるための最低限の必要条件だ。それだけでないことは分かっているが、主張しただけの価値はあったと思っている」と強調。中村副会長も「どんなに不便であってもわれわれは(談合などの不正行為を)決して行わない」と言い切った。また山本副会長は「(発注者と受注者の)双方が一緒になり、元に戻らない努力をするべきだと痛切に感じた」と話した。

 土工協の改革に向けた姿勢と決意を意見交換会に参加した発注機関はどう受け止めたのか――。その結果が出るまでしばらく時間はかかるかもしれない。だが社会資本整備の担い手として官民が本音で対話し、より良い制度は何か、建設界はどうあるべきかを追求することは非常に重要だ。今回の意見交換会が今後進むであろう構造改革にどのような役割を果たしたのか、紙面に書く日が来ることを待ちたい。


 
   

 



 




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