private opinion

next live 12.14 高円寺showboat(S)

フェスへ行こう 2

2007-01-28 17:41:42 | GOD‘S ORDER
公園の鉄骨を丸く編んだ遊具がひとりでに回転する。控え目な速度だが掴み乗る意思のない者には水を歩く事に等しく困難だ。ひたすら虚ろな万人にハイスピードな多次元の拡張を促す男がいる。
赤だの紫だの橙だのマーブルな空がポケットに忍ばせた残虐性にペーストされ、クリムティな彼岸が形成されつつあるのだが、その事に気付くにはやはりまだ随分先の事だった。
そんな幼く、グリスの乾いたブランコを高く漕ぎ上げ、さらに高く漕ぎ上げマーブルな空宙に徒手空拳で挑み、無力感に焦燥する所謂そんな幼年期だった。
いつしか冥府の目でこちらを見つめる男の存在に気付き、半円の半復、推力の臨界で視線が交錯した。
フェスティバルに行かないか?
確かにそう聞こえたがその単語から喚起されるイメージが男の言うそれとはなんだか違う気がした。
フェスティバル?
二度は言わないよ、そう聞こえたのなら今すぐ早割りチケットを探した方がいい。
それって何の事なの? 何を言ってるのか分からないよ。大体おじさんは誰なのさ?
おじさんじゃねぇよこのやろう、、殺すぞ。
一番手っ取り早いと思われていた人間のコミュニケーション手段としての会話という行為が案外ひどく不自由なモノなんだなと思った。
そのまま黙り込んでただやり過ごすつもりか? 無理ですな!! 君はもうサイケデリックの兆しが見える。数多ある行く道の中でわざわざ君もそこへ行くんだよ。
唐突だった。未来を犯された気がした。
あなたもサイ?、、サイケデリックなの?
あぁ、袋の中身を見てしまったんだよ、いやだと言ったんだがね。ただ階段が下ってるって場合もあるぜ?
対峙する男の目から正気と狂気を伺うが男の視線はこちらの頭蓋を貫き遥か彼方にサイティングしている気がした。
ブランコが揺れる、、き、くきぃ、、き、くきぃ、、
マーブルな空の色調のうねりがそのリズムに同期して様々な模様に反映されていく。
き、くきぃ、、き、くきぃ、、
単調で性急じゃない反復に意識が持っていかれそうになった瞬間男が静かに言った。
早い方がいいぞ、フェスティバルに行くんだな、、ヨ.ラ.テンゴが待ってるぜ。
目眩が襲った。頭がぐらぐらした。
なんでヨ.ラ.テンゴが出るって分かるんだよ!
目が覚めたのは意味不明の自分の叫び声に驚いたからだった。さながら悪夢からの目覚めの例に漏れずパジャマを汗でぐっしょりと濡らし、起こした半身の肩を震わせていた。
周りに目を配り見慣れた自室の家具配置、カーテン隙間から差し込む朝の日光の筋に確かな日常を少しずつ感じ取った。
ただ一つ見慣れない物が勉強机の上にあったが取り戻した現実を再び喪失する程見慣れない物でもない。
その時部屋の外から父の声がしてドアが開いた。
日曜日だからっていつまで寝てるんだ?
あぁ、父さんおはよう、もう起きたよ、その机の上の袋はなんだろう、僕にプレゼントかな?
プレゼント? これがプレゼントだと思えるのはお前次第だよ。
父が袋を持ってこちらにかざした。
ビックカメラの袋じゃないか、なんだろう、もしかしてMP3プレ、、うわぁ! なんか動いてるよ!
そんなありふれたモノじゃないよ、しかしお前が目を付けられるとはな、これは決まった事なんだ。
袋の中でがさりがさりと音がした。
頭の中に見た事もない虚ろな目をした男の顔が浮かんだ。
うわっ!いやだよ、いらない!
そんな訳にはいかないんだ、中を見るんだ。
いやだ! いらない! 来るなっ!
そんな訳にはいかないんだ、、
お願いだから、、来ないで、
そんな訳にはいかないんだ、中を見るんだ。