
NHK受信料「徴収督促チップ」が全テレビに!?
NHKが中心となる「新CAS協議会」は全受信機にACASチップを内蔵させようとしているが、これはユーザーにとって大問題だ(写真:YNS / PIXTA)
2018年は放送・映像機器いずれの業界にとっても大きなイベントとして、12月1日に「4K/8K実用放送の開始」が待ち構えている。ところが実用放送開始まで1年を切った現在も解決していない問題がある。
昨年7月にも記事「B-CASカードは4K/8Kになると"悪質化"する」で伝えた「CAS(コンディショナルアクセスシステム)」の問題が解決していないからだ。
CASとは契約状況に応じて放送視聴の可否を制御する仕組みで、有料放送の契約者識別に使用する。NHKの受信料納付を求めるメッセージ表示も、この仕組みを用いて実現している。現在使われているB-CASカードには、さらにコンテンツを保護する暗号化機能も有しているが、B-CASカードはすでに暗号化を破られていることもあり、4K/8Kにおける新しい仕組みとして有料放送事業者で組織した「新CAS協議会」が次世代のCASとしてACASチップを開発した。目的は「NHK受信料の徴収」しかない
問題はこのACASチップを全受信機へ“内蔵させる”ことを前提にしていることだ。なぜなら、ACASチップ内蔵の実効性が“NHK受信料の徴収”にしかないからである。加えて言及するならば、世界中、どこを探しても「CAS機能を内蔵するテレビ」は日本以外に存在しない。
受信料徴収を促すために、消費者のコスト負担や不利益を伴う機能をテレビに“必須要件”として入れることは、どう説明しても正当化できない。順を追って説明しよう。
“CASに関する議論”で必ず出てくるのが「4K/8Kコンテンツを適切な価格で調達するためにも著作権保護の観点からも、新たに強度を高めた暗号化の仕組みが必要」という話である。ACASチップの暗号化仕様に関しては、テレビメーカーなども参加する情報通信審議会で話し合って決められているのは事実だ。
しかし、“暗号化の仕組み”と“コンディショナルアクセス”が一体化している必要はない。つまりACASチップ(あるいはカード)がなくとも、暗号化は行うことができる。
たとえば日本以外の国に目を向けると、無料放送は暗号化が行われないことが普通だ(これはNHKとよく比較されるBBC〈英国放送協会〉も同じ)。唯一、暗号化されているのは韓国の4K放送だが、韓国の4K放送ではCASは採用されておらず、単純な暗号化(スクランブル)のみ。スクランブルのみであれば、テレビ用SoC(System on a Chip)に内蔵されるセキュリティ機能とソフトウエアによって組み込むことができるため、CASという仕組みは必要ない。
つまり、CASが必要な理由とは“契約の状態を確認することだけ”にほかならない。コンテンツ保護とコンディショナルアクセスを、あたかも一体化された切り離せないものであるかのような議論は、筆者が知るかぎり日本以外では行われていない。