グローバル・タックス研究会 ~Study Group On Global Tax~

貧困のない、公正かつ持続可能なグローバリゼーションのための「グローバル・タックス」を提言する、市民研究グループです。

《資料》 通貨取引開発税(CTDL)について

2007-04-14 | トービン税/通貨取引税/金融取引税
2月に開催された「連帯税に関するリーディンググループ」オスロ会議後に、グループ内にCTT(通貨取引税)ワーキンググループ設置が決められたが、その税の性格は開発資金のためのCTT、つまり通貨取引開発税(Currency Transaction Development Levy, CTDL)である。オスロ会議には、昨年12月開催されたCTDLに関するワークショップの資料が提出された。


 通貨取引開発税(Currency Transaction Development Levy, CTDL)

           2006年12月5日オスロワークショップの要旨
    2007年2月6、7日第二回リーディンググループ本会議への提供資料

2006年12月5日、開発のための通貨取引税(CTT)が持つメリットに関する議論を継続するため、リーディンググループメンバー、国際機関の代表者、専門家、およびNGOがオスロに集まった。これは英国のNGO、Stamp Out Poverty(貧困を撲滅しよう)などが提案する税である。議論はノルウェー外務省により依頼されStamp Out Povertyが作成した新しい論文からの情報を活用したものとなった 。議論の多くは航空連帯税の各所でなされた議論と類似したものであった。活発な議論を完全に反映しているとは言えないが、以下が議論を編集、抜粋した要旨である。

トービン税とCTDL:大きな違い
• もともと1972年に提案されたトービン税が行動を大幅に変えることを目的としているのに対し、CTDLはそうではない。前者が投機の速度を落とすために金融市場の「車輪に砂を投げ込む(妨害する)」ことを目的としているのに対し、CTDLの目的は開発のための収益を上げることのみである。
• ジェームズ・トービンが高い税率を提案したのに対し、Stamp Out Povertyが提案する税率は例えば0.005%(100分の1%の半分)と非常に低いレベルである。つまり、市場参加者の行動を大幅に変えることはないが、特に広範に適用された場合に大きな収益をもたらすレベルである。
• トービン税に対する周到に準備された反対論は、現在の議論でも繰り返し使われているが、その多くはCTDLには当てはまらない。

金融取引税は珍しいものではない
• 欧州連合(EU)、英国、フランス、ベルギー、アイルランド、フィンランド、およびギリシャには既に金融取引税が存在する。
• 英国は株式取引に印紙税を課しており、税率は0.5%、年間50億ポンドの税収を上げている。
• おそらく若干逆説的かもしれないが、1934年から実施されてきた米国の証券取引税は、現在のところ通貨取引税に最も類似した税かもしれない。
• 金融取引税は珍しいものではないことを考えた時、顕著な特徴として挙げられるのは、(例えば株式や公債以外の)通貨取引が対象となっていない点である。

航空連帯税に類似した論拠
• CDTLを支える基本的な考えは、グローバリゼーションの最大の受益者からグローバリゼーションから取り残された人々に富を再分配することである。
• ここから得られる基金は開発努力の足りていない分野に取り組むために使用することができる。例えば、クリーンな水、基本的な公衆衛生、保健分野の人材、国連中央緊急対応基金(Central Emergency Response Fund、CERF)への追加資金である(Stamp Out Povertyによって提案された案)。
• 航空連帯税の場合と同様、CTDLは基本的には国内税として最小限の費用で容易に一国単独で実施でき、国内税の主権に影響を及ぼすこともない。
• とりわけ、提案されたCTDLでは現在導入されている航空券税よりずっと低い税率が提案されている。

「より実現可能な」課税提案の一つ
• ほとんど全ての税が回避可能だが、問題は回避の価値があるかどうかである。
• 近年採用されるようになった、単一、世界的かつリアルタイムの外国為替の決済システム(多通貨同時決済銀行=CLS)、銀行の自己資本率に関する国際合意、さらに直接的ではないが蔓延するマネーロンダリング(資金洗浄)や対テロの資金調達に関する規定によって、CTDLの回避が非常にコストのかかるものとなっている。このコスト高のため、ほとんどの者にとってCTDL回避は価値のないものとなっているといえる。
• (純額ベースではなく)総額ベースで全ての取引を扱っており、全ての外国為替取引の90%を扱うと見られるCLSの導入により、株式では以前から存在していた単一決済システムの類が現在、外国為替においても存在するようになった。
• 株式決済と異なり、中央銀行は通貨決済と密接に関わっているため、通貨取引に対する税の徴収は株式より容易である。
• 比較するとすれば、通貨取引税は付加価値税(VAT)よりはるかに単純な形で実施することができる。
• CTDLの一国単独での実施に対する有力な法的反論は存在しない。
• 主流エコノミストの間に残る「基幹的な」懐疑的態度は、大部分が開発のためのCTTに関する最新の論文を読んでいない、また検討していないことから来ている。

残された技術的な問題
• トービン税とCTDLを区別するのは重要なことだが、租税回避の問題(課税可能な商品から非課税のものへの移動、代用)は残る。
• 取引監視の必要性に関わる問題(大規模な一連の仕組みが必要か?)、所有権(取引の所有者は誰か、つまり税収の所有者は誰か?)、および税収の「タイミング」(決済時のみ?)については、まだ十分に、また確実に取り組まれておらず、今後の課題である。
• 一国単独で実施可能との主張については、まだ疑問が残る。

政治的な理由から始動を拒む人々?
• 特に銀行界、金融界(おそらく世界で最も強力なロビーであろう)、および主流エコノミストの間に残る通貨取引税に対する強い反発は、リスクの捉え方によるところが大きいのではないか。
• 高い税率の通貨取引税が導入されれば、行動に影響を与えることが推測され、市場の車輪に砂を投げ込む(妨害する)ことが推測され、利益幅を削減することが推測される。このため、同税の実施可能性が実証された場合に、財政的な理由から、課税傾向のある政府が低い税率のCTDLという一線を越えるのではないか、という懸念がある。
• 政府内の考えについて言えば、ノルウェーが既存の二酸化炭素税に頼るだけでなく新しい航空連帯税を導入するのを躊躇していること自体が、なぜCTDLがうまく「飛行」しないかを説明する一助となるのではないか。

CTDL試行を求める声
• 予防接種のための国際金融ファシリティ(IFFIm)などの革新的メカニズムを設立するのには相当の技術的困難が伴ったが、克服する政治的意思があったために乗り越えられない問題ではなかった。同様の論理をCTDLにも適用すべきである。
• CTDLの主唱者とCTTやトービン税の否定論者の間で議論を行きつ戻りつさせ続けても、あまり有益とはいえないのではないか。
• 今こそ試験的に第二の開発税を設立し、ノルウェーまたは他国といった一つの国が単独でCTDLをパイロット税として試行し、フランスが主導する航空券税に続くべき時である。

より広範な支持者を確保する必要性
• 現在CTDLを推進している支持者の幅は狭すぎる。このアジェンダを進めるためには、市場参加者、中央銀行および財務担当省によるより建設的な関与が必要である。


●パネリスト:
ノルウェー外務省 ヘンリック・ハーボー(Henrik HARBOE)(議長)
インテリジェンス・キャピタル有限責任会社(Intelligence Capital Ltd.)アヴィナシュ・パソード(Avinash PERSAUD)(基調講演者)
オタワ南北問題研究所(North-South Institute)ロドニー・シュミット(Rodney SCHMIDT)
ブリュッセル自由大学(Free University of Brussels)リーヴェン・A. デニス(Lieven A. DENYS)
OECD開発センター(OECD Development Centre)ヘルムート・ライゼン(Helmut REISEN)
オスロ大学(University of Oslo)カール・オーヴ・モエヌ(Karl Ove MOENE)
Stamp Out Poverty デービッド・ヒルマン(David HILLMAN)

                     (翻訳;オルタモンド翻訳チーム)




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