どのように科学が進歩して行ってもこうはなるまい。
過去の足跡を探し当てる事が出来ても、未来を予測し得たとしてもそこには限界があろう。
悲しみの真っ只中に身を置く人の心の内はその人自身にしか分り得ない。
今佳子はそれらの全てを見守っている偉大なる神の下に居る。
つまり宇宙を創造した遥かなる神の手に魂を委ねているのである。
雅夫との会話は続く。
「あなた、いさかいもありましたね。それは夫婦ですもの、多少のことは誰だってあります。
お互いに自分を主張しすぎて感情的になったけれど大したことではなかったわね。
でもあの時のあなたの言ったこと、今でもはっきり覚えていますよ」
あの時あなたの意外な面をみて驚いたのでしょうか。
いさかいの後しばらくしてあなたはこう言いました。
「僕はあの時初めて君のずんと構えた主婦としての逞しさを感じて仰天しました。
僕はまだ幼かったのです。
50歳になってもまだ学生気分を引きずっていたのです。
ほのかな恋心をいつも君に感じながら、そして甘えていたのですね。
まるで子供、お笑いですよ。君の立派な姿勢に圧倒されてようやく目が覚めました。
男性はロマンチスト、女性は現実的とかの話を聞いておりましたが、そうか、と思いました。
その後脱皮の努力を重ねてきましたがなかなか難しいものです。
でも必ずや立派な男になって見せますから。待ってて御覧」
その言葉を聞いて私はハッとしたことを覚えています。
あなたにはこんなにも純粋な面があることを知って、私の方こそ暢気な主婦だったのです。
「私の方こそ単純でお馬鹿さんだったのですね。ごめんなさいね」
「……、……」
突然ドアが音もなく開いた。
空気の流れでそれを敏感に感じ取った佳子は反射的に振り向く。
2人が仁王のように立っている。
「父さんは?」
「大丈夫よ、意識は残っている」
「そっか……間に合ってよかった。
「そっと手を握り、耳元で声を掛けてごらん」
過去の足跡を探し当てる事が出来ても、未来を予測し得たとしてもそこには限界があろう。
悲しみの真っ只中に身を置く人の心の内はその人自身にしか分り得ない。
今佳子はそれらの全てを見守っている偉大なる神の下に居る。
つまり宇宙を創造した遥かなる神の手に魂を委ねているのである。
雅夫との会話は続く。
「あなた、いさかいもありましたね。それは夫婦ですもの、多少のことは誰だってあります。
お互いに自分を主張しすぎて感情的になったけれど大したことではなかったわね。
でもあの時のあなたの言ったこと、今でもはっきり覚えていますよ」
あの時あなたの意外な面をみて驚いたのでしょうか。
いさかいの後しばらくしてあなたはこう言いました。
「僕はあの時初めて君のずんと構えた主婦としての逞しさを感じて仰天しました。
僕はまだ幼かったのです。
50歳になってもまだ学生気分を引きずっていたのです。
ほのかな恋心をいつも君に感じながら、そして甘えていたのですね。
まるで子供、お笑いですよ。君の立派な姿勢に圧倒されてようやく目が覚めました。
男性はロマンチスト、女性は現実的とかの話を聞いておりましたが、そうか、と思いました。
その後脱皮の努力を重ねてきましたがなかなか難しいものです。
でも必ずや立派な男になって見せますから。待ってて御覧」
その言葉を聞いて私はハッとしたことを覚えています。
あなたにはこんなにも純粋な面があることを知って、私の方こそ暢気な主婦だったのです。
「私の方こそ単純でお馬鹿さんだったのですね。ごめんなさいね」
「……、……」
突然ドアが音もなく開いた。
空気の流れでそれを敏感に感じ取った佳子は反射的に振り向く。
2人が仁王のように立っている。
「父さんは?」
「大丈夫よ、意識は残っている」
「そっか……間に合ってよかった。
「そっと手を握り、耳元で声を掛けてごらん」