シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

ガー君の夢 (夕焼け日記より)

2013-02-24 08:04:25 | Weblog

作品272(夕焼け日記より)

ガー君は僕の友達さ。
あの白鳥はね、「ガー君」と呼んだら僕のところへ来るんだ。
首のところを撫でてやるととても嬉しがるんだ。
いろんな話をするんだけれど、
何故か殆ど分かり合っていると思うよ。
「背中に乗ってみたいな」と言ったら、
僕の足元まで擦り寄ってきてさ。
「ガー、ガー」と声を立てるんだ。
勿論足だけを乗っけるのだけれど、
くるくる回って僕の顔を見上げるんだ。
きょとんとした目で「どうだいこれでいいかい」と言うんだ。
それが嬉しくて可愛くて、
それから一緒にお菓子食べるんだ。
ポケットの中をがさがささせていたら羽根をバタバタさせて、
「早く、早く」と催促するんだ。
代わる代わるにパクパク食べて、ガー君はね、
何度も頭を下げ、「ありがとう」を言うんだ。
それからガー君は「もう出かけるよ」の合図を送るんだ。
「気をつけろよ、明日又会おうぜ」
僕は小さくなっていく真白の背に大声で声をかける。
ガー君はくるりともう一回転して、
それから見えなくなった。


感性を鍛えよう (夕焼け日記より)

2013-02-17 08:43:49 | Weblog

作品271(夕焼け日記より)

時間とは冷酷だね。
ひとかけらの情もないからね。
待った、は絶対にきかない。
だから慎重にならざるを得ないのだ。
苦しみの根源はここにある。


だけどねえ、本当はね、
間違えたって大したことはないんだよ。
そうと気付いた時点で瞬時に方向転換すればいい。
その瞬発力が生きる力の分かれ道だ。
頭の良し悪しではない。
学識でも運動能力でもない。
命の感受性、命の頑丈さ、とでもいうか。
一輪の花だって大木だって、
時間や変化など一切気にはしていない。
何事が起こったって臨機応変。
最善の手を尽くして生き延びる。
要するにその感性を鍛えておくことだと思うがね。


いざ勝負 (夕焼け日記より)

2013-02-10 09:06:49 | Weblog

作品270(夕焼け日記より)

 

朝目覚めた瞬間に「今日の体調は」と問いかける。
胃、心臓、肺などの臓器を一瞬にチェックする。
これが分かるようになったのはここ数年來の経験による。
良と判断したときは、終日いきいきと過ごす。
不良と判断したときは、何をも望まず終日我慢だ。
私にとって目覚めの瞬間は最も重要なとき。
一日の心構えは、殆どそこで決まる。
見事な技を身につけたものだ。


でもまさかねえ、こんな事態になるとはね。
余生を存分に謳歌できると信じ込んだが運のつき。
人生何が起こるか知れたものでない、といいながら、
このざま、不覚である。


サイコロ振って丁か半か。
いざ勝負。
残念ながら今日は半のようだ。
そっと静かに気合を入れて過ごさねばならん。
丁でも半でも行き先は同じだろうが、半は道が険しい。
僕はワルだったから、半、半で追っかけられると観念している。
これが我が人生ならいたし方もなし、頑張り通すのみ。
終局への手順がいかなるものか、じっくりとご覧あれ。
存外に奇抜で格好いい図が出来上がるかも知れんぞ。


爺さんの夢 (夕焼け日記より)

2013-02-07 08:34:39 | Weblog

作品269(夕焼け日記)

爺さんは公園のベンチに腰をかけ、ぼっとしていた。
「ねえ爺さん、爺さんの将来の夢って何?」
見知らぬ子が突然横にきて言う。
爺さんは思いがけない質問に慌てた。
口をもごもごさせながら、「ところで君は何年生?」
とっさにかわした。
「僕は六年生、お医者になるんだ」
「偉いね、随分勉強してるんだ」
「そうだよ、ねえ教えて、爺さんの夢って?」
「それがね、こんな歳になったらね、消えていくんだよ」
「へえそうなの。でも、楽しみっていっぱいあるでしょ」
「それはあるさ、君のような子供達とお話しすること、
これが一番の楽しみかな」


本当はポックリ逝くことが爺さんの望みなのだが、
まさかこんな子供とそんな話の類は、ない。


今日学校で将来の夢についての話があったんだ、と言う。
「頑張って、しっかりな」
その子には何程の実にもならなかったろう。
しかし爺さんは身を清められたような気がした。
その子の後姿を優しく目で追いながら、
やがて、よいしょと腰を上げる。



 



 


凄いね、あの老人 (夕焼け日記より)

2013-02-03 09:34:25 | Weblog

268(作品268)

あの老人の脳の中って一体どうなっているんだろうね。
少々のことがあっても動じない、平然たるものだ。
ついこの間あんな不幸ごとがあって、
さすがに二、三週間、うちひしがれているように見えたけれど、
もういつもの姿だよ。
見事に立ち直り、凛としている。
それだけじゃない、困った人の手助けをしているというじゃない。
凄いね、とてもあんな真似出来ないよ。
それに比べりゃ私など、屑みたいなものだ。
しかしね、何だか血が騒ぐ、とてもうらやましい。
あの人、こんなこと言っていたそうだよ。
何もしないでいると気が狂いそうだ。
とにかく何かに夢中にならないと...
それはそうだと思うけれど、
でもやっぱり根っから強靭なんだよね、あの人。
弱い奴ってのは、それどころじゃないものな。
悲しみの坩堝の中に閉じこもって青瓢箪になるか、
自棄酒のアルコール漬けになってくたばってしまうかだね。
その人の人となりは土壇場になって本性現すんだ。
いやらしいね、バレちゃうぞ。