シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

人の道は遠く (夕焼け日記より)

2011-06-26 08:11:24 | Weblog

作品170(夕焼け日記より)

恐怖に身を震わせながら、
最後の最後まで助かりたいと願い、
息を引き取る瞬間まで家族のことを思い、
津波に飲まれていった沢山の人々。
跡形も無い無残な傷跡を繰り返し見た。
そして先日、
一寸先は闇、とはいうが、
私の身近なところで思いもよらぬことが起こった。
彼女は絶対大丈夫、頑丈なひとだからと思っていたのに、
やっぱり生身の身体であった。
痛い、痛いといって睡眠も取れない有様。
見通しの立たぬ不気味な病に取り付かれている。
身をよじるほどの痛みに苦悶する彼女が可哀想でならぬ。
私も病人、余程肝を据えてかからねばならん。
今日は又やけに気分のすぐれぬ日である。
冷たい雨がパタパタと音を立て、心の張りを打ちのめす。
ふらふらした頼りない心臓が身体を動かすことを拒む。
悶々としながらもごろごろばかりではどうにもならぬ。
けたたましく気合を入れ、慣れぬ家事に取り掛かる。
残り少ない人生とはいえ、まだ先がある。
行き着くところまでは行かねばならぬ。
あの、被災に遭った人々のことを考えてもみよ。
我、はるかに及ばず。
これも試練、その先には必ず光があるはず。
人の道は遠く、つくづくそう思う。

 


思いは届くだろうか (夕焼け日記)

2011-06-19 08:06:39 | Weblog

作品169(夕焼け日記より)

遠くのほうでぞろぞろ、ぞろぞろ。
あ、あれは、
可愛いーほんとに可愛い。
十数人の子供たち、
電車ごっこのように輪を作り、
それぞれがその中に入ってロープを掴んで歩いている。
二歳ぐらいであろうか。
ふらふら、よたよた、足元はまだおぼつかないが、
何とか列になって進んでいる。
口々に黄色い声を発しながら、がやがや、大騒ぎの群れだ。
「今日はお魚いるかなあ」
汗だくの先生二人が橋の欄干に子供たちを並ばせ、指差す。
川辺の水がバシャバシャと音を立てる。
大歓声があがる。
何とも無邪気であどけなく、全員束にして抱きしめたくなる。
純粋無垢、何の汚れも知らず、あるがままの姿で、
まるで自然の中でふざけあっている、鯉たちと同じだ。
心癒されるひととき。
ふと、あの子供たちのことを思い出す。
大津波にのみこまれていった沢山の可愛い命。
家族を、友を、一瞬にして失った子たち。
ついこの間まではこんな笑顔で幸せいっぱいだったろうに。
悔しい、歯がゆい。
幸せと不幸、喜びと悲しみがいつも同居するこの地球。
数十億年の歴史は消えることなく、これからも時を刻むであろうが、
人類の英知を総動員して何とかならぬものか。
一部の人ではいけないのだ、みんな全員仲良く、
そんな、それはありえないこととは分かっていても、
もどかしさで胸が締め付けられる。
思わず目頭が熱くなり、
まだまだ先は長いぞ、きっといいことがあるぞ、
どうか頑張って、と祈る。
思いは届くだろうか。
ポロポロと落ちる涙を手で払いのけながら、
振り返り、振り返り、帰路につく。
いつもの散歩道。

 


ようやく一歩前進 (夕焼け日記より)

2011-06-12 08:25:55 | Weblog

作品168(夕焼け日記より)

目が覚めて、今日の体調は?と問いかける。
状況が瞬時に分かるようになった。
落ち込むときもあれば、爽やかな気分になるときもある。
こうして日々を重ね、
弱り行く我が身を思うとき、
このままでよいものか、と自らを叱責し、
まだまだ負けてなるものかと思う。
しかしその思いとは裏腹に、身体は思うようには動かない。
明らかにそれどころではなくなっている。
最早行動で表すことはかなり難しい。
どうしようもないものは、どうにもならぬ。
「親父、元気でやっているかね」
不意の息子からの電話であった。
生きていることが他人の幸せにつながるなんて、
思いもしなかった。
ようやくにして我が身の現状を認め、
この我儘が許されると思い始めた今日この頃。
やっと一歩前進。
体調に合わせそれなりに、
ひとつの山を越えつつあるのであろうか。


 


一人ぼっちじゃありません (夕焼け日記より)

2011-06-05 08:09:26 | Weblog

作品168(夕焼け日記より)

やっぱり見えないのですか。
すぐそこに居るのですけれど、
やっぱり見えないのですね。
あなたがどこにいようと、何をしていようと、
私はいつもあなたの傍に居るのですけれど、
やっぱり見えないのですね。
でもね、
あなたのことは何もかも全部分かっています。
あなたの苦しみや悲しみ、
どんなときでも私はあなたと共に涙しています。
あなたは決して一人ぼっちなんかじゃありません。
心静かに、じっと、星空を見つめてごらん。
目を閉じて寝転がっていてもいいのですよ。
少しずつ、少しずつ心の中が落ち着いてきます。
そしたらね、
楽しかったときのこと、
嬉しかったときのこと、
そんな、よかったときのことをずんずん思い浮かべるのです。
やがてあなたの心の中は涙に洗われ、清み、
時を忘れ、思い出の中に浸っていきます。
それはね、私の姿が写ったからですよ。
心配しないで、
私はどこまでもあなたと一諸、
見守っています。