作品5(夕焼け日記より)
人はこんなに進化したというのに、
人の社会はこんなに進化したというのに、
どうして「死の自由」がないのだろう。
もしも「死の自由」があったとしたら、
どんなにかうれしいだろうに。
どんなにか希望を持って生きられるであろうに。
どんなにか力強く生きられるであろうに。
どんなにか生きがいを感じるであろうに。
誰だって元気で生きていたい。
けれども、
誰だって死に様が怖い。
多くの人が言っているよ、
「痛みに苦しみながら死ぬのはいや」って。
「ぽっくり死にたい」って。
それなのに、どうしてだろう。
「死の自由」がないなんて。
その時、
みんなが集まって、いろいろなお話をして、
穏やかに「さよなら」が言えないですか。
いやいや、いぜれ分かるときが必ず来る。
死に様は生き様であることを。
「死の自由」は「生の自由」であることを。
人は賢いから。
作品4(夕焼け日記より)
この空の色って何色というんだろう。
白色?ねずみ色?銀色?
薄青色?薄ねずみ色?
ぼやっとして霞んで見えるから、霞み色?
ここまで出かかっているのに出てこない。
きっと言葉がないのだ、この色は。
木々の梢も、電線も、ぴくりとも動かない。
風が全くないのだ。
時々車が通るが、その音は遠くに聞こえる。
人の話し声がときどき聞こえるが、幸せそうだ。
小鳥が一羽電線に止まった。
ぬくぬくとしてしばらく動かない。
やけに穏やかな日だ。
待ちかねた春がやっと来たのさ。
そうさ、春の色だよ。
元気を出そうか。
それとも、一眠りしようか。
作品3(夕焼け日記より)
寒いぞ、寒いぞ、寒いぞ、寒い、寒い。
寒いというよりは冷たいぞ。
冷たい、冷たい、おー冷たい。
風のせいだけじゃないぞ、体の芯が凍り付いてくる。
氷の水が体の中へ染み込んでくるようだ。
もういやだ、この寒さ、冷たさ。
もう参ったよ。勘弁してよ。助けてよ。
またぴゅーと音がし始めた。
風だよ。風。
いつになったら終わるんだ、こんな日。
作品2
氷のような風が空気を切り裂き、あちらこちらで悲鳴が上がる。
電線は大きくうねり、波打つ。
太陽はゆっくり西へ傾き、炎の塊は赤色にその姿を見せる。
やがてあたりは灰色になり、それから真っ黒になる。
一筋の明かりの下で仰向けになり、目を閉じる。
まぶたの中にかすかな明かりがともる。
静まり返った闇の中で再びあの風が空気を切り裂く。
ここはどこだろう。
安住の地か、それとも....
夢うつつ。
作品1(夕焼け日記より)
月の表面って恐ろしいところだね。
空気も風も何にもなくて、岩だらけの、土だらけの、でこぼこの、
あれじゃ冷たすぎるよ。寂しすぎるよ。孤独の塊じゃないか。
雰囲気は何となく分かっていたけれどね。
だって、何回も見たことあるから。涙したことがあるから。
いやな思い出さ。
いくら未知の魅力が凄いと言ったって、あんな所、ぞっとするね。
何と言ったってここだよ、この世だよ。
月から見た地球って、まるで巨大な宝石ジャン。
巨大な命の塊。
これって、ひょっとしたら宇宙にたった一つしかないのかも。
こんなものが真っ黒の空間の中でぽっかり浮いているなんて、信じられない。
ここが天国さ。いや、きっと神の国。
やっぱりここで静かに暮らそう。
空や山や海や花や木など、見ているだけでいいさ。
骨になってもあんな所はいやだ。