シャボン玉の詩

前へ前へと進んできたつもりでしたが、
今では過去の思い出に浸る時間も大切にしなければ、
と思っています。

(8N)霧の彼方(2003小品集)

2018-04-05 15:32:14 | Weblog
佳子は外でひとこと、ふたこと話して、それから隊員の2人がどどっと入って来る。
佳子はじっと傍で邪魔にならないように見守っている。
こうなったらじたばたしてもしょうがない、全てはお任せで成り行きに任せるしかない。
何とか良い先生に診て貰って欲しいと願うばかりである。

雅夫はぐったりしたままであるが状況はしっかりと読み取れている。
この心臓が漸く完治するかもしれないと思いながら開き直っている。
してやったりの気持が半分ぐらいはある。

1人の隊員が、
「大丈夫ですか、私の手を握ってみて下さい。それからラリルレロと言って下さい」
と言う。
確認した後、雅夫の手を自分の膝の上に乗せて脈を計る。
実に見事な早業で容態や症状を手際よく観察している。
別の1人が何やら機械を取り出して胸や足にペタペタとつけ始める。
心電図かなと佳子は思う。

雅夫は雅夫でひょっとしたら病状が掴めたかもしれないぞと思っている。
何年もの間苦しめられてきた謎の病気が白日にさらされるかもしれないぞと思っている。
――――それにしても痛みを感じないのが解せないな。あのラリルレロは上手く癒えなかったような気がする。
――――本当に心臓だろうか。
思いを巡らせせているうちに少し意識が混沌として来始めていることに気がついた。
少なくてもこのように意識が混濁するなんてことは1度もなかった。
それが気になりかけている。
脳をやられたとしたらこれは大変だぞ、と思いだしている。

「痛みますか」と問いかけられて、
「いえ、耐えられる状態です」と意思表示をする。
言葉として発せられているかどうかは分らないが、反応は間違いなくある。
それは自分でも認識している。佳子もそれを分っている。