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ペットシッターを営む著者が、日常業務を交えつつ、ペット関連の本や映画を紹介します

小説『灯台守の話/ジャネット・ウィンターソン』

2021年01月23日 21時50分00秒 | 犬の本

この仕事を始めて16年ほどになります。依頼されるペットは犬と猫が9割以上を占め、あとはウサギが少しと、フェレット、リスなどがほんのわずかという内訳です。犬と猫の比率は、2005年に名古屋で開業した当時はほぼ半々で、若干猫が多いくらいでした。その後、2010年に岡崎市に移ってからは、逆に犬の依頼のほうが多くなりました。やはり都会の名古屋に比べると岡崎は土地が広くて一軒家も多く、犬を飼いやすい環境なのかと思っていました。ところがその後、比率は逆転して猫のほうが多くなり、今や全依頼の7~8割程度を猫が占めるようになりました。

その一方で、犬の根強い人気も感じます。とくに、飼い主さんの犬種ごとの好みがはっきりしていて、レトリーバーなど大型犬が好きな人、ミニチュアダックスやトイプードルなどの小型犬が好きな人、どうしても柴犬が好きな人などがくっきりと分かれます。思えば、同じ種でこれほど体の大きさや見た目が違う動物は、他にいません。宇宙人が地球に来て、グレート・デーンとチワワが同じ動物だと言っても信じてもらえないことでしょう。

今回ご紹介する小説『灯台守の話/ジャネット・ウィンターソン著・岸本佐知子訳』にも、すこし変わった体つきの犬が出てきます。主人公の少女シルバーが飼っている犬で、名前をドッグ・ジムといいます。シルバーは母親と共に、スコットランド北岸にあるソルツという町で暮らしています。世間から邪魔者扱いされている彼らは町はずれに追いやられ、その家はなんと崖の上に斜めに突き刺さっています。椅子は床に釘で打ち付けてあり、夜はハンモックで眠ります。家の内外を歩くにも、シルバーと母親は体をロープで結び、崖から落ちないよう注意しなければなりません。ドッグ・ジムも、前脚で斜面をよじ登り、後ろ脚で踏ん張りつづけたせいで、前脚が後ろ脚より5センチほど長くなっています。

やがてその家で悲劇が起こり、シルバーは犬とともに灯台に移り住むことになります。灯台には年老いたピューという灯台守がいました。灯台守の仕事はもちろん灯台の作業を覚えること、そして物語を語り継いでいくこと。本作は、シルバーの物語と、ピューが話してくれる過去の物語とが重層的にからみあい、ダイナミックに展開していきます。

ピューは、はるか昔、ブリストルという都会町に住んでいた青年バベル・ダークについて、まるでその場に居合わせたかのようにシルバーに語り聞かせます。ダークは裕福な貿易業者の家に生まれ、見目もよく、そのまま家業を継いで暮らしていくものと思われていました。それがある日、モリーという娘と恋におち、二人は関係を結びます。モリーに子供ができ、あとは二人が結婚するだけだと思われたころ、とつぜんバベルは牧師になると言い出します。しかも、海に面した辺鄙な町、ソルツで牧師になるというのです。なぜそんな決意をしたのか、その後、バベルとモリーはどうなってしまうのか。
 ピューの語る話は、対立する二項を並べることでものごとの深淵をえぐり出していきます。人間の二面性と不可思議性、物語を語ることと人生を生きること、神と進化論、古いものと新しいもの、男と女、生と死、愛と自然、科学と自然。それらは簡単に決着のつかないものばかりですが、物語として語り継ぐことで俎上に乗せられ、シルバーと共に読者も思索を続けていくことになります。

小説には、ドッグ・ジムのほか、バベル牧師の飼っているトリスタンという犬も出てきます。彼らはとくに目覚ましい活躍をするわけではないのですが、常にやさしく寄り添うように人のそばにいて、重要な示唆を与えてくれます。本当に素晴らしい、僕の大好きな小説です。

なお、2020年10月に、本書を課題図書とする読書会を開催しました。
◆読書会の開催報告


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