謹んで寒中のお見舞いを申し上げます。暦通りの寒冷な毎日ですので、体調管理には万全を期したく、皆さまには呉々もご自重くださいませ。
1月6日(金)より、新年明けの営業を再開しました。当ギャラリーでは、コツコツ収集し仕入れた品々で展示を一新し、壺中居B1に在る小展示ケース内も、これまた展示を更新しました。キラッと個性を放ち、クオリティの高いラインナップになったかと自負いたしますゆえ、ぜひご来駕ご高覧くださいませ。
交換会(業者間オークション)の初会も、先週末から随時始まりました。エンジン全開までには至りませんが、今年=今シーズンも緊張感をもって臨み、良い結果につながるよう、鋭意努力・工夫いたしたく存じます。
昨年末から、日頃の疲労を癒すべく、毎晩就寝前と、休日のひとときを、死蔵するクラシカルCDの鑑賞に充てておりますが、それはそれは、想定以上の効果が見られ、心から悦んでおります。
いったい、私が過去集めたCDは延べ何枚になるのでしょうか?結婚以来、都合2回転居しましたが、その都度、スターリンの如き「大粛清」を断行しましたので、目下我が机辺に架藏するものは微々たる限りです。文字通り「寂寞の境」といって言い過ぎではありません。それでも、迫害を逃れてきたもの、大概は再発売による廉価盤の全集・選集がいくつかあります。先回綴りました如く、永らくツンドク状態にあったJ.S.バッハの作品を中心に、このところ我が貧弱なオーディオシステムは、再生するに日もまた足らずといった状況です。
年の瀬から三が日にかけて、大バッハのオルガン作品全集のディスクに耳を傾けました。盲目の大オルガニスト(チェンバロの演奏も一流)・ヘルムート・ヴァルヒャ Helmut Walcha(1907-1991) が、1950年代末から1970年にかけて記録に残した全12枚組のもの。独逸・グラモフォン=アルヒーフ原盤の正規録音です。
元旦の夕方、そのうちの1枚を再生しつつ、読書をしていますと、曲の冒頭から雷電が背中を貫通するが如き衝撃、とてもよい意味での衝撃に身体が暫くの間麻痺してしまいました。決して大袈裟・大風呂敷ではございません。
これは忘れようにも忘れられない、私的にはきわめて重要な思い出に満ちた曲であると気付き、ハッとして再生を一時中断して、CDのリーフレットのデータに飛びついたのでした。
『オルガン小曲集』 Orgelbüchlein BWV599-644 全46曲のうち、
"Das alte Jahr vergangen ist(古きときは過ぎ去り)" BWV614で、当盤の演奏時間は2分12秒、文字通りの小品です。1969年、フランス・ストラスブールはサン・ピエール・ル・ジューヌ教会での録音、シルバーマン製作の歴史的オルガンによるものです。
随分以前に、「鏡」の題下に、アンドレイ・タルコフスキーの名作『鏡』(1975年、旧ソ連、モスフィルム)にまつわる思い出を綴りました。映画館、VHS、DVDを通じて同作品を何回観たことでしょう?『鏡』の音楽担当は「ロシアの冨田勲」こと、エドゥアルド・アルテミエフで、実に効果的な音楽を創造して、同作品の価値を高める一助になっていること、周知のことです。また、タルコフスキーは篇中にパーセル、ペルゴレージ、そして大バッハの作品の断片を、実に絶妙に導入し、「やはり、タルコフスキーは天才だ!」と、鑑賞するたびに唸るものです。
『鏡』の印象深い冒頭シーンの直後に、タイトルバックが現れて、スタッフとキャストが紹介されますが、件のオルガン曲の調べがここで嫋々(じょうじょう)と奏でられます。実に詩的で「静かな力」のこもった数分間と言い切れます。
まったく迂闊なことに、「『鏡』のことなら何でも聞いてくれ!」と、ふだん啖呵を切る私儀ですが、全く根本的なこと、この導入曲の詳細に関心を向けて「研究」することなく、今日に至りました。日ごろの怠慢ぶりを再認識して冷汗三斗、恥ずかしい限りです…。
大バッハが残した無数の名曲中、これはごく小品ながら、忘れ難くもありがたく貴い逸品であると告白いたします。実際、一聴して、心が慰められず、無限の感銘と勇気を喚起されない向きは皆無でしょう。
この2月に都下・新宿の某映画館で、タルコフスキーの大特集があり、『鏡』も上映されると、最近知りました。これもまた、期せずして符帳を合わせたような「偶然のめぐり合わせ」なのでしょうか?
有形無形、様々な出会い・再会というものの有難さを痛感いたします。前回綴りました「隨縁」も、この範疇に立派に該当することと考えます。「えにし」を求めて明日も虚心で臨みたく存じます。(by kiyo)
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