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memo ∞「コマツ・坂根正弘相談役インタビュー/日本が少子高齢化を止める唯一の方法とは?」後編

2017-07-31 | 雑記

「誰かが率先して、小さくても成功例をつくって普及させるしかない」と坂根氏は言う。コマツに続く「志のある大企業」は現れるだろうか(撮影:今井康一)

    

コマツが地元回帰したら、田植えが不要になった!

中原前編でも触れましたが、コマツの地元回帰は、少子化対策として見事に機能していますね。30歳以上の既婚の女性社員のケースでは、子どもの数は東京が0.9人に対して石川が1.9人と、はっきりとデータに表れています。そこで今回は、少子化対策という面だけでなく、そのほかにもどのような副次効果があったのかということをおうかがいしたいです。

坂根:当初は、コマツの地元回帰が企業レベルの話でとどまると思っていたのですが、石川の社員の中には兼業農家の人も多いという背景もあり、当社の技術で地元の農業の生産性を向上させる取り組みを社会貢献の一環として始めました。実は、そこで大きな技術革新がありました。コマツの半自動の建設機械で均平に整地し、コメの種をじかにまけば、農家にとって重労働である田植えをしなくて済むということがわかって、2年前からそれをやるようになりました。

コメの苗がいらないとなると、今まで苗を作っていたハウスのような設備も不要となるため、そのスペースも活用し、花を栽培するということになりました。そこで、1年を通して花を作るにはどうすればいいのか、作る花の順番を考えたりして。まあ、とにかくコマツが地方で農業の改善にかかわっただけでも、次から次へとやるべきことが出てきているというのが現状です。

だから、他の大企業も地方にある自社の事業所で自社技術と知恵を生かし地元の課題解決などに取り組めば、地方は相当元気になるはずです。コマツは決して派手でなくとも地元でできることを継続的に行っているし、これからもできることをやり続けるつもりです。幸い、地元の行政や金融機関、学校、JA、森林組合なども呼応して動いてくれています。これこそが、地方創生だと思います。

中原:コメを畑作で作ると、稲作よりも格段に安いコストで済みますからね。畑作でも味はそんなに変わらないわけだから、畑作が一般的になれば、日本のコメは国際競争力を取り戻すことができますね。そのほかにも、すばらしい成果と好循環を生み出していると聞いていますが……。

300人のOB・OGが定年後、地元で「理科教室」を開催

坂根:石川の間接部門は転勤族が多いのですが、一方で製造現場は地元石川の人が非常に多い。コマツは60歳の定年後は、再雇用も選択肢として設けていますが、石川の現場社員は「私はもう60歳で十分です」と言って、再雇用を希望しないケースも結構あります。コマツの賃金体系は東京も石川も同等にしており、相対的に物価の安い石川のほうが、おカネが貯まるため、定年後に金銭面を理由に働かなくてもいいし、働く自分の子どもたちに代わって孫の面倒をしっかり見てあげる余裕もあるので、小松市の親子3世代の同居率は22%にもなっています。

だけど、60歳で定年して何もやらなかったら、健康寿命が短くなってしまいます。だから、定年後のOB、OGにやりがいを提供する場所としてコマツの研修センターを有効利用しようとしたわけです。研修センターは本来はコマツ社員の教育をする場所ですが、地元の子どもたちのために理科教室、モノづくり教室を開催するようにしました。現在、約300人のOB、OGの人たちが、たとえば、電気をどうしたら起こせるか、重いモノを少ない力で運ぶにはどうしたらよいか、といった普段小学校では習わない教材を小学生向けに考えて教えるようにしました。

そうしたら、それが小松市の小学校5年生のカリキュラムになって。5年生は授業として、コマツの研修センターに必ず行くことになりました。OB、OGたちが入れ代わり立ち代わり、子どもたちの相手をするのですが、彼らが言うにはそれが刺激になって、以前よりも健康になったとのことです。そういえば最近、病院に行くことが少なくなったなあと。これって結構副次効果が大きいですよ。今後、これもデータで「見える化」ができたら、と思っています。

中原:まさに、コマツの実践している地方創生が、貴重な教育の場になっていたり、社会保障費の膨張を抑えるヒントを提供してくれているのですね。

私は地方創生のために有望な成長産業となりうるのが、「農業」「観光」「医療」の3つの分野だと思っています。日本経済を復活させるためには、これらの3つの分野を10年くらいの時間をかけて成長産業に育てることが望ましいと考えているんです。

実は、この3つの産業は密接にリンクしています。たとえば、海外の富裕層や中間層に、日本への観光を兼ねて、先端的な医療あるいは人間ドックを受けに来てもらう。そして、湯治などを含めた観光では、ご当地のおいしい日本食を楽しんでもらう。それができれば、帰国した後も、安全で品質の高い日本の農産物を食べてもらえる機会が増えるかもしれない。ひとたび日本のファンになってもらえれば、その後もたびたび日本を訪れてもらうことができるかもしれない。

こういった日本の強みを生かせる産業の組み合わせこそが、農業、観光、医療の高付加価値をさらに高め、日本ブランドを確立することにつながることになります。そうなれば、中国や韓国、台湾などアジアのライバルたちとの価格競争にも巻き込まれることはなく、賃金水準が比較的高い新たな雇用をつくり出すことができるのではないでしょうか。

坂根:日本の林業の実情はもっとひどくて、世界と比べて本当に遅れています。たとえば、スウェーデンの林業は20年以上前からIT化されています。伐採する機械に「こういう木材の値段が上がっているから、それをこの長さ、太さで切ってくれ」という指令が来たら、自動で木をつかんで太さを計測し、枝払いして、切ってパイル化(束にする)します。

それを今度は「どこそこに何本パイルしてあるから取りに来い」という指令を受けたトレーラーが取りに来るのです。そのような自動化された林業がずっと前から海外では実現していて、コマツの子会社のスウェーデンの林業機械メーカーは、世界中で最新のIT技術を組み込んだビジネスをやっています。

ところが、日本だけはビジネスにはならないんですよね。残念なことに現在の日本の林業はまったくそういう次元からかけ離れています。「日本は地形が厳しいから欧米のような林業はできない」なんて言う人がたくさんいるのですが、やろうと思えばできないはずはないのです。

要するに、技術開発やマーケティングが世界的な競争で勝ち残るための必須条件なんですが、過保護にすると、こういった地道な努力をしてもしなくても自分の収入は大差ないと思うようになって、それを自らでしようと思わなくなってしまうのです。そして、最悪なことは、こういった産業に若者が興味をもたなくなることです。

規制緩和で農林業の効率化・大規模化を実現すべき

中原:その意味では、農業や林業は企業がやるべきであり、農林業従事者はサラリーマンがやるべきでしょう。たとえば、規制緩和をして企業が農業法人の50%超の株式を持つことができれば、農林業の効率化・大規模化が進み、担い手不足も解消されるのではないでしょうか。将来の日本のためには、それが正しい方向性だと考えています。

さて、医療についても坂根さんの厳しいご指摘があると思いますが。

坂根:日本の医療というのは、この数十年間でどうなったのでしょうか。確かに、日本の医師は技術レベルについては高いかもしれません。しかし、医療技術というのは、いまや医師の技量よりも医療機器や薬、そして動物由来の感染症研究などで決まってしまいます。1990年代に米国で開発された遠隔医療機器の「ダ・ヴィンチ」だとか、あるいは有名な新薬などは、ほとんど欧米で開発されています。

いまや医学部、薬学部と獣医学部の連携はもちろん、工学と理学、そして情報工学も連携した大学や研究所に変わらないと世界競争には勝てません。今、問題になっている愛媛・今治の獣医学部が52年ぶり、あるいは成田の医学部が40年ぶりに認可と、この国では既得権者が守られてきたのです。

農林業は技術開発とマーケティングでまだまだ伸びる

坂根:全国に共通する地方創生のテーマは、第1次産業と観光なんですよね。水産業はすでに地域により特色があるけど、農林業と観光はまだまだ全国どこでも大きく成長する可能性を持っていると思います。この国の農林業の課題は何かというと、規制や補助金によって守ろうとしてきた結果、本来どの産業でも発展するために必要であるはずの技術開発とマーケティングにあまり力を入れてこなかったということです。

だから、すでに述べたように石川の農業の技術開発ではコマツが協力し、最新鋭の自動運転技術を導入している。また、コマツは石川にある主力工場の中に使用電力9割減の新組立工場を2014年に建てたんだけど、そこで採用している省エネ技術のひとつが、冷暖房の空調に地元白山の豊富な地下水を利用するというもの。それを温室栽培にも使えるんじゃないかと試しているところです。それを見たJAの方たちもそんな優れたやり方があるのなら、自分たちでやってみようと始めるわけです。

規制や財政によって医療業界を守ってきた結果、世界で後れを取るのは必然なんです。

手厚く守られてきた業界はもう一度チャレンジを

国民が知るべき本質的な問題は、農業にしても医療にしても、国によって手厚く守られてきた業界は、国際的な競争力を失ってしまうということです。しかし、農業だって林業だってもう一度チャレンジしたら、日本は相当なところまで力を発揮できるし、医療だってこの国の本質的問題点に国民が気付いて声を上げるようになれば必ず復活できます。

中原:これまでの話を聞いていて、坂根さんが政党をつくって活動したほうがいいんじゃないかと、ある程度の勢力は取れるんじゃないかと。坂根さんが政治家やったほうが日本は変わるんじゃないかと思うのですが……。

坂根:現状を変えるには何をしたらいいかわかっていても、肝心のこの国を引っ張っている政治家や官僚、大手企業などの中に、東京一極集中でいい思いをしている人たちが多いからなのか、地方創生もなかなか国民レベルの話に向かっていかないけど、それでもできることからやらないといけません。コマツも自社の技術を生かし石川の農業の生産性を向上させたように一つひとつ成功事例を増やしていきます。

何事も皆が一斉に動き出すことはありません。誰かが率先して、小さくても成功例をつくり波及させるしかないのです。私の後を引き継いだコマツの野路國夫会長が私以上に全力投球でライフワークとして地方創生のリーダー役を果たしてくれていますので心強いです

インタビューを終えて
「地方で幸せが循環する」。コマツの経営を伺って思ったのは、大企業の経営者はいま一度、地方に目を向けた経営、雇用を考えるべき、ということだ。坂根氏は本社移転の効果について「うちが地方の活性化に失敗したら、追随するところはなくなるだろう」と述べている。コマツはそれほどまでに強い「使命感」をもって経営に当たっている。
私は、収益だけを追い求めて工場の海外移転を進める企業より、国内で踏ん張って雇用を守ろうとするコマツに、一人の日本国民として頑張ってもらいたいと心から思う。これからは「利益の最大化」を追求する企業より「国の利益」「国民の利益」を大事にする会社に多くのファンができる時代が来るはずだ。「コマツ、がんばれ!」と声を大にして応援したい。

 


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