舞台は米国・制作は仙台放送! 認知症改善への姿を温かく映し出すドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』【最新シネマ批評】 | Pouch[ポーチ]
『僕がジョンと呼ばれるまで』劇場予告編
公開日: 2013/12/27
2014年3月1日東京都写真美術館ホールほか全国公開のドキュメンタリー映画『僕がジョンと呼ばれるまで』
人生を輝かせるヒントは彼女が教えてくれた―アメリカの介護施設で行われたおばあちゃんたちの希望のチャレンジ、それはみんなが笑顔になる希望の挑戦でした。
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【物語】
アメリカ・オハイオ州クリーブランドの高齢者介護施設で働いているジョン・ロデマンは、毎日老人たちと会話をしています。彼は必ず「僕の名前はジョン・ロデマン」と名札を見せて、5分後、「僕の名前は?」と老人に聞きます。するとみんな「知らないわ」。認知症を患っている彼らは、介護者のジョンの名前だけでなく、子供や孫の名前も忘れてしまっていることも。元気だった母の変わってしまった姿に涙する家族……。しかし、そんな認知症患者に対して、新たな試みが実施されます。それは日本の脳科学の権威・川島隆太郎教授の開発した学習療法。それをこの施設で試してみることになったのです。
【脳トレの川島教授登場!】
川島教授と聞いてピンときたアナタは「脳トレ」やってましたね! そうです、認知症の学習療法は、あの「脳トレ」の川島教授が開発したものなのです。ジョンも最初のうちは「認知症は進行していくもの」だと思っていたそうですが、ジョンがほかのスタッフと一緒に、学習療法を試してみると、認知症の老人たちにゆっくり変化が訪れるのです。
その「学習療法」とは、読み、書き、計算を個人のレベルに合わせて行うもの。足し算や引き算などの簡単な計算などをすることです。サクサク進む人がいれば、まったく進まない人もいます。でもジョンやスタッフは忍耐強く、笑顔で接していきます。そう、スタッフがみんな笑顔なのも、この映画の明るさの秘密。認知症のみなさんが生活する上で一番大変な場面は映し出していないというのもあるのですが、映し出されないそんな場面も抱えつつの笑顔なのではと。素敵です。
【他人事ではない認知症家族の悲しみ】
またこの映画では、学習療法に参加している老人たちのプロフィールが紹介されます。若い頃のこと、家族のこと。みんな一生懸命人生を歩んできた人ばかり。だからこそ、家族は変わってしまった姿に涙し、その姿を見て、涙腺がゆるみました。なぜなら、この映画に出てくる家族は決して特別ではなく、海の向こうのアメリカが舞台とはいえ、同じことが自分の身に起きたり、家族に起きたりする可能性があるからです。
【スタッフは日本人。日米合作映画】
『僕がジョンと呼ばれるまで』はアメリカの介護施設が舞台だけれど、製作は日本人スタッフです。もともとは仙台放送が20年にもわたり取材してきた「認知症」の問題からスタートしています。
仙台放送のスタッフは、認知症はやがて社会問題になるだろうと予期し、川島教授の研究に着目。認知症改善の取り組みや脳機能の回復を紹介するなど積極的に取材し、その取り組みが、海外発の実証研究に繋がっていくのです。海外での実証研究が『僕がジョンと呼ばれるまで』なわけですね。
【アメリカで学習療法を試した理由】
「でもなんでアメリカで?」と思うでしょう。学習療法は紙と鉛筆があればできるけれど、それでもお金はかかるわけで、介護保険でカバーしようと試みても、厚生労働省はGOサインを出してくれなかったそうです! だから、アメリカで実施してみることに。
川島教授曰く「読み書き算盤は、日本人にはなみじみあるものだけれど、果たして外国で通用するのかを調べるという理由もありました」と語っています。また「日本のお役人や政府は外国からの情報に弱いので、外国で広く使われるようになれば、厚生労働省はあわてて介護保険で学習療法を行うことを認可するだろうと思ったのです」と。さすが、日本政府の弱み、わかってらっしゃる! 2014年には米国でこの療法が多く使われる予定。「良いものは素直に迅速に取り入れるところは、さすがアメリカですね」と川島教授。
【素敵な介護施設】
この映画を見ると、まったく話さないし、人の目も見なかった老人の目に輝きが宿り、寝たきりだったのに外出するようになる姿を見ることができます。またこの介護施設がいいんですよね~。明るくて広々としていて。介護施設は高額な印象が強いので「私もここに入りたいけど、高いのだろうな~」と下世話なことまで考えてしまいました。
介護と認知症の映画でも、大変とか絶望とかネガティブなイメージを一蹴し、希望の光をもたらしてくれる『僕がジョンと呼ばれるまで』。ドキュメンタリー映画として見応えありつつ、この「学習療法」は情報のひとつとして知っておいていいかもしれません。
執筆=斎藤 香(c) Pouch