新型コロナウイルス特別措置法に基づく緊急事態宣言が30日を期限に解除され、静岡県内では10月1日から、営業時間だけでなく酒類提供も全面的に解禁される。8月8~19日の蔓延(まんえん)防止等重点措置期間も含めれば約2カ月ぶりとなる再開に、飲食店や酒類関連業者は歓迎とともに忙しく準備に追われている。ただ感染再拡大の恐れは残り、コロナ禍前の営業環境にまで戻るわけではなく、不安も抱えたままの再スタートとなる。
「昼営業のみ」に自粛していた手打ちそば店「たがた」(静岡市葵区)も1日から、夜営業と酒類提供を再開する。「非常にうれしい。お客さんの喜ぶ顔を見るのが何よりも楽しみ」。30日、瓶ビールの発注など準備に追われた店主の田形治さんは、目を輝かせた。
時短営業と酒提供停止で、宣言期間中の売り上げはコロナ禍前に比べ7割ほど落ち込んでいた。食材の買い出し先でも「みんな、『やっと解除だ』と口をそろえていたし、表情が生き生きしていた」という。
店舗に品を届ける卸業者も、一気に多忙となった。
全国と取引があり、100年以上続く酒類卸「塚本商店」(静岡市)の4代目、塚本悠貴さんは30日、出荷準備に追われていた。宣言解除を見越してか、10月1日出荷分の注文は9月下旬から少しずつ入り始めていたという。「8、9月は今までで一番きつかった。酒類の禁止イコール商売をするなということなので」と振り返った。
地酒とワインを中心にこだわりの銘柄をそろえた「長島酒店」(静岡市葵区)を経営する長島隆博さんも、トラックへの酒の積み込みに汗を流した。「8、9月は業務用の配送がほぼなかった。きょうは1日10件以上。今後も毎日10~15件ほど入っている」
とはいえ、警戒も必要となる。感染再拡大、第6波の恐れが残る中で県は、飲食店起因のクラスター(感染者集団)が複数発生して一定の水準を超えた市町などでは、時短営業を再び要請する考え。カラオケ利用の制限は県全体で続く。
そば店の田形さんは「(自粛の反動から)一気に緩むと、肝心の年の瀬に感染が再拡大してしまいかねない」と不安を口にし、「売り上げよりも、店内の感染対策を第一に考えたい」と気を引き締める。宴会用の飲み放題の廃止、コース料理の一本化など、メニューの見直しを決断。夜営業の閉店を1時間前倒しする。
「どこまで戻るのか」「酒を悪者にしないで」
さらに実際の感染状況と関係なく、「ウィズ・コロナ」時代で酒自体に対する見方が厳しくなり、「元に戻るのかという不安の方が大きい」(塚本さん)との声もある。実際、金融機関に勤務する年配の男性は「解除されても、同僚ら大勢で居酒屋に飲みに行こうとは誘いづらい。子供が受験生で、家庭内で感染させたくないから」とこぼす。
長島さんの周囲では既に店をたたんだ人も少なくないという。「お酒は、必須ではなくプラスアルファの存在かもしれないけれど、心の栄養分であり、人生を豊かにしてくれる」と強調。塚本さんも「お酒だけを悪者にしないでほしい」と訴えた。
宣言解除後の県内経済について、静岡経済研究所の恒友(つねとも)仁常務理事は、「人の流れが戻り、苦しむ飲食・観光業などは改善が見込まれる。ワクチン接種が進む中、抑えこまれていた消費マインドも『解放』に向かい、県内経済にはプラスに働く」との見通しを示す。
ただ、「マスクを外せない状況はまだ続く。流行『第6波』という落とし穴も懸念される」と指摘。「(感染再拡大の)リスクをはらみながらという状況で、地域経済の回復への道のりは遠く、すっきりした感じにはならない」と分析した。 産経新聞