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鴻海の連続自殺とホンダでの賃上げスト(2010年5月)

2010-06-05 06:34:03 | Area Studies
 中国は世界の工場といわれて久しいが、その工場労働者の低賃金 過酷な労働 孤独な生活などが問題にされている。ここで取り上げた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の中国子会社工場(深曙V市の経済特区外)で従業員が連続自殺事件、ホンダの中国部品工場(広東省仏山市 5月17日)でスト事件のあとも、トヨタ系豊田合成の天津星光橡塑(天津市 6月17日)、天津豊田合成(天津市 6月17日)、日本プラストの中国工場(広東省中山市 6月18日)とスト発生が中国各地で伝えられた。
 農村の過剰労働力(出稼ぎ労働者 農民工)に依存して中国を「世界の工場」に仕立てたモデルが、中国農村部の過剰労働力の枯渇により限界にきているとの指摘はすくなくない(Arthur Lewis 1915-1991のLewisian turning pointルイスの転換点を超えたとの議論である)。人民元の切り上げ問題もあり、すでに多くの先進国企業が、生産拠点の中国への過度の依存の修正を始めている。
まず部品メーカでなぜストが多発するか。これは単独出資で組合が名ばかりでそもそも賃金水準が低い。経営が現地化されていない(中国人幹部の登用が少ない。中国人ホワイトカラーの勤務意欲低い。中国人従業員の把握ができずストを未然に防げない)。完成車工場では合弁相手の中国企業が前面にでて穏便に解決しているという。いずれにせよストの発生やその長期化は、賃金がそもそも低いことと現地従業員との対話の不足を示している。猛省が必要ではないだろうか。
ところでこのようなストで興味深いのは、部品工場でのストであったにも関わらず、完成車組み立て工場がほどなく生産停止になったことである(トヨタの工場停止は6月18日。再開は週明けの6月21日になった)。これは部品の調達がjust in time方式で効率化されていることを示している。余分な在庫を抱えないというのは、部品の供給停止にこのシステムが脆弱なことを示す。日本国内で災害や事故で生産が停止したときにも議論されるように、効率性と災害や事故発生時にも生産を継続できる備えが中国でも忘れられているようだ。この点も反省が必要だ。

 なお労働者の賃金引き上げ要求の背景には、消費者物価の上昇と都市住民との賃金格差への不満があると考えられる(2010年3月末に公表した調査で中国人民銀行も最低限の生活維持には月額1600元必要としている)が、しかし工場労働者の賃上げがさらなる物価上昇につながる恐れはある。すでに不動産や農産品が投機的に値上がりする現象も報告されている。

台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の中国子会社工場で従業員が連続自殺
賃金引き上げ実施を公表(2010年6月2日) 基本給月1200元へ
 鴻海(ホンハイ)精密工業Hon Hai Precision Industry 董事長は郭台銘。EMS(電子製品の生産受託で世界最大手 中国で電子製品を組み立て米国に輸出するビジネスモデルは同社が確立したもの)米アップル、HPやソニーのコンピューター製品を受託。この問題は処理を間違えるとアップルやソニーなどにも波及する可能性がある。放置すれば企業イメージ、商品イメージの低下。しかし賃金や環境の改善は生産コストの上昇となる。
EMSというビジネスモデルの基礎に低賃金がある。しかしそれだけでなく多数の若者を自殺に追い込むような状況があるのではないか。
 問題の子会社名は富士康科技(Foxconnフォックスコン 香港上場)。生産拠点の広東省深曙V市で約45万人。中国全土で80万人超の従業員を擁する。
 問題の工場は深曙V市の経済特区外にある。基本給は法定最低賃金と同じ900元だとされた。この低さも話題になった。
 そもそも法定最低賃金は場所によって違う。上海市では月960元、広東省東莞市では月770元。また次第に引き上げられている。深曙V市でも高い工場ではすでに月2000元を出している。中国都市部では、物価の上昇で最低生活を維持するにも月1600元程度はすでに必要とされ(管理職を含む)平均賃金水準は2010年現在で月2500元程度にまで上昇している。
 労働者の多くは出稼ぎ工である農民工で、都市部との農村部にある大きな賃金格差が、法定最低賃金といった低賃金が成立する背景。しかし最近では労働者の獲得競争が激しくなり、賃金が上昇を始め別の働き場所を見つけた労働者が休み明けに工場に戻らないとされる。定着率・充足率の低さは工場側でも悩みの種になっている。
 問題の連続自殺2010年は5月10日までに6人(飛び降り自殺でこのほか重傷者が2名)。その後も続き5月26日までに2010年に入ってからの自殺者は11人となった(AFP BB News May 27, 2010)(なお別の資料では5月26日までに飛び降り自殺を試みたものが11名。うち9人が死亡とのこと)。
この自殺の原因については諸説があるが以下の台湾?の報道は、工場内の仕事のストレスに中国の農村部から出てきた若者が耐えられない、としている。youtube April 13, 2010。これに対して新唐人ニュース 2010年5月28日は自殺者の性別、年齢などが示したうえで労働環境の問題よりは自殺の連鎖の可能性を示唆している。
 同社は5月28日に基本給を近く1100元に引き上げるとした。さらに6月2日には基本給を1200元に引き上げ、6月1日から実施と公表した。中国全土で30%以上の引き上げを実施したとのこと。基本給の引き上げで定着率を改善すれば、訓練コストを削減できるとされる。
 この事件は、途上国の低賃金を利用して先端の電子製品を安価に作るというビジネスモデルに限界がきてることを示しているのかもしれない。
しかし原因が工場内のストレスなら賃上げでは問題は解決しない。また賃上げ自体もなお不十分で2000元までの引き上げが必要との指摘がある。2000元という数値は下記のホンダでもでてくる。IT Media News, June 3, 2010
 6月8日、鴻海(ホンハイ)精密工業は問題の工場の賃金を、同社が定める基準(3ケ月間の労働状況調査)に合格した従業員については、基本給を67%引き上げ約2000元にすることを発表した(7月1日以降 詳細発表予定。)  

ホンダの中国部品工場でスト発生(2010年5月17日) 中国内工場続々稼働停止
賃金引上げ案を公表(2010年5月31日) 月1910元へ
 たまたまであるが、同じ時期に今度はホンダの仏山市(広東省)の工場で賃上げを求めるストが発生した(5月17日)。その結果、ストが起きていない完成車の工場が5月24日以降、続々と稼働停止に追い込まれた。
 ホンダ側は一定の引き上げで譲歩した。しかし今後も賃上げをめぐるトラブルは続きそうだ。またこのホンダの例はたとえ自社でストが起きていなくても、取引関係があると問題が波及することを示している。
 なお仏山市では直前の4月8日に法定最低賃金が770元から920元に引き上げられていた。支援に入る日本人従業員の給与が、若い現場労働者で5万元。管理職では10万元に達するといった情報も、中国人従業員の不満を高めているようだ。中国通信社 2010年5月21日
 以下のニュース(apple daily com HK)によればストに入った労働者は月2000-2500元への引き上げを要求した。これに対して工場側は実習生にストへの不参加の誓約書提出を求める一方、賃金引き上げを提示したようだ。Youtube May 28, 2010

5月17日 仏山市の本田汽車零部件製造公司の工場(変速機を製造)でストライキ発生 平均で月1500元(諸手当込み)の賃金を完成車工場並みの月2000-2500元への引き上げ求めたとされる(現在の中国では最低限の生活で月1600元必要とされる)
5月24日 労使協議始まる
5月24日夜 広州市の増城工場 黄埔工場 稼働停止
5月26日朝 広州市の輸出専用工場稼働停止
5月26日  ホンダ 中国工場稼働停止を公表
5月26日 現地政府仲介で再度協議
5月26日夜 武漢工場(湖北省)稼働停止
5月27日 ホンダ 完成車工場の週内稼働停止を決定
5月28日 ホンダ 完成車工場を5月31日から停止決める(24日から休止状態) 国外からの調達も検討
5月31日 本田汽車零部件製造公司(広東省 仏山市)ストライキでライン止まる⇒広州市 武漢市の完成車工場も操業停止 ホンダは月額1544元(諸手当込)を1910元に引き上げる案提示(24%引き上げ)を公表 事態の収拾はかる 労働者の大半は合意
6月1日 ホンダ 工場再開予定を公表 変則機工場(6月2日) 完成車工場(6月4日)
6月3日 2日―3日部品工場は通常稼働 賃金交渉なお継続
6月4日 ホンダは賃金交渉が妥結し、ストが終了していることを明らかにした。
6月7日 仏山市の豊富汽配有限公司(本田の系列企業であるユタカ技研系)で賃上げを求めるスト発生。広州市のホンダの完成車主力工場は6月9日から操業停止を決めた。増城工場 黄埔工場 稼働停止。

その後の報道(日本経済新聞2010年12月15日)によると、中国進出の日本企業に対するアンケートでは、2010年夏以降賃上げを求めるストライキに直接あるいは間接に見舞われた企業が2割とされ、6割近くの企業が5%以上のまた4割近くの企業が10%以上の賃上げを実施した。しかし中国以外への生産の移管を考える企業は少ない。中国国内向け販売比率が半分以上という企業が7割を超えており、中国市場が拡大する限り、中国からの撤退は考えにくいということであろう。

参照
黒政典善「世界の工場に異変 賃上げ圧力で内陸シフト加速」『エコノミスト』2010年7月13日, pp.38-40

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mortar shellsとパレスチナ問題

2009-01-16 20:09:55 | Area Studies
迫撃砲弾のこと。Gazaをめぐる記事に頻出する。直線で相手を狙う対戦車砲とは異なり、対象を直線で狙わず、向かって上空に打ち上げるように発射する。Gazaを実効支配するHamasはGazaからイスラエルに向けてカッサムQuassamと呼ばれるロケットや迫撃砲弾を打ち込んでこれにイスラエルが怒って、08年12月27日以来の空爆。09年1月3日からの地上部隊の侵攻になったとされる。

今回の戦闘に際してのイスラエルの本音は、射程の長いロケット攻撃を停止させることにあったとみてよい。

パレスチナ自治政府内では穏健派のファタハと武闘派のハマスが対立していたが、2005年9月のイスラエルのガザからの撤退以降、両派はガザの支配を巡って武力衝突を繰り返した。しかし結局2007年6月がハマスがガザを武力制圧。前後で多数のファタハ系の人々が投獄殺害された。ヨルダン川西岸のファタハの人たちが、ハマスへのイスラエルによる攻撃に冷静であるのは、自分たちの仲間をハマスに殺されているからだ。

ハマスによるガザ支配という事態に対してイスラエルは、ガザを封鎖。限られた物資以外の運び込みを禁止している。之に対してハマスはロケット攻撃で対抗することになった。ハマスを取り除けばというイスラエルの思いはわからなくはない。

ただ南北40キロ。東西40キロに150万の人々が密集しているところに正規部隊が侵攻すれば多大な人的犠牲が生じることが予想される。

イスラエルのロケット攻撃への不満はわかる。ただこのロケット攻撃は精度が悪く人的損傷は少なかったとされている。

これに対してパレスチナ側への大規模空爆では犠牲者のほとんどは民間人で1月2日までに死者は400人を超えた(09年1月14日午後には08年12月27日以来19日間でガザの死者は合計1013人。1000人を突破してしまった。負傷者は4580人に達した。対してイスラエルの死者は民間人を含めても13人である。イスラエルという国はどこまで傲慢なのだろうか。確かにロケット攻撃で安寧を奪われる怒りは理解できる。しかしだからといってこの無差別で一方的な殺戮はなぜ許されるのだろうか。こういった無差別攻撃をすればするほど憎悪の連鎖が収まらないことをイスラエルの人たちはなぜ理解できないのだろうか。イスラエル人には他の民族の生存権への配慮や人道的感情というものはないのだろうか。)。
失われた人命という点でイスラエルによる対パレスチナへの報復は、かねて均衡を失しているが今回も同じだ。ハマスを選んで攻撃するならわかるが、結果として一般民衆を巻き添えにしている。これでは民衆はハマスの側に団結してしまうだろう。イスラエルによる苛烈で執拗な攻撃は忌まわしく強い非難に値する。イスラエルによるこのような攻撃は逆効果だ。国際社会はイスラエルを非難するべきだ。

この間、ハマスはガザ内でファタハをはじめ穏健派の人たちを弾圧してきた。しかしガザへの封鎖や攻撃を続ければ、民衆は自分たちが攻撃されていると考えて武闘派に却ってなびいてしまう。

イスラエルはハマスの拠点を叩いたあと、できるだけ速やかに退却し封鎖を解除してガザ地区の経済再建をむしろ急ぐべきだ。明日の生活への展望のなさが人々を過激な思想に走らせるのである。打開の道は、和解にあるはずだ。

なお一般に戦争では、さまざまな非人道的な武器が登場する。
ナパーム弾napalm bombを含む焼夷弾は広範囲を焼き尽くすことを目的とするもの。クラスター弾(集束弾)は親弾が衝突すると多数の子爆弾が飛散するもの。いずれも無差別的殺人を目的としており、人的被害の大きさから非人道的兵器と非難されるもの。劣化ウラン弾は、鋼鈑を貫通するとき尖頭が過熱により先鋭になる性質を持ち貫通性に優れるが、酸化ウランの微粒子が飛散することから戦闘員や現地住民への健康被害が懸念される。
しかし軍事的には目的が優先され、非人道性や健康被害には十分な注意が払われているとはいえない。
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.
0riginally appeared in Jan.6, 2009
Rewrited and reposted in Jan.16, 2009

韓国のドル資金不足は深刻

2008-12-17 08:54:38 | Area Studies
2008年12月、韓国がドル資金不足から日中にスワップ協定の拡充を求めることになった。9月上旬には韓国産業銀行がリーマン救済で名乗りを上げる立場にあったことを考えると事態の急変、韓国経済の急速な弱体化には驚くばかりである。

ウオンの対ドルレートは、韓国銀行の介入にもかかわらず08年11月21日には一時1525ウオンの安値(2007年10月末には899ウオン 08年9月3日に一時1159ウオン)。1997年から1998年の通貨危機以来10年8け月ぶりの安値圏にある。韓国経済は10年ぶりの苦境にあるといえる。

背景にある問題は何か。韓国から米国のファンドが資金を引き上げ、ドルに変える動きをしている。これについては08年9月にリーマン救済で韓国が決断しなかったことへの報復説もあるが、これは根拠のないものだ。外国人はもっと前の昨年夏以来、韓国株式を大量に売却している。韓国株下落は2007年7月に米国に連動する形で始まり、はどめがかからない。これは最近も続き、たとえば対外債権は4222億ドル(08/06末)が3999億ドル(08/09末)に減少している。

他方で外国銀行は、韓国で必要なドル資金の調達を拡大。同時期に対外債務は4206億ドルが4250億ドルに増加している。

短期対外債務の増加理由について輸出企業の輸出ドル債権に対する為替ヘッジ、韓国の海外ファンドの海外証券投資に対する為替ヘッジでドル資金が必要とされる。韓国政府は、短期債務の増加は、90年代とは異なり投資のための借入ではなく、ドル債権へのヘッジであるので、時間とともに解消するとしている。また2008年の経常収支についても、貿易黒字が続き、旅行収支などの赤字を補うとの楽観的な見通しをしていた。しかし後述するように08年11月韓国の輸出は急減している。

韓国は08年9月末に8年半ぶりに251億ドルの純債務国に転落した。加えてこれまで増勢をたもっていた韓国の輸出も08年11月に入って急減。前年同月比18.3%減少した。マイナスはサブプライムに揺れた07年9月以来。韓国経済の下振れは不可避だが問題はどこまで悪化するかだ。

韓国通貨当局はウオンの相場下落に対してウオン買いで介入。その結果、韓国の外貨準備は急減している(07年末に2622億ドル。08年8月末で2400億ドル。08年11月末で2005億ドル)。

介入資金と国内ドル資金の不足を恐れた韓国は2008年10月下旬に米連邦準備銀行と300億ドルのスワップ協定を締結。2度にわたり計70億ドルを調達した。これは市場のドル不足に対応したもの。11月27日に40億ドルを調達。12月9日にも30億ドルを調達した。

日本と中国に対しても通貨交換(スワップ)協定の資金枠の拡充を求めた。日本との間では130億ドルのスワップ協定があるがこれを300億ドルに引き上げる方向。
中国との間にも40億ドルの協定があるがこれを300億ドルに引き上げる。この話し合いはまず08年12月12日、日中韓中央銀行間で合意。その翌日の13日、日中韓首脳会議(福岡)で開催され、通貨交換協定の拡充が改めて確認合意された。

この展開をみていると韓国の経済金融システムが極めて深刻な危機、ドル資金不足に陥っているのは間違いない。今回の韓国救済に向けて、米日中がそれぞれ300億ドルの通貨交換協定を締結。総額900億ドルの資金枠を用意したことになる。

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

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原油価格急落とドバイの減速

2008-11-26 11:20:04 | Area Studies
 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国が、政府債務100億ドル、政府系企業700億ドルで計800億ドルの債務があることを2008年11月24日に明らかにした。そして政府や政府系企業には3500億ドルの資産があるとしてデフォルトは否定したものの、借入によって進めてきた大規模開発見直しの可能性も明らかにした。
 ブルジュドバイ(高さ800m 世界最高のタワー 建設中)
 パームアイランド(ヤシの木の形の人工島)
 パームジュメラ(同上 大成建設 清水建設が参加)
 ドバイメトロ(無人運転の都市交通システム 鹿島、大林組、三菱重工業、三菱商事が企業連合で受注)

 このことで改めて、中東の発展にしても、原油価格の上昇はあるにしても、中東に世界のお金が集まることで加速していたことが見える。つまり世界のお金の流れに左右されるのは、オイルマネーに潤っていた中東も同じなのだ。とくにドバイは産油量も少ないため、資金を引き入れて成長。
 政府不動産大手2社(アムラック、タムウイール)の資金繰りの悪化も明らかにされ、政府系金融機関2社を統合して新設する新銀行の傘下に収めて資本注入する救済策も明らかにした。
 湾岸産油国では総額で2兆ドルを超える開発事業が進行中。その中でドバイを中心とするアラブ首長国連邦でのものがおよそ半分を占めている。ところが金融危機の進展により、金融機関が新規融資に慎重になり、大型事業の凍結・見直しが不可避になっている。背景には原油価格急落もあるとみてよいだろう。
 新たな金融センターとして、大規模開発が進んで注目を集めてきたドバイの今後に、不安の声が出ている。中東の金融センターとしてはもともとはレバノンのベイルートがあり、やがて1970年代にレバノンが内戦で衰えるとバーレーンが金融センターとして発展するようになった。しかしその後、近年、ドバイが急速に発展するようになった。
 ドバイは石油資源枯渇後に備え金融立国を目指しているとされている。しかしその経済発展にはいくつかの障害が見えてきている。2008年金融特区であるドバイ国際金融センターDIFC(2004-)の発展を目指しているが、アメリカは金融特区以外の金融市場開放を求めている。これに備えて国内の金融業の育成強化が求められている。国内ではまた、2007年で11%(UAE)というカタールの13%に次ぐ湾岸諸国の中で突出したインフレになっており、資材や人件費が高騰している。さらにドバイに限られないことかもしれないが、不動産取引をめぐる収賄など取引に関する不正のうわさも絶えないなど非近代的なところが社会に残っている。
 ドバイに近い、カタール(2005-)、バーレーン(2006-)もそれぞれ湾岸の金融センターを目指しているが、バーレーンが物価の安定(3%台)やイスラム金融に関するノウハウの蓄積などの面で注目されるようになってきている。このような競合を意識する必要もある。
 税制面でもバーレーンは外資企業に対して石油企業を除き非課税という政策を取っている。湾岸諸国で同様のスタンスの国がドバイを含むアラブ首長国連邦で、石油企業や銀行を除き非課税。これに対して、オマーン(原則12%)、クエート(一律15% 07末に従来の最大55%から一気に下げたもの)、サウジ(原則20%)、カタール(最大35%)となっている(2008年6月末現在)。なおいずれの国も地元資本に対しては非課税か低税率。
 このような企業税制政策の結果、中東湾岸諸国の政府財政は悪化する一方、非課税の特定の湾岸国に外資が集まる構造となっている。政府財政の健全化をどのように図るかも課題になっている。
Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.

政府系ファンド(SWFs)について
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インド(2008年)

2008-10-30 08:14:31 | Area Studies
インド 
 1991年の新経済政策以降顕著に経済好転。今後15年後(2020年頃)には中国に匹敵する政治経済大国になる可能性が高い。2006年度の成長率は9.4%。2007年度は9.0%と予測されている。通貨ルピー。
 ヒンズー教徒が多い。英語圏で高学歴の人材を多数生み出しているインド工科大学を始めIT専攻大卒者を毎年10万人以上輩出。その結果、世界のIT産業の拠点に変貌へ。IT産業の中心地バンガロール(中南部)。
 このほか主要都市としてチェンナイ(南部東海岸)、ムンバイ(中西海岸)、首都ニューデリー(中北部)。首相名はモンマハン・シン。チダムバラム財務相。財務次官にデュブリ・スバラオ氏(マクロ経済学者)
 なお社会主義国(共産党独裁)である中国に比べた魅力として世界最大の民主主義国。インドの人口は11億3440万(2006)。中国は13億1298万(2006)で人口規模で拮抗。一人あたりGDPおよそ700ドル(2005)。中国は1000ドル超えた(2005)。金融ではインド準備銀行(RBI)が中央銀行であり、最大手銀行は国営ステートバンクオブインデア。
 中心となる株価指数はムンバイ証券取引所BSEの株価指数SENSEX主要30社株価指数。

近況
08年1月8日  SENSEX 20873.33 ピーク PER 28倍台
08年1月17日  首相直属の経済諮問委員会 2007年度の経済成長率予測を8.9%(07年7月時点の予測は9.0%) 2008年度の予測を8.5%とした 先進国の景気減速やルピー高などの影響 
08年2月4日  SENSEX 18660.32 1月18日以来の高値 内需中心の経済でサブプライムの影響軽微との主張崩れる IT産業に影響不可避 海外機関投資家FIIの売り越し続く 1月だけで40億ドル 海外の個人投資家はインド政府の認可を受けた機関投資家を通じてインド株式投資を行っている
08年2月27日 インド財務省は2007年度のGDP成長率予想を8.7%とした(2008年度は9.6%)
08年3月24日 SENSEX 1万5289.40 PER19倍台に低迷(08年1月から下落) 米向け輸出の失調 内需ふるわず インフレ抑制のための高金利政策で耐久消費財 投資財ふるわず
08年5月16日 SENSEX 17434.94(2007年10月なみ) PERで21倍台
08年6月4日 統制小売価格見直し発表 ガソリン・軽油価格引き上げ10%程度と小幅にとどめる(予想される総選挙に配慮か)
08年6月11日 インド準備銀行はレポ金利を0.25%上げて年8.0%とする緊急利上げを発表 即日実施した 利上げは昨年3月以来1年3け月ぶり 急激な物価上昇に対処
08年6月20日 インド政府 6月7日時点の卸売物価指数発表 前年同期比で11.05%上昇(11%台にのるのは1995年5月以来 これまでは年率3-4%で推移 2月後半に5%突破)
08年6月24日 レポ金利を0.5%引き上げ年8.5%とする緊急利上げを決め即日実施した。預金準備率を7月に2段階上げて8.75%とすることも決めた。
08年7月10日 インド自動車工業会 新車販売減速へ 4月前年同月比21.2%が5月16.6% 6月は8.1%約12万9500台に
08年7月17日 インド証券取引委員会SEBI 17日までに年初来 海外機関投資家FIIの売り越しは70.65億ドル。2007年の買い越し170億ドルの半分近くが流出。
08年7月29日 インド準備銀行はレポ金利を0.5%上げて年9.0%にするとして即日実施 利上げは今年6月から3度目 物価上昇抑制目指し引き締め強化 預金準備率も0.25%引き上げて9%に sensexは急落
08年7月31日 SEBSEX 1万4355.75 7月半ばの1万2500台からは回復(08年1月はじめの2万台 PER28倍超えから下落) 年率12%近いインフレが懸念材料
08年8月6日 SENSEX 1ケ月半ぶりに1万5000台回復 1万5073.54
08年8月29日 インド財務省発表 4-6月期のGDP 実質前年同期比伸び率7.9%増加 1-3月期の8.8%に比べ減速。
08年10月6日報道 インドの経常収支急速に悪化 1-6月の経常収支赤字は前年同期比70%増の107億ドル 原油高による貿易赤字拡大(2004年以降赤字だが赤字幅拡大) 4-6月 海外直接投資は純増が続いたもののこれまで買い越しだった証券投資も売り越しへ SENSEXは年初の高値から4割下げている
08年10月11日 インド準備銀行 預金準備率を9.0%から7.5%に引き下げ
08年10月15日 インド準備銀行 預金準備率を7.5%から6.5%に引き下げ
08年10月20日 インド準備銀行 政策金利レポレート引き下げ
08年11月1日  インド準備銀行 政策金利レポレート0.5%引き下げ 7.5%へ
預金準備率は6.5%から5.5%に引き下げ       

インドの主な企業
インドの主な企業にはIT産業4社(タタ・コンサルタンシー・サービシーズTCS 従業員89000人08/4-6 売上15億ドル) インフォシス・テクノロジーズ(76000人 売上12億ドル)ウイプロ(75000人 08/4-6 売上14億ドル)、サティヤム(40000人 売上6億ドル)。IT企業は08年4-6月期のドル建て売上高が減速(ルピーの下落でルピー建てではみかけ増加)。欧米圏への過度の依存(売上の8-9割)見直し。非英語圏への進出が課題に。
 石油精製最大手インド石油(IOC)。インド最大の企業インド石油天然ガス公社(ONGC)は各地で油田開発・投資中。石油化学大手・化学繊維リライアンスインダストリーズ(インド最大財閥リライアンス)など資源関係。
 インド製鉄最大手タタ製鉄は新日本製鉄とインドで自動車用鋼板合弁生産で合意07/11生産開始2010稼動か。タタ製鉄は2007年英蘭コーラスの買収でも注目された。タタ自動車も商用車で6割のシェアをもつ最大手。なお商用車2位のアショックは日産と2010年から合弁生産へ。
 ミタルスチールは2006にアルセロールを買収して国際企業化(世界最大手)。通信最大手のバルティ・エアテルなど。
 インドの企業に日本の軽自動車メーカースズキの子会社マルチ・スズキが混じっていること興味深い。

スズキそしてインドの自動車市場 
 インドの自動車メーカーは最大手は商用車に強いタタ、続いて乗用車最大手のマルチ・スズキ、多目的スポーツ車SUVに強いのが3位のマヒンドラ・アンド・マヒンドラ。
 マルチ・スズキ(スズキの子会社)は乗用車で首位46.5%(2007/4-2007/9)。2台に1台はスズキといわれる。ところでスズキは2010年までにインドに2000億円追加投資を決めた。これは現地インドでの小型車開発体制整備を意味する。インドでの優位を確立する戦略とみられる。
 現在のマルチ・スズキの主力車マルチ800は二代前のアルトをベースにすることで開発費用を浮かせたもの。このような方法で60-80万円の低価格を可能にした。しかしさらなる低価格車の登場が近付いており、スズキは現地での開発体制整備に進む戦略に転じた。
 すでに2004年にルノーは最低価格5000ドルのロガンの販売を始めた。ルノー日産連合がインドの二輪車メーカー、バジャジオートと組んで2010年に予定するのは3000ドルカーである。インド現地のタタ自動車も3000ドルカー(2500ドル前後の世界最安値ともされる)を2008年にも販売開始するとし、インドに開発拠点を有する韓国の現代自動車も3000ドルカーの開発を進めている。
 2008年1月10日 タタ自動車は10万ルピー(約28万円)の超低価格車ナノを発表した。乗用車としては世界最安。スズキのマルチ800の半額。(安全性 排ガスなどで懸念の声あり)。年25万台の販売目指す。インドの乗用車販売は2002年度に70万台強。2007年度に150万台強。欧州のドイツ市場の半分の規模。
 また2008年3月末に正式に発表されたのはタタ自動車による米フォードからの英ジャガーと英ランドローバーの買収(23億ドル2300億円)。タタは欧州で通用するブランド力をえたことになる。なおこの資金をタタは日本を含む先進国金融機関からの協調融資30億ドルで調達した(みずほCorpoと三菱UFJを含む8行が主幹事となった)。
 ホンダも2010年以降、フィットを小型化した新車種をインドで生産する予定。トヨタは7000ドル前後、独フォルクスワーゲンは6000ユーロ(約97万円)の低価格車を2010年頃生産投入予定。
 このような競争の激化に対し、現地で開発体制整備という正攻法がスズキのインドでの巨額投資の背景にある。
 他方でスズキは静岡に建設中の完成車工場にも1900億円の追加投資している。
 国内でも巨額投資の背景には06年度に国内の軽自動車生産で2位のダイハツの追い上げ首位を奪われたことがある。輸出が好調で国内生産を減産したことと、ダイハツが燃費性能でスズキを上回る車種を実現して消費者の支持を得たことがある(06年12月発売のミラは1リットルあたり27Kmを実現。新型車投入数でもスズキを上回った)。3位のホンダも追っている。国内での投資により首位奪還を狙うが海外輸出比率も高める予定。
 なおすでに述べたがインドの商用車はタタ自動車が6割で首位。2輪車ではヒーローホンダが首位42.1%(2006/4-6)となっている。
低価格自動車の展開
日本企業のインドシフトとムンバイでのテロ事件

Written by Hiroshi Fukumitsu. You may not copy, reproduce or post without obtaining the prior consent of the author.


Statistics of East Asian Countries

2008-06-29 08:08:32 | Area Studies
Main Statistics of East Asian Countries
 面積で中国は日本の25倍以上。アメリカより大きくカナダに及ばない9.5million sq km。韓国は日本377 thousand sq kmのおよそ4分の1の99 thousand sq km。台湾36 thousand sq kmはその韓国のおよそ3分の1で日本のおよそ11分の1。
日本の面積は中国の4%。日本の面積は韓国の3.8倍。日本の面積は台湾の10.5倍。

 人口で中国は日本の10倍以上の13億人(1.3 billion)。韓国47.8 millionは日本の128.1 millionの3分の1。しかし北朝鮮と併せると日本の半分強(7000万人)。台湾の22.9 millionはその韓国の半分以下で日本の6分の1。
 日本の人口は中国の10%。日本の人口は韓国の2.7倍。日本の人口は台湾の5.6倍。
 現実には難しいことだが、日本ー台湾ー韓国ー北朝鮮が連携できれば、北東アジアに丁度2億人(0.2billion)の経済圏が成立する。なおこれに中国が加わると15億人(1.5billion)。これに対して世界の総人口は64億人(6.4billion)である。世界人口に対する比率は23%である。

 GDP(2005)では、中国は日本の4.5 trillion dollarsの半分の2.2trillion dollars。韓国は日本のおよそ6分の1の788 billion dollars。台湾の346 billion dollarsはその韓国の半分だから12分の1。
日本のGDPは韓国の5.7倍。また日本のGDPは台湾の13倍。
3国をあわせたGDPは、7.8 trillion dollars。178billion dollarsの香港を加えると、丁度8trillion dollarsである。これに対して世界のGDPは44.6trillion dollarsだから、世界のGDPに占める比率は18%になる。
 一人あたりGDPでは中国の1700 dollarsは日本の35thousand dollarsの20分の1。しかし中国の一人当たりGDPはとくに都市部ではそれほど低くないと考えられる。韓国と台湾はともに日本の半分だが、わずかに韓国は台湾の15 thousand dollarsを上回る16 thousand dollars。


面積(area size) 000sq km
rankname(capital currency)000sq kmannual growth 95-05GDP per head
1Russia(Moscow Rouble)17,0153.9%$5,330
2Canada(Ottawa C$) 9,9713.4%$34,480
3China(Beijin Yuan) 9,5619.0%$1,700
4United States(Wasington DC US$) 9,3733.4%$41,640
5Brazil(Brazilia Real) 8,5122.2%$4,210
6Australia(Canberra A$) 7,6823.6%$36,260
7India(New Delhi Rs) 3,2876.3%$730
15Mexico(Mexico city PS)1,9733.6%$7,180
16Indonesia(Jakarta Rp)1,9042.7%$1,290
32Nigeria(Abuja Naira)9244.2%$750
35Pakistan(Islamabad PRs)8044.0%$700
Japan(Tokyo Yen) 3771.3%$35,390
Vietnam(Hanoi Dong)3317.2%$620
Phillines(Manila P)3004.2%$1,190
Bangladesh(Dhaka Tk)1445.3%$420
South Korea(Seoul Won) 994.4%$16,480
Taiwan(Taipei T$) 364.5%$15,110


人口(population) millions, 2005
GDP $bn, 2005
ranknamepopulationPop.over 60GDP
1China1,315.811.0% 2,234
2India1,103.47.1% 806
3United States 298.216.6%12,417
4Indonesia 222.88.3% 287
5Brazil 186.48.8% 867
6Pakistan 157.95.9% 111
7Russia 143.217.1% 764
8Bangladesh141.85.7%60
9Nigeria131.54.6%99
10Japan 128.126.4% 4,534
11Mexico107.08.4%768
12Vietnam84.27.6%52
13Philippine83.16.0%99
25South Korea47.813.7%788
47Taiwan22.912.1%346
48North Korea22.5NANA
53Australia20.217.8%733
Hong Kong7.015.4%178


Economic Indicators of East Asian Countries

参照
現代東アジア論目次