ピアニスト藤木明美のブログ No.2

異色のピアニスト藤木明美が、音楽を通しての日々を綴ります。

死んだ男の残したものは

2013-04-22 10:49:07 | コンサート
昨日は、音楽の友ホールでの、「リラの会メンバーズコンサート」でした。
リラの会は、ソプラノ歌手関定子門下の声楽家集団。
「関定子」先生という声楽家は、人間を超越した「芸術品」だと、私は思っています。
それは、イチローと似ています。人間の能力の可能性と芸術性を、
生きていることで知らしめる存在。

私は、声楽家住吉和子さんの伴奏で出演しました。

実は、私がソロのピアニストとしてデビューしたのが、この音友ホールでした。
全く無名の私を、関定子先生が推薦して下さり、ニッポン放送のクラシック番組「新日鉄コンサート」で
2週に渡り、私のリサイタルが放送されることになったのです。

40歳でのソロデビューはクラシックピアニストとしては前代未聞?!
ありえない幸運を関先生から頂いたのです。

そのデビューコンサートで、「死んだ男の残したものは」を
ピアノソロ曲にアレンジして演奏しました。
そして、昨日偶然にも、同じ作品を
今回は歌の伴奏(私のアレンジ)で演奏することになったのです。

住吉さんが歌い始めると、聴衆の空気が変わりました。
すると私に、本番独特の集中の入り口が現われ、すーっと入っていきました。
そこからは、もう無心で覚えていません。
歌が終わったとき、すぐには立てませんでした。
ブラボーがかかり、呆然と立ち上がりました。
ステージをはけて、強烈な脳の疲労感に襲われ楽屋で座り込んでしまいました。

初めてこの歌をアレンジしたときも、私は放心して自宅のピアノ室で
床に横たわったまま動けなくなりました。

この歌は、ただの反戦歌ではありません。
抗えない力、真理の核が込められていると感じます。

演奏するたびに、脳に強烈に何かが起きる。
それが何なのか、未だわからないけれど、
作品の成せる業だということは、わかっています。

13年の時の流れを経て、再び演奏した「死んだ男の伸したものは」。
自分の歴史と、変わらぬ作品の力。
感慨深い本番でした。