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なにぬネコ書店

詩とか、日記とか  (榎本初=えのうい)

月の覚え 其の一

2006-09-11 00:33:19 | 詩を書く
 でこぼこした地平に、蟋蟀のまっすぐな声の中に、夕闇がかぶさっていく。送電線が幾重にも緩やかなアーチを描いて、鉄塔から鉄塔へとリレーしていく。月は、生い茂った草むらの裏側の水たまりを無造作に揺らしながら、クレーターの輪郭を整えながら、限りなくまあるくなろうとしていた。

2006-07-01 03:34:08 | 詩を書く
明日へ微笑もう
茄子の花を見つめて
太陽のプリンセス
乳白色の川の流れに
沐浴するんだ
夢と涙を結ぶ
貝殻と、琥珀と、木の実と
木の実をにぎりしめる拳と
光の産声
これから

これから

2005年7月16日


真夜中のスカー

2006-06-22 10:41:10 | 詩を書く
真夜中の詩は真冬の傷跡
カシオペアの鋭角の引っ掻き傷
スカンジナビアのあたりまで
思いが駆けていったところで
蛍の涙を涸らすことすらできずに

歌う
祈る

壊してしまえばよい
壊されてはならない
秩序を壊すのだ
僕は壊されない
壊されない
空っぽな御伽話で終わらせない
太陽の呼吸が一番永い日に
永い光に
目頭を押さえることしかできないなんて
アホか!
飛ぶ
飛ぶしかないんだ

真夜中に
スカイ
青空へ飛ぶ。
そう決めたっていいじゃないか

ルバルトヴッチ・チョチョガノフ

2006-06-01 00:04:31 | 詩を書く
私の友人の話である
彼の名前は
ルバルトヴッチ・チョチョガノフ
本当はもっと長い名前らしいのだが
そんなことはどうでもいい
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは
本当はもっと長いらしいフルネームで呼んでくれと皆に言うが
ルバルトヴッチ・チョチョガノフをフルネームで呼べるほど
世界はゆっくり回っていない
とにかく彼の名前は
ルバルトヴッチ・チョチョガノフ

とにかくルバルトヴッチ・チョチョガノフの
頭は五分刈りである
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは
スポーツ刈りだと言い張るのだが
そんなことはどうでもいい
ルバルトヴッチ・チョチョガノフの
髪の長さが5ミリメートルであることは
公正散髪委員会なるお役所の調査により裏付けられている
厳密には5.5788ミリメートルらしいが
0.5788ミリメートルは負けてもらった
なので近いうちに
お役人にチョコレートパフェを奢らなければならない
刑法第198条の贈賄の罪に問われるのは覚悟の上である

贈賄で思い出したのだが
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは
象である
思い出すとかそんなことではないだろうと仰るかもしれないが
いつも一緒にいると人であるとか象であるとかなんて
特に考えないものである
世の男どもが女房のことを女であるとかワニであるとかなんて
特に考えないのと同じようなものだ
念のために言っておくが私の女房はワニではない
そんなことはどうでもいい
問題は
ルバルトヴッチ・チョチョガノフの
鼻が長すぎるということである
ルバルトヴッチ・チョチョガノフの
鼻の長さが23メートルであることは
あの銭形平次の調査により裏付けられている
いや厳密には23.1763メートルであることを告白せねばなるまい
平次は0.1763メートルを見逃してくれなかった
チョコレートパフェなんていらないときっぱり言い切って
お約束の銭まで投げてきて
実はちょっぴり嬉しかったルバルトヴッチ・チョチョガノフ
話が脇道へそれてしまったが
ルバルトヴッチ・チョチョガノフの
鼻は23.1763メートルである
長すぎる鼻は重すぎるのである
おかげでルバルトヴッチ・チョチョガノフは
腰痛に悩まされている
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは
鼻の長さを人並みいや象並みにしたい
と思っているが切除するのが怖いらしい
麻酔の針が通らず痛いからだろうと思っていたが実はそうではなく
動物愛護団体からのクレームを怖れているらしい
自己決定権すら制約されるのだから象も可哀想である
そんなルバルトヴッチ・チョチョガノフに私は
腕のいい整体師を紹介しようと思っている

さて近頃のバリアフリーは象にも優しくて
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは
23.1763メートルの鼻のことを除けば
象並みどころか人並みの生活を送っているが
それゆえルバルトヴッチ・チョチョガノフは
人間関係で頭を悩ませている
友達がなかなか出来ないらしい
普段のルバルトヴッチ・チョチョガノフは
小さな瞳のまわりに笑みを湛えて
おとなしく佇んでいるものだから
切れたときの凄まじさには誰もが慄いてしまう
パオーパオーと雄叫びを上げて
23.1763メートルの鼻を振り上げようものなら
人間どもはルバルトヴッチ・チョチョガノフから
瞬く間に逃げていくから人間関係を上手く築けない
そんなルバルトヴッチ・チョチョガノフに私は
イライラするのはカルシウム不足さなどと
月並みなことを言いながら牛乳を一緒に飲んでいる

ルバルトヴッチ・チョチョガノフが牛乳を飲むのには
もうひとつ理由があってそれは耳を大きく育てて
パタパタパタパタ空を飛びたいという願望からである
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは
ダンボの大ファンなのである
腹筋いや耳筋を鍛えている姿はバカバカしくも何処か美しくて
件の五分刈りがスポーツ刈りに見えたりもするのだが
そんなルバルトヴッチ・チョチョガノフに私は
象が飛べるわけないだろうなどと夢のない忠告をしたところで
ルバルトヴッチ・チョチョガノフは聞く耳持たず
ジャンボジェット機が空を飛べるのだから
象が空飛ぶなんて朝飯前さなどと誰に聞いたのか
何処かで聞いたようなへんてこりんな理屈を振りかざして
身体よりも先に頭がぶっ飛んでいる

パオーパオー

とにかく彼の名前は
ルバルトヴッチ・チョチョガノフ
一緒に牛乳を飲んでいる

2003年4月28日


ふぃりいりりりり

2006-05-24 13:00:45 | 詩を書く
 森の奥の隠れ家で、獏は人の夢を食べているという。人の見た悪夢ばかりを食べている獏はきっと御人好しか味覚音痴に違いない、などととりとめのない思いに囚われて、雨上がりで眩いばかりの太陽ですら霞んで見えて、のんべんだらり、のんべんぐらり。
 清みきった水晶の粒を空へ弾いていく青いひかりが森を駆ける。土のやわらかなにおいの空隙を、夢心地の空隙を衝いて僕の鼓動に射し込んでくる、オオルリの囀り。

妖怪あまなっとぉ

2006-05-09 10:10:18 | 詩を書く
甘納豆を頬張りたい夜
妖怪あまあま あまなっとぉ
ほこっと広がる小豆の香り
妖怪あまあま あまなっとぉ
甘いようで なかなか手ごわい
妖怪あまあま あまなっとぉ
「あずきあらい」はお友達
妖怪あまあま あまなっとぉ
ひぃぃ どうかご勘弁を
妖怪あまあま あまなっとぉ
勉強なんか そっちのけ
妖怪あまあま あまなっとぉ
熱ぅいお茶をくださいな
妖怪あまあま あまなっとぉ
しゅがぁぐれぃずどあずきびぃんず
妖怪あまあま あまなっとぉ
もうひとふくろ また一袋
妖怪あまあま あまなっとぉ
ななぁつやっつここのつとぉ
妖怪あまあま あまなっとぉ

2004年11月24日


祝杯

2006-04-08 00:00:01 | 詩を書く
 青空へあふれだした桜の花に包まれてあなたが生まれた日に、足首を伸ばすようにして踵を上げて、一枚の花びらに口づけをする。踝に触れる風。太陽の呼吸を見つけて、胸を膨らませて、歩いていくこと、生きていくこと。乾杯。

夜天の緒

2006-01-21 23:42:49 | 詩を書く
 アフリカの草原に舞う雪と歌いたい夜があれば、ただ静かに目を閉じたい夜もある。子どもたちの手のひらへ星がこぼれる音に耳を澄ましていたい夜もあるだろう。今宵はいずれの夜なのだろう、未だ知る術を知らないまま、藍色に染め抜かれた太陽はやがて蓮の花を咲かせていく。この夜の正体は明かされないまま、知らないままでいい。ただ今夜もまたあなたに、おやすみなさい、と言えることが、白妙の大空へ渡る祈り、きっと大切なことにちがいない。
 おやすみなさい。

カスタードプディングレイアウト

2005-10-06 14:57:00 | 詩を書く
 午後2時57分、ほのかに焦げた光がカーテンの隙間から射し込んでいて、部屋の真ん中あたりで弾けていた。魔法のビー玉で遊ぶ太陽の子どもたち。微笑みの行進が始まる。羊の群れが東の空へ向かって泳いで空へ遠くへ広がってバニラフレーバー。
 カラメル色のまなざしに毀れてしまいそうな頬を撫でながら、機械時計の刻む音を拾っていく。ガラスの容器から零れた卵を五線譜に焼き付けて、銀の匙で掬っていく。ミルクの匂いを剥がしていくと、きっと涙に濡れた部屋が見つかる。白い砂浜を満たす結晶からあふれでた滴は甘味だけではない。甘味だけではないことに気付いて、気付かされて頬を赤らめて、窓のほうを、光の射すほうを振り向く。羊飼いの少年なんていない。尾花と歌う風。
 やがて、とろとろの夕日につつまれて、微笑みの行進が続いていく。

麦藁帽子

2005-08-21 23:21:30 | 詩を書く
 海猫の翼が太陽へ伸びていき、潮騒を包んでいく。
 白いコットンにくるまれた少女が、赤いリボンを結んだ麦藁帽子を眉深にかぶっていて、銀色の波、湧きあがる雲に濡れた空の袖先を掴んだまま、砂浜の貝殻を拾わない。終わらない晴朗へまっすぐ伸びる背中。
 麦藁の、空と土の、やわらかな乾いた匂い。



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 1つの絵にみんなの言葉「帽子」に寄せてみました。

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