なにぬネコ書店

詩とか、日記とか  (榎本初=えのうい)

とるまりんとん 2

2005-05-31 00:31:31 | とるまりんとん

高級牛革と生ハム爺に別れを告げて帰宅すると
僕は部屋の隅に転がっていた金魚鉢を
さっきまで財布が置いてあった炬燵の左隅に置いて
その中へ豚を放りこんで眺めていた
尻尾に薄いピンク色のリボンいや紙切れが結ばれていた
軽く握った掌の中で豚は脚をバタバタ
僕は尻尾からほどいた紙切れを開いた

 この度は
 トルマヴォコフォンフォン・ドチュニヌネーグフ・ナニャリントンを
 お買い上げいただき、ありがとうございます。
 フルネームで呼ぶと泣いて喜びます。
 なお、当商品はトルマリン喉ぼとけ仕様のため、
 喉から発せられるブゥブゥブォブッブゥのシャワーには
 マイナスイオンによる癒し効果がありますが、健康のため
 ブゥブゥブォブッブゥのシャワーの浴び過ぎに御注意下さい。

ルバルトヴッチ・チョチョガノフのフルネームは
もっと長いらしいが
そんなことはどうでもいい

(つづく)

とるまりんとん 1

2005-05-30 01:28:03 | とるまりんとん

近頃巷では豚を飼うのが流行りだ
と聞いた僕は躊躇うことなく肉屋へ足を運んだ
豚1匹くれ
と声をかけると
生ハムのような肌をした肉屋の爺〈おやじ〉は
掌サイズの黄色い豚を秤に載せた
12g360円の液晶表示の上で駆けまわる豚
僕の高級牛革財布には327円だけ
しょうがねえなあ
と言いながらも生ハム爺の顔はニコニコ笑っていた
僕の掌には黄色い12gと8枚の硬貨が残った

(つづく)

虹晴れ

2005-05-18 23:59:59 | 詩を書く
 萌えわたる白詰草が濡れて、空に滲んでいる。
 少年はしゃがんで、頬を微かに丸くして赤くして、膝小僧の土を両手で払う。雨垂れがひとしずく、左手のくすり指の爪を濡らす。空が心に染みて、染みていき、涙を結んだプラチナが翔けめぐり脈動を打ち鳴らす。眼差しの行方を惑わすようにして広がる白い波が、紫色に始まる七つの花を見つける。白い涙に告げる、花の場所を。花は、太陽が生まれる前から、少年が抱いている。
 しなやかに虚空を振り抜くタクトの先に響く、ファンファーレ。   (2004.5.28)

太陽は自他ともに照らしていく

2005-05-10 23:59:59 | 本を繙く
「問題は時間にあるのじゃなく、あなた自身のなかにあるんですからね。将来あなたが太陽になれば、みながあなたを目にすることになりますよ。太陽はまず第一に太陽にならなきゃいかん」ドストエフスキー作・江川卓訳『罪と罰』(岩波文庫)より

人はみな生命のなかに宝塔を持っている。宝塔、それは、凡庸な(しかし実はこの上なく崇高な)言葉でいえば、「可能性」のことである。それは太陽を燃やすエネルギーであり、「祈り」である。自分自身の中の宝塔を信じることができて初めて他者の持つ宝塔を見つめることができるにちがいない。
相手の心に沿うことのできる人でありたい。


罪と罰〈下〉

岩波書店

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ほど好い酔い

2005-05-09 23:59:59 | 日常を描く

風が強く、肌寒い夜。

今日は仕事が終わったら、さっさと帰ってジャスコで
買い物をするつもりだった。僕の住まいの向かいに
ジャスコがある。仕事鞄には買物袋が入れてあった。
しかし、である。同僚で飲み仲間でもあるK氏が現れたものだから、
そりゃあ居酒屋HANABIに行きますって!

K氏は5月2日が誕生日。自ら誕生日をアピールして
大将から生ビールをゲット! ついでに僕もいただいた。
さすが、大将!

おでん←味噌ではない。醤油も入ってない。塩と出汁だけのこだわり。
  ・・・K氏は大根、餅巾着、はんぺん。僕は大根、玉子、ちくわ。
生ハムオニオン(サラダ)、甘えびの唐揚げ←口の中でやわらかジュワアァァァ

焼酎は黒伊佐錦(だったかな?)と晴耕雨読。
晴耕雨読はお気に入り。

白米大好き・地鶏たたきフリークのK氏と飲んだとなれば、
最後の締めは、白いご飯と
三河赤鶏のたたき盛り(もも肉&むね肉)
美味い旨いうまい!

大将、ごちそうさま。

弔い酒

2005-05-07 23:59:59 | 日常を描く

千家に行った。

ママさんが亡くなったのが3月25日。
四十九日も過ぎた今頃になって
ようやく寄らせていただくことができた。

高い声色とくるりとした瞳のママさんの訃報は
あまりにも突然だった。時間軸がひずむ。

「留守番電話の最初と最後の録音が母(=ママさん)なのです。
 声を聞くと、いまだに亡くなったのが嘘のようで。それでいて
 もう何年も前から母はいなかったような気がすることもあって」

人が死ぬとは、どういうことなのだろう。

近頃、久しぶりに店を訪れる客が多いという。
そんな客は決まってひとりで現れるとのこと。

「ママさんは元気?」
「実は先日・・・」

こんな会話が繰り返されるのだという。

カウンターには今夜もハイトーンな声の匂いがしていた。