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なにぬネコ書店

詩とか、日記とか  (榎本初=えのうい)

空へ伸びて

2017-06-01 04:50:15 | 詩を書く

 藤の花が朶れていて咲いていて、光が空へあふれていた。茜色の雲が街路樹と語らいを始める頃に、ワイングラスに揺れる葡萄色の傍で微かに頬を染めた君は、空が好きだと言った。
 夜独り。珈琲を淹れる。一匙の砂糖。グールドが奏でる変ホ長調の間奏曲は何も語らない。ただ流れているだけであり、ただ想うだけであり。
 空が好きだと君は言った。


晩秋

2010-11-10 11:45:11 | 詩を書く
 モノトーンの舞台で華麗に踊る指先から生み出される軽快な疾走は、むしろ哀しみを抱きしめていた。部屋に独り。レースのカーテンの向こう側、窓の外いっぱいに夕日があふれていた。夕焼けが何も言わずに跳ねかえっていた。情熱の鍵盤は宇宙に届くだろうか。
 一人の少女が地下鉄の駅のベンチの上に足を抱え込んで、蹲るような格好で座っていた。左手に携帯電話。滑り込んできた地下鉄には目もくれずに、親指だけが生きていた。少女はジャン・ヴァルジャンの瞳に耐えられるだろうか。
 浪花のハンターウォッカに痺れた男がいた。うわっつらの香りなんてどうでもよかった。熱情のロシアが響き渡っているだけでよかった。男は場末の寒空に祝杯を捧げながら明日を語れるだろうか。

澄み空

2010-11-08 12:21:32 | 詩を書く
 みずいろの空の真ん中で、白い白い雲の群がりが東へ向かう。やわらかなひかりを包み込んでいる羊たちのコーラスに僕は耳を澄ましている。
 ひとつの空の下で、きっと君は笑っているに違いない。静かに流れている季節の中で小鳥の歌声に頬笑んでいる。
 晴れわたる空のやさしさを、つないだ掌のぬくもりを僕たちは信じている。どこまでも、いつまでもひろがる、みずいろの空。

覚書‐秋桜

2010-11-05 02:59:04 | 詩を書く
コスモスの花言葉に

 少女の純真
 真心

というのがあるそうだ。
昨晩、自作の詩「コスモスの空」を読み直し、書き直していた時に
ふと花言葉が気になったので、調べてみた。

7年前、「コスモスの空」を書いたときに花言葉を調べた記憶はない。
その年の夏に書いた「ピアニカピアニカ」という詩に少年が出てくる。
次は少女の詩かな、といった感じで書いたことを覚えている。


   コスモスの空

 八月の残り香を昨日の雨に失くして風が研ぎ澄まされている。項垂れた少女がはっと顔を上げる。
 少女はコスモス色の、おばあちゃんの手編みのニット帽をかぶっていて、焦げ茶色の瞳を空へ捧げる。雲が碧く掠れていく、掠れて漣の花、花びらが頬に触れる。綻んでいった海の奥深く、乾いていく砂の匂いの染みた花びらをてのひらに置いて、てのひらをかぶせる、シルクに包みこむように。氷の粒が、砂のような星屑が袱紗から零れて散らされて、少女の身体の隅々まで行き渡り、澄み渡り、途絶えることはない。
 コスモスを掴んで強く強く放り上げて、少女が再び瞳を捧げる。解かれた花は絹の羽と重なり契りを交わす、星々の生業を忘れないように。一陣の風が少女の額に垂れた前髪を揺らしている。
 少女は花になる。空になる。

2003年9月25日

コスモスの空

2010-11-04 03:13:57 | 詩を書く
 夏の残り香を昨日の雨空に置いてけぼりにして、風が研ぎ澄まされている。項垂れた少女がはっと顔を上げる。
 少女はコスモス色の、おばあちゃんの手編みのニット帽をかぶっていて、焦げ茶色の瞳を空へ捧げる。雲が碧く掠れていく。光の花を咲かせていく。花びらが頬に触れて、頬を染める。土の匂いの染みた花びらを碧く高く澄み渡る空へ映して、少女は、はにかみながら笑顔を隠す。
 真昼の向こう側に広がる銀河、星の刺繍。
 少女を優しく包んでいた絹のストールから星屑が零れて散らされて大空へ行き渡り、行き渡り、途絶えることはない。少女はもう一度、瞳を空へ捧げる。紐解かれた蕾は、秋晴れに舞う白鳥と歌っている、星々の生業を讃えながら。
 真白の風が、少女の、ほのかに紅く染まった頬を撫でている。

2003年9月25日
2010年11月3日補筆


端書き―祈り

2009-04-23 09:41:55 | 詩を書く
 あなたの頬笑む顔の輪郭だったり赤らむ頬の柔らかさだったり思い出しながら、あなたの泣く声の抑揚を雨空の向こうに尋ねながら、ひとつ一つの文字を便箋に刻んでいく。あなたの胸に届くように、わたしの耳朶に染みるように。
 達筆という訳にはいかない、決して気の利いた言葉ではないけれども、せめて耳を澄まして、心を研ぎ澄ますことに努めて、健やかであれ、幸せであれと認(したた)めよう。あなたと一つの空を見ている。

夏の宿題

2008-08-14 20:49:00 | 詩を書く
幾千万の向日葵が炎天に咲き渡る

四つ切の
真っ白の画用紙を画板に留めて
たった一つの花だけを
ちっちゃくなったクレヨンで描く
画用紙いっぱいに描くんだ
思いきり

眩い光を羽織って湧きあがる入道雲に
負けない

希望

2006-12-13 12:10:30 | 詩を書く
 花は咲いた時に花となるのであって咲かない花は花とは呼べずそこには時間などなくて息と呼ぶものもない。
 息と呼ぶものがないところに命はなくてそれは人もまた同じで、ただ息というのはリズムであるとも言えて呼吸でありあなたがいて私がいて宇宙を貫く法則に抱かれるとき温もりが言葉に寄り添う。時間が命に沁み込んでいる。
 泉は祈りから湧き出ずる。胸奥の都に湧き出ずるのであり、やがて銀色の大河が大空へ翔る。花のまわる大空の東から太陽が射し込んでいる。朝日はただ昇ることだけを知っていてそれは決意とも言えて人は生かされながら生きて、朝という祝祭を乗り越えていく。
 詩というものが閉じられた世界でしか通用しないのであれば潔く詩人の名を捨てよう。おそらく詩とは花であり希望の異名なのであって、詩人は宇宙の呼吸を肌で感じてその調べを口笛に歌う。花を咲かせていく。