小室みえこのブログ

日々のくらしと市政をつなぐ

市原悦子さんと「ちいちゃんのかげおくり」

2019-01-19 07:25:35 | 日記

小室みえこです。

昨日は、市原悦子さんの告別式だっった。TVで、告別式に参列した赤井珠緒アナウンサーがインタビューに応えていた中に、「ちょうど、献花をするときに市原さんの声で『ちいちゃんのかげおくり』が流れてきて、市原さんに泣かされてしまいました」と言っていた。

そう、そう、私は市原さんと言えば、日本昔ばなし・・・と 「朗読」が好きでした。

改めて「ちいちゃんのかげおくり」を検索してみた。声に出してよんでみた。市原さんの声を思い出しながら。

皆さんも一度声に出して読んでみてください・・・・「ちいちゃんのかげおくり」

ちいちゃんのかげおくり


 

「ちいちゃんのかげおくり」
あまんきみこ作

「かげおくり」って遊びをちいちゃんに教えてくれたのは、お父さんでした。
出征する前の日、お父さんは、ちいちゃん、お兄ちゃん、お母さんをつれて、先祖のはかまいりに行きました。
その帰り道、青い空を見上げてたお父さんが、つぶやきました。
「かげおくりのよくできそうな空だなあ」
「えっ、かげおくり」
と、お兄ちゃんがきき返しました。
「かげおくりって、なあに」
と、ちいちゃんもたずねました。
「とお、数える間、かげぼうしをじっと見つめるのさ。とお、と言ったら、空を見上げる。すると、かげぼうしがそっくり空にうつって見える」
と、お父さんがせつめいしました。
「父さんや母さんが子どものときに、よく遊んだものさ」
「ね。今、みんなでやってみましょうよ」
と、お母さんが横から言いました。

ちいちゃんとお兄ちゃんを中にして、四人は手をつなぎました。
そして、みんなで、かげぼうしに目を落としました。
「まばたきしや、だめよ」
と、お母さんが注意しました。
「まばたきしないよ」
ちいちゃんとお兄ちゃんが、やくそくしました。

「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ」
と、お父さんが数えだしました。

「ようっつ、いつつう、むうっつ」
と、お母さんの声も重なりました。

「ななあつ、やあっつ、ここのうつ」
ちいちゃんとお兄ちゃんも、いっしょに数えだしました。

「とお」
目の動きといっしょに、白い四つのかげぼうしが、すうっと空に上がりました。

「すごうい」
と、お兄ちゃんが言いました。
「すごうい」
と、ちいちゃんも言いました。

「今日の記念写真だなあ」
と、お父さんが言いました。
「大きな記念写真だこと」
と、お母さんが言いました。

次の日、お父さんは、白いたすきをかたからななめにかけ、日の丸のはたにおくられて、列車に乗りました。
「体の弱いお父さんまで、いくさに行かなけらばならないなんて」
お母さんがぽつんと言ったのが、ちいちゃんの耳には聞こえました。

ちいちゃんとお兄ちゃんは、かげおくりをして遊ぶようになりました。
ばんざいをしたかげおくり、
かた手をあげたかげおくり、
足を開いたかげおくり、
いろいろなかげを空に送りました。

けれど、いくさがはげしくなって、かげおくりなどできなくなりました。
この町の空にも、しょういだんやばくだんをつんだひこうきが、とんでくるようになりました。
そうです。
広い空は、楽しい所ではなく、とてもこわい所にかわりました。

夏のはじめのある夜、くうしゅうけいほうのサイレンで、ちいちゃんたちは目がさめました。
「さあ、いそいで」
お母さんの声。

外に出ると、もう、赤い火が、あちこちに上がっていました。

お母さんは、ちいちゃんとお兄ちゃんを両手につないで、走りました。
風の強い日でした。
「こっちに火が回るぞ」
「川の方ににげるんだ」
だれかがさけんでいます。

風があつくなってきました。ほのおのうずが追いかけてきます。お母さんは、ちいちゃんをだきあげて走りました。
「お兄ちゃん、はぐれちゃだめよ」
お兄ちゃんがころびました。足から血が出ています。ひどいけがです。
お母さんは、お兄ちゃんをおんぶしました。
「さあ、ちいちゃん、母さんとしっかり走るのよ」
けれど、たくさんの人に追いぬかれたり、ぶつかったりー
ちいちゃんは、お母さんとはぐれました。
「お母ちゃん、お母ちゃん!」
ちいちゃんはさけびました。

そのとき、知らないおじさんが言いました。
「お母ちゃんは、後から来るよ」
そのおじさんは、ちいちゃんをだいて走ってくれました。

暗い橋の下に、たくさんの人が集まっていました。
ちいちゃんの目に、お母さんらしい人が見えました。
「お母ちゃん!」
と、ちいちゃんがさけぶと、おじさんは
「みつかったかい、よかった、よかった」
と下ろしてくれました。
でも、その人は、お母さんではありませんでした。
ちいちゃんは、ひとりぼっちになりました。ちいちゃんは、たくさんの人たちの中でねむりました。

朝になりました。町の様子は、すっかりかわっています。あちこち、けむりがのこっています。
どこがどうなのかー。
「ちいちゃんじゃないの」
という声。ふり向くと、はす向かいのうちのおばさんが立っています。
「お母ちゃんは。お兄ちゃんは」
と、おばさんがたずねました。ちいちゃんは、なくのをやっとこらえて言いました。
「おうちのとこ」
「そう、おうちにもどっているのね。おばちゃん、今から帰るところよ。いっしょに行きましょうか」

おばさんは、ちいちゃんの手をつないでくれました。二人は歩きだしました。
家は、やけ落ちてなくなっていました。
「ここがお兄ちゃんとあたしの部屋」
ちいちゃんがしゃがんでいると、おばさんがやって来て言いました。
「お母ちゃんたち、ここに帰ってくるの」
ちいちゃんは、深くうなずきました。
「じゃあ、だいじょうぶね。あのね、おばちゃんは、今から、おばちゃんのお父さんのうちに行くからね」
ちいちゃんは、また深くうなずきました。

その夜、ちいちゃんは、ざつのうの中に入れてあるほしいいを、少し食べました。
そして、こわれかかった暗いぼうくうごうの中で、ねむりました。
「お母ちゃんとお兄ちゃんは、きっと帰ってくるよ」

くもった朝が来て、昼がすぎ、また、暗い夜が来ました。ちいちゃんは、ざつのうの中のほしいいを、また少しかじりました。
そして、こわれかかったぼうくうごうの中でねむりました。

明るい光が顔に当たって、目がさめました。
「まぶしいな」
ちいちゃんは、暑いような寒いような気がしました。ひどくのどがかわいています。いつの間にか、太陽は、高く上がっていました。
そのとき、
「かげおくりのよくできそうな空だなあ」
というお父さんの声が、青い空からふってきました。
「ね、今、みんなでやってみましょうよ」
というお母さんの声も、青い空からふってきました。

ちいちゃんは、ふらふらする足をふみしめて立ち上がると、たった一つのかげぼうしを見つめながら数えだしました。
「ひとうつ、ふたあつ、みいっつ」
いつの間にか、お父さんのひくい声が、重なって聞こえだしました。
「ようっつ、いつつう、むうっつ」
お母さんの高い声も、それに重なって聞こえだしました。
「ななあつ、やあっつ、ここのうつ」
お兄ちゃんのわらいそうな声も、重なってきました。
「とお」

ちいちゃんが空を見上げると、青い空に、くっきりと白いかげが四つ。
「お父ちゃん」
ちいちゃんはよびました。
「お母ちゃん。お兄ちゃん」
そのとき、体がすうっとすきとおって、空にすいこまれていくのが分かりました。

一面の空の色。ちいちゃんは、空色の花畑の中に立っていました。見回しても、花畑。
「きっと、ここ、空の上よ」
と、ちいちゃんは思いました。

「ああ、あたし、おなかがすいて軽くなったから、ういたのね」
そのとき、向こうから、お父さんとお母さんとお兄ちゃんが、わらいながら歩いてくるのが見えました。

「なあんだ、みんな、こんな所にいたから、来なかったのね」
ちいちゃんは、きらきらわらいだしました。わらいながら、花畑の中を走りだしました。
夏のはじめのある朝、こうして、小さな女の子の命が、空にきえました。

それから、何十年。
町には、前よりもいっぱい家がたっています。
ちいちゃんが一人でかげおくりをした所は、小さな公園になっています。

青い空の下、今日も、お兄ちゃんやちいちゃんぐらいの子どもたちが、きらきらわらい声を上げて、遊んでいます。


 

市原さんは、政治的な発言もする方でした。

「きらきら声を上げて、遊んでいられる」

この平和をどうやってつなげて行くのか?次の世代にも・・・・・それは今の私たちですね。

 


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