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イオン、公取委に徹底抗戦 ビール卸値は不当廉売か

2012-09-09 11:48:49 | ウエーブニュース
イオン、公取委に徹底抗戦 ビール卸値は不当廉売か
   平成24年9月9日(日)

 公正取引委員会が「原価より安くビールを卸した」として独占禁止法(不当廉売)の疑いで三菱食品など食品卸大手3社を警告、事実上の値上げを求めた判断が波紋を呼んでいる。3社がビールを納入しているイオンは猛反発、全国紙に意見広告を出すなど徹底抗戦の構えだ。背景にはビール会社のリベート(販売奨励金)にまつわる複雑な商慣習も絡んでおり、ビールメーカーや卸売業者は沈黙。解決の糸口は見つかっていない。

 
「10銘柄原価割れ」

 公取委が三菱食品、伊藤忠食品、日本酒類販売の卸大手3社に、独占禁止法違反の疑いで不当廉売をやめるよう警告したのは8月1日。原価を下回る価格でイオンにビールを納入していたとして、事実上の値上げを求めたのだ。公取委はイオンやビール大手4社にも取引条件を見直す話し合いに協力するよう求めた。

 なぜ公取委はイオンに対する納入価格だけを問題にしたのか。話は平成18年前後のリベート見直しにさかのぼる。それまでビール会社は卸を通じ、販売数量に応じたリベートを小売店に払っていた。小売価格を下げて売り上げを伸ばすためだったが、大手流通業者を中心に安売り競争が加速した。このため、国税庁は18年、「乱売防止」を目的にリベート廃止を指導。リベートは「注文電子化の協力金」など違う名目で続いたが、総額は減少した。

 小売店は値上げの必要に迫られ、大半の大手流通業者が応じたが、イオンだけは「消費者に説明できない」と拒否。このため、卸3社はこれまでと同じ条件でビールを卸す代わりに、ほかの取引で採算を取ることにした。公取委によると、遅くとも21年1月からビール・発泡酒の約10銘柄で、仕入れ値に物流費を加えた原価を割る取引が続いていたという。

 実際、イオンのビールは安い。都内の店舗では8月下旬、大手メーカーの缶ビール(350ミリリットル)が185円、1ケース(同24缶)が4350円。他の大手スーパーでは1缶200円前後、1ケース4700円前後で売られていた。

 
購買力への遠慮

 ただ、激安店ではもっと安い例も珍しくない。イオンは自前の物流センターを立ち上げ、物流費などのコスト削減を進めてきたとの自負がある。公取委がこうした努力を考慮せず、「標的」としたことに強く反発。「イオンの安さには、正当な理由がある」とする大型意見広告を全国紙に掲載したほか、横尾博専務執行役が会見し、「取引が透明化すれば、メーカー、卸と一緒に価格を下げる努力もできる」とメーカーと卸売業者に価格構成や取引内容の開示を迫った。

 この件ではイオンだけが主張を積極的に発信、メーカーと卸は声をひそめる。背景には全国に約1600店を抱える業界最大手の「強烈なバイイング・パワー(購買力)に対する取引上の遠慮がある」と業界関係者は推測する。

 イオンには自前で卸機能を持てる力があり、プライベートブランド(自主企画商品=PB)の安いビールを韓国メーカーに製造を委託、販売している。機嫌を損ねては「取引を打ち切られかねない」とメーカーや卸売業者が考えても不思議ではない。

 ■薄利多売の実情

 甲南大法科大学院の根岸哲教授は「公取委は『不当廉売』のほか、イオンが強い購買力を持つ『優越的地位の乱用』で、卸に無理な条件をのませていた可能性があるという2点で問題にしようとした」とみる。だが、公取委の関係者が「極端に安い価格で販売していたわけではないので…」と言葉を濁すように、その事実は認められていない。

 業界関係者によると、ビールの価格構成は1缶(350ミリリットル)200円(消費税抜き)とした場合、原材料費が30~40円で、酒税は77円と4割近くを占める。広告宣伝費や物流費を除くと、粗利はメーカー、小売りが十数円、卸にいたってはわずか数円だ。

 このため、より多くの利益を得るには「嗜好(しこう)品で特売の目玉商品でもあり、リベートで価格を下げて薄利多売するしかない」(メーカー)のが実情だ。景気低迷と長引くデフレで、消費者の「価値ある商品をより安く」という要望は高まるばかり。公取委の判断に強制力はなく、「当面は何も変わらない」との見方が多い。

 ただ、イオンの横尾専務執行役は「将来的には卸を含めた物流改革に着手したい」と卸参入の意向を隠さない。ビール以外の商品では大手流通業を中心に卸抜きで生産者と直接取引する例が増えている。不透明な商慣習の問題点を関係業界に突き付けた公取委の警告は、ビール流通の仕組み自体を変えるきっかけになるかもしれない。(藤沢志穂子)

 (産経新聞テキスト朝刊)

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