● 米「財政の崖」不安再燃、安倍財政には海外ファイナンスの壁
12/12/21 15:52
ロイター
[東京 21日 ロイター] 米国「財政の崖」の行方に対する懸念が再び強まっている。
日本株は底堅さもみせているが、短期的な過熱感もあり、利益確定売りが優勢になった。リスクオフの円買いの動きも出ている。国内の年内イベントがほぼ一巡し年末も近づくなかで、来週発足する安倍新政権の政策実行力を見極めたいとのムードも強くなってきた。歳入が伸びない中での財政拡大には海外ファイナンスの壁が待ち構えるとの指摘もある。
<日本株のウエート引き上げ需要が継続>
日本時間に入ってGLOBEX(シカゴの24時間金融先物取引システム)で米株先物が急落した。米国の「財政の崖」への懸念が強まったためで、ダウ先物はストップロスを巻き込んで一時200ドル以上、下落した。米共和党のベイナー下院議長が20日(米時間)に「財政の崖」回避に向けてオバマ大統領から譲歩を引き出すため、自らが提案した「プランB」を下院で採決する考えだったが、共和党内から十分な支持が得られず、採決の断念を余儀なくされたためで、協議の行方に一段と不透明感が高まった。
市場では「マーケットのコンセンサスは28日までには決着するというものだが、協議が決裂して『崖から落ちる』格好になれば、ドル/円は来年冒頭から急落するリスクがある」(三井住友銀行シニアグローバルマーケッツアナリストの岡川聡氏)と警戒感が広がり、リスクオフムードが拡大。為替市場では円買いの動きが強まり、一時83円後半までドル安/円高が進んだほか、日経平均も3日ぶりに1万円を割り込んで引けた。
ただ、「財政の崖」について「最終的な合意というメーンシナリオは変わらない」(みずほ証券・チーフ債券ストラテジストの三浦哲也氏)との声は依然多い。「留守番役」のディーラーがニュースに振り回されているだけとの指摘もあるが、不透明感の強まりに、年末に向けたポジションの「そぎ落とし」も加速している。
ある国内金融機関のクレジット関係者は「財政の崖をめぐる協議は、日本の消費税引き上げを巡る動きと同様に、政治の駆け引きための道具に使われているため、ギリギリのタイミングまで解決しないのではないか」と指摘。仮に合意に失敗すると、米国民の生活にダメージを与え、支持率低下を招くため、最終的に妥協せざる得ないとしながらも、楽観と悲観を繰り返すとみている。
<財政拡大続けば国内ファイナンス困難にも>
日本株は底堅さもみせるが、下支える海外勢の買いは、やや質的に異なってきているとの指摘もある。「序盤は日本を良くみているグローバルマクロ系のヘッジファンドなどが買っていたが、現在は様子見。次に年金など長期投資家の買いが入ってきたが、昨日くらいから一巡している。現在は日本株の上昇で機械的にウエートを高めなければならない機関投資家などの買いが中心だ」(大手証券トレーダー)という。
日本株の「先導役」であるヘッジファンドなど海外勢は「来週発足する安倍新政権の政策実行力を見極めようとしている」(米系証券エコノミスト)とされる。現在は、金融政策に注目が集まっているが、もう一つの大きなポイントは財政政策の拡大度合と質的内容だ。
一部のエコノミストはマクロバランス上の限界に注目している。経常収支は政府収支と民間収支の合計だが、SMBC日興証券チーフエコノミスト牧野潤一氏の試算によると、経常黒字見通しを6兆円とした場合、今年度ベースで政府収支は44兆円の赤字(国債発行額)であるから、民間収支は50兆円の黒字となる。GDPギャップを埋めるためには15兆円程度の需要追加が必要になるが、これをすべて財政支出で埋めようとすると、政
府収支は59兆円の財政赤字となる。民間収支は50兆円しかないため、9兆円を海外からファイナンスする必要が出てくるという。
ただ10年債で0.7%台の利回りしかない日本国債を海外勢が買ってくれるかは期待薄だ。「現在は国内勢が決定力を有しているが、海外勢の力に頼ることになった場合、金利上昇のおそれは強まる」(T&Dアセットマネジメントのチーフエコノミスト、神谷尚志氏)。大型補正予算で政府赤字が拡大すれば、海外に頼る割合はさらに大きくなるほか、貿易赤字の拡大で経常黒字の継続も確実とは言えなくなっている。日銀が国債購入を増額しても、直接引き受けを禁じている現時点では市場からの購入であり、マーケットに一度国債を出して「審判」を受けなければならないことには変わりがない。
一方、日銀によると、家計の純金融資産と地方公共団体などを含む一般政府の債務残高の差額が9月末に22.4兆円と過去最小になり、逆転が視野に入った。国債の消化を支えてきた国内マネーは構造変化を起こし始めている。
「財政政策がその分のリターンを国内に生み出せばいいが、必要性の低い道路や橋梁を作っても、生産性は向上しない」とSMBC日興証券の牧野氏は指摘する。いくら公共投資などを拡大しても、国内に利益を生まない場合は、将来の償還時に、海外にマネーが流出するだけということにもなりかねないという。
● 東京株終値、9940円に下落…1万円台割る
2012年12月21日(金)15:20
読売新聞
21日の東京株式市場は、米国の「財政の崖」を巡る協議の不透明感などから売りが優勢となり、日経平均株価(225種)は3日ぶりに1万円を割り込んだ。終値は前日比99円27銭安の9940円06銭だった。
東証1部全体の値動きを示す東証株価指数(TOPIX)は5・89ポイント低い832・72。東証1部の出来高は約36億1200万株だった。