本文詳細↓
(白い皮手袋をはめた燕尾服の仮面の店員が一礼する)
「いらっしゃいませ。当店にご来店いただき、誠にありがとうございます。人間の男性一名様ご案内です」
(無貌の店員、濃紺地に金字で何本かの線が引かれたカードを渡す)
「すぐの相席となります。只今お席をご用意させていただきますので、こちらの伝票を持って少々お待ちください」
(左の壁際の席へ案内される)
「ただいまから相席開始です。ごゆっくりどうぞ」
「これはまたお若いのが来なすって。あっしは亀の万蔵と申しやす。
……ほうほう、これはまた、洒落たお名前をしてらっしゃる。あっしのような黴の生えた古いモンには、馴染みがありませんで。あー、ちょいと失礼して火をつけさせていただきやす。
……ふぅ~。この葉巻はかれこれ百年近く愛用させてもらってるものでして。三度の飯と同じくらい手放せないんでさ。
……ええ、まあ、人に比べれば長生きでしょうが……一体何をお聞きになりたいので?
……はあ、世界の隠された秘密。また大きく出やしたねえ。けどそんなもんは星の数ほどあるもんじゃあ、ねえですかい。少なくともあっしはそう思いやすが。
……北に根を張る大樹の森は、星の使者に頼まれてかつてその地にあった国を踏みつぶしているのだとか。東の島国にはあらゆる種族を集めて飼い殺しにしている変わり者がいるだとか。妙な噂話だけは海の底まで届いてきやすが、はてさて、真実はいかほどか。
……ただねえ、お若いの。秘密というのは、誰かが誰にも知られたくないものをそう名付けて隠しているものでしょう? それに触れようというなら、気をつけたほうがいい。何も知らないというのも、それはそれでひとつの身を護る術でさぁ。
……さて、それじゃああっしはこのへんで。どうぞよい旅を」
(無貌の店員がやってきて亀の皿を下げる)
「人間のお客様、続けての相席を希望されますか?
……ありがとうございます。ただ今順番にご案内しておりまして、もう少々お時間をいただいてしまいます。よろしければドリンクなどを足してお待ちください」
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