本文詳細↓
「変わらぬ天地の恵みに感謝を。……いただきます」
『いただきます』
皆で手を合わせて、温かいスープに口をつけた。
人間のエクレアさんはともかく、頼りなく揺れている蝋燭の光しかない部屋で司祭様と向き合っていると、少しだけ落ち着かない気分になる。ただでさえ人間には獣人の表情は分かりにくい……
「お口にあいませんでしたか」
「え?」
「なにやら気難しい顔をしていたようですから」
慌ててパンを飲み込み、笑顔を作った。
「いえ、とてもおいしいです。ただ、階段と迷路の街という名は伊達ではなかったと思いまして」
まさか、あなたのことを不気味に思っていました、なんて言えなかった。
「階段と迷路の街?」
「あ、すいません。ここのことを僕ら人間はそう呼んでいるのでつい……。それで、先ほどアダムと辿り着けないなら宿の意味がない、入口近くにあればいいのに、という恨み言を少し。エクレアさんに出会えてなければ、よからぬ面倒に巻き込まれていたかもしれません」
「ああ、きっとそうでしたでしょう。なぜなら今夜は百年に一度の大祭、エクリプスの夜ですから」
「っ、なん、今、なんと言った⁉ エクリプスの夜だと? 真か⁉」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます