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ブログ版「泥鰌の研究室」

 信州飯田周辺の方言(飯田弁)を発信しながら、日本語について考えていきます。

よいお年をお迎えください 「オートシ」

2004-12-31 | 方言(飯田弁)にみる民俗
大晦日に雪降りだったのは何年前だったでしょうか。記憶があまりありません。
大晦日のことを飯田弁では「オートシ」と言いますが、ほとんどが「大晦日」で、徐々に消えていくことが考えられる方言のひとつです。
大晦日の大売り出しを「大歳の市」(オートシノイチ)と言いますので、漢字をあてるとしたら、「大歳」なんだろうと思います。
年の瀬の方言は、年の瀬の風習にあわせて存在します。年始も同じです。
これから「年取り」の食事になりますが、読者の方々の地域では年取り魚は何をお使いになりますか。飯田では多くの家庭がブリを用います。昨日、あるスーパーへ行きましたら、ブリの切り身が一切れ2,000円以上で売られていました。それでも年取りには欠かせないものなので、多くの人たちが買い求めていました。

あと数時間で除夜の鐘が響き、2004年が幕を閉じ、2005年が始まります。
除夜の鐘をその数から「ヒャクハチ」とかつては呼んだようです。今、ヒャクハチとおっしゃる方がいらっしゃるかどうか定かではありません。

皆さん、よいお年をお迎えください。来るべき新しい年が皆さまにとってよい一年になりますよう、願ってやみません。

「日本語は年速一キロで動く」 井上史雄著

2004-12-27 | お薦め!この1冊
「違かった」「ウザい」などの若者ことばは、東京に逆流した方言だった。綿密な全国調査で明かす図版満載の日本語論。

白ゆり本花堂 リリー店長のお薦め文
方言に興味のある人にはおもしろい1冊だと思います。「言葉の移動速度=1キロ/時」という平均値を出すに至った綿密な全国調査には脱帽です…。あなたの地域の方言が日本の流行ことばの語源かもしれませんね☆
(セブンアンドワイ(旧イーエスブック)書評から引用)

著者 井上史雄/著
出版社 講談社
価格 735円(税込)

ブログを移転しました

2004-12-26 | ノンジャンル
このたび、都合により、ブログを移転しました。
方言(飯田弁)に興味をもってから10年以上の年月が過ぎました。方言は消えゆく運命にあると言われていますが、少しでも長く後世に伝えることができればと思っています。

旧ブログアドレスは、「飯田弁だに!」(http://blog.drecom.jp/2534_dozeu-pc/)です。ここに掲載していた記事も引っ越しをしました。
旧ブログは、およそ2ケ月の開設期間でしたが、延べ1,200件あまりのご訪問をいただくことができました。新しいアドレスにおいても多くの皆さまにご訪問いただければと思います。
なお、当面の間は、両方のブログともごらんいただけるようにしておきますが、ある程度の時期が参りましたところで、旧ブログを閉鎖いたしますので、ご了承ください。

ブログ移転 2004-12-26 17:56:20

「方言は絶滅するのか」 真田信治著

2004-12-24 | お薦め!この1冊

めっちゃ、まったり、しんどい…今や全国化した関西弁だが、一方で絶滅の危機に瀕した表現も数多い。本書では、沖縄、北陸、韓国などをフィールドに、現地語が日本語の共通語を取り込みながらいかに変容していったかを考察。地域の風土・文化というフィルターを通して、方言は形を変えていくものだ、と著者は指摘する。方言に固執するのではなく、地域性・個人の心性に適った「自分のことば」を身につける。ことばの豊かな感性を取り戻すための一冊。
(セブンアンドワイ(旧イーエスブック)の紹介文より)

出版社名 : PHP研究所
価格 : 693円(税込)

サブタイトル「自分のことばを失った日本人」、果たしてこのサブタイトルが意味するところは何か。ぜひこの目で読んで、その意味をつきとめていただきたいと思う。

…マイ(カ)

2004-12-24 | 飯田弁語彙の解説と考察
 「…マイ(カ)」という接尾語は、どのように使われているのだろうか。
 共通語の世界にあっては、この接尾語は、動詞の終止形・未然形などに接続して、①「…ないだろう」、「…はずがない」(打ち消しの推量)、②「…しない(つもりである)」、「…しないようにしよう」(打ち消しの意志)、③「…してはいけない」、「…してはならない」(禁止)、④「…しないほうがよい」、「…すべきではない」(不適当)といった意味で使われている。しかし、我が「飯田弁」は、「…ましょう」、「…ませんか」という意味で、「…マイカ」の形で相手を誘う気持ちを持って意志をあらわすものである。つまり、共通語では、打ち消し、否定といった場合に用いているが、飯田弁ではそうではないということである。
 同じような接尾語が飯田弁には存在する。
 それは「…ズ」である。この「…ズ」も「…マイ」と同じで、共通語では、活用語の未然形に接続し、「…ない」、「…ぬ」といった形で打ち消しをあらわす。しかし、飯田弁では、①「…う」、「…よう」という形で動詞の未然形について意志、勧誘の意をあらわしたり、②「…だろう」という形で用言の未然形について推量の意をあらわすものであり、「…マイ」同様にまるで反対の意味をもっている。

 隣接する上伊那ではどのように使用しているか。福沢武一氏の「上伊那の方言 ずくなし(上巻)」の「…マイ(カ)」に関する部分の記述を引用する。
  「…まいか」
   マイ 助動詞 四段活用動詞の終止形・連体形、その他の動詞の未然形(カ変、サ変で  は終止形にも)つく。(岩波国語辞典)     
南部では四段にも未然形にマイ(メー)がつく。
 ここでいう南部とは、上伊那南部のことであるが、下伊那北部と隣接していることから、この南部の影響は少なからず飯田弁に及んでいるはずだ。
 もうひとつの「…ズ」はどうか。「ずくなし」は次のように述べている。
  「…ズ (だろう)」
   イカズ(行こう) 
  自分の意志を表明している。相手があるとき、「さあ行こうよ」という勧誘になる。
シズ、ヤラズ
このズはもちろん文語の「ンズ」の血統である。
   …ズ ①推量「雨が降らズ」 ②意志「急いで行かズ」 ③勧誘「さあ行かズ」
 文語の「ンズ」について、「日本方言大辞典」(小学館)は次のように解説する。
  「ズ」助動詞
   助動詞「む」に助詞「と」動詞「す」が結合した「むとす」の転「むず」がさらに転じたもの

 以上の記述から、「…マイ(カ)」の接続について考えてみたい。
 私たちが日頃耳にする「…マイ(カ)」を「行く」という動詞を使って列挙する。
 「行カマイカ」
 「行キマイカ」
 「行クマイカ」
 「行コマイカ」
 このほかの接続例はない。
 冒頭に記述したように、方言にも文法があるとすれば、これらの接続例が「…マイ(カ)」の接続規則に適合しているか否かを実証していく必要がある。
 ここまで記述すれば、読者の皆さまにはもうおわかりのことと思うが、「行キマイカ」と「行コマイカ」以外の二つは、動詞の未然形あるいは終止形、連体形に接続しており、文法的には正しい用法である。
 しかし、「行キマイカ」と「行コマイカ」の場合は、いずれも動詞の未然形、終止形または連体形ではないので、文法的に考えると疑問符がつく。しかし、これらの使い方は現実には存在している。
 「…マイ(カ)」の意味を改めて問うてみよう。
 飯田弁の「…マイ(カ)」は、「…ましょう」、「…ませんか」という意味で相手を誘う気持ちを持って意志をあらわす。
 この意味から、「行コマイカ」は、「行こう」+「まいか」の形であって、勧誘の気持ちを強調したものだということがおわかりになるだろう。
 実際に「日本方言大辞典」には、次のような用例があげられている。
  富山県「行ってこまいか」
  石川県「ほんならへっからまいるまいか」
  越前、長野県「けそけそしてきた、さあしまふめいか」  
愛知県「料理ができたで食べよまい」
  三重県「早よ行こうまいか」
  滋賀県「山へ登ろまいか」
  明石「手すきやったら一緒にいこまいか」
 以上から、「行コマイカ」も文法的には正しい用法と言えるだろう。

 問題は「行キマイカ」である。「動詞の連用形」+「まいか」の形である。
 「行キマイカ」のほか、「ヤリマイカ」、「遊ビマイカ」、「シマイカ」、「守リマイカ」、「書キマイカ」、「読ミマイカ」等々、枚挙にいとまがない。
 文法的に考えるならば、これらは、「動詞の未然形」+「まいか」という形に照らすと、「ヤラマイカ」、「遊バマイカ」、「セマイカ」、「守ラマイカ」、「書カマイカ」、「読ママイカ」が正しい用法である。(「終止形・連体形」+「まいか」も同じように用例をあげることができるがここでは割愛する。)
しかし、実際に私たちは、日頃の会話で「動詞の連用形」+「まいか」という形の用例を耳にしている。文法的には、これらは間違った用法であるが、実際に存在する以上、「絶対に誤りである」というレッテルは貼りたくない。
 むりやりに、結論を導くとしたら、これらの用法は、「会話上は存在するが、文法的には本来あり得ない」ということであろうか。したがって、何かのキャンペーンなどで、この「…マイ(カ)」を使うとしたら、「動詞の未然形・終止形・連体形」+「まいか」という形で使うほうがそもそもの飯田弁のスタイルで、「動詞の連用形」+「まいか」は適当ではないのではないか。
 私は、常々、飯田弁は丸くてやさしいことばであると言ってきた。「行かまいか」と「行きまいか」、読者の皆さまにとって、どちらが丸くてやさしい使い方だろうか。