祈りを、うたにこめて

祈りうた(寓話  理不尽な要求)

 理不尽(りふじん)な要求

 

 「交換しませんか」
 その男はとつぜん、目の前に立っている男性に言った。男性は新聞を読んでいた。その新聞と自分の読んでいた新聞とを交換してほしい、男はそう言ったのだ。
 朝の通勤・通学電車のなか。
 当時は携帯電話などなく、朝の電車内の光景といえば、目をつむる、本を読む、車窓の景色(けしき)を眺める、などに加えて、新聞を読むことも少なくなかった。広げた新聞が隣りの人との小さなトラブルの原因になることもあった。
 「交換しましょうよ」
 その男は、座った位置から新聞を差し出し、もう一度言った。何を言われたのか分からない、そんな素振(そぶ)りの男性に向かって。
 「これはもう読んじゃったので」と続けた。「そちらが読みたいんで」
 わたしは初め、ふたりは知り合いかと思った。それぞれ異なる新聞を買い、それを読んでいるのかと思った。その男があまりに自然に言葉を発したので。けれど、言われた男性の驚きぶり、戸惑いの様子を見て、見ず知らずの関係だと察した。
 「いや、まだ読んでいる途中なので」と、男性は断った。何をこの男はいきなり言うのかと怒った口ぶりでなく、困ったという口ぶりだった。小さく折りたたんで自分の新聞を読んでいるとき、いきなり、それを読むのをやめ違う新聞と替えよう、そう言われたのである。
 男はなおも続けた。「いいじゃないですか、これはもう読んじゃったんだから。そっちが読みたいんだから」


 駅に着き、男性は降りていった。目的の駅であったかどうかは分からない。朝のおそらく習慣となっているであろう行為に、いきなり理不尽な要求をされたのである。それもしつこく。これ以上関わりたくないと思ったのではないか。
 自分の要求が叶えられなかった男は、しぶしぶといった様子で、また自分の新聞を広げた。

 

●ご訪問ありがとうございます。

この出来事は、わたしが高校生の時にでくわしたことです。ロシアの暴挙(もう「侵略」と呼ぶべきでしょうか)を前にして、記憶から呼び戻されました。
他者の心・時間・持ち物、そして住まいや命など、平気な顔をして奪い取ろうとする行為を良しとはできません。
平和を求める祈りの輪が広がることをこころから願います。

 

かみさまといっしょに

 

ひとりより
ふたりがいい

ふたりより
さんにんがいい

さんにんのまんなかに
かみさまがいてくださったら
もっといい

かみさまといっしょに
みんなでいのりあえたら
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