「あーもしもし。こちら杉並警察ですけど、ダイスケさん?」 「はい?」
その電話がかかってきたのは先週の金曜日のことでした。
「ダイスケさんで間違いないよね?」
・・・・・・さー、働いてもらうぜ、俺の脳細胞。
この電話はいったい何だ。
受話器からは、聞き覚えのないオッサンの声。友達のイタズラではないみたいだ。
オレオレ詐欺だったら名前まで分からないはず。
固定電話から番号通知でかけてくるなんて、母親か仕事関係くらいのもんだが、
まさかこんな冗談はやるまい。
すると、やっぱりホンモノか。
とはいえ最近は(俺の記憶が確かなうちは)飲み屋で酔っ払っても殴り合いはしてないし、気の狂った知り合いとも遠ざかってる(一回、身元引受人をやらされたけど)。
万引きしなくて済むくらいの給料はもらっとるし、
薬物はおばあちゃんから止められてるから経験ないし(魔法のマッシュルームに手を出さなかったのは、単にキノコが嫌いだったからだけどね)、
女の子が自殺するような悪いこともしてない(おそらく)。
うーん・・・。でも、まあ、名前と携帯がバレてるなら、ジタバタしてもしょうがねーか。
(―1・5秒)
「はあ、ダイスケです」
(あきらめムード)
「あのね、いきなり電話してビックリしてたら申し訳ないんだけど、あなた最近、自転車無くしませんでした?」
「あ!盗まれたんですよ。飲み屋の前に止めといたら」
「その自転車ね、いま、うちにあるんです。 さっきね、鍵のついてない新しい自転車に乗ってる人がいてね。うちの人間が、ちょっと止めさせて、防犯登録をチェックしたらアナタの名前が出てきたんですよ」
「おわー!ありがとうございます!ホントに困ってました」
「じゃあ、悪いんだけどね、書類とか書いてもらわないといけないから、署まで来てくれるかな」
「いいとも!」(いや、実際には言ってないですよ)
そんなわけで、6月始めに盗まれた自転車が無事に発見されました。嬉しいです。つーかね、チャリンコなんて盗むなっての。どれだけ俺が困ったことか。クルマもバイクも持ってない俺にとっては、日常生活を支える移 動手段ですから、かなり怒 ってたわけですよ。
そんで、杉並警察まで行ってきました。いやー、自分が連行される以外の話で行く分には面白いですね、警察も。 放置自転車を盗んだら「占有離脱物横領」になるわけね。へー。
「でね、ダイスケさん」
「はいはい」
「あなたの自転車を盗んだのは、彼なの」
と言って、さっき電話をくれた警察の人が、書類に記された犯人の署名を指差しました。
俺もそうとう頭に来てたんで、
「とりあえず土下座して欲しいですねー。どんな奴なんですか?」とか言って。
「いやあ、彼ね実は未成年なんだわ。両親にも署まで来てもらって、僕がお説教しておいたからさ。まあ、出来ればそれで許してあげて欲しいんだよね」
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