どうもこんにちは。
今回はまたまた趣向を替えて、高校時代の思い出を綴った駄文でも載せてみようかと思います。
前回載せた
テープレコーダーの話が意外と人気があったので、調子に乗りましたよ。
というわけで、暇つぶしにどうぞ。
【高校生とは、かくも葛藤する。】
バレンタインデー。
健全なる高校生男子であればこの言葉を耳にして、何の反応も示さない輩はいないんじゃないかと思う。
この日の朝だけは、高校生に限らず日本全国津々浦々の男性諸君の鏡に向かう平均時間が大幅に伸びるはず。
このバレンタインというイベントは、恋愛が人生の全てと言っても過言ではない思春期において非常に大きな意味を持つ。
「女の子が愛の告白と共にチョコレートを手渡す」という魅力的なことこの上ない儀式は、高校生男子にとってはもう、想像するだにエキサイティングなものだった。
男なら誰しも一度は、
女「あれ?まだ残ってたんだ・・・。」
男「あぁ、ちょっと委員会長引いちゃって・・・。」
女「そ、そうなんだ、よかった!!じゃあコレ!!はい!!」
男「・・・え?」
というシチュエーションを頭に描いた事があるはずである。
調べたわけではないが、絶対あるに決まっているのである。
そんなわけで、もちろん僕もご多聞にもれず、毎年毎年2月14日だけは念入りに寝ぐせを直し、おろしたての靴下を履いて意気揚々と学校へ赴くという、「日本全国男性諸君鏡睨みつけ時間の平均」の記録向上に大きく貢献した高校生だった。
いつもなら目クソが付いてようが鼻クソが付いてようが気付かないような高校生男子が、2月14日に限って、鏡の前で笑ったり泣いたりキメ顔をしたりしているさまは救いがたいほどマヌケな光景だけれど、男としての器が量られるであろうこの日だけは、中身が伴っていない分外見が物を言うのであると自分に言い聞かせ、
「よし、僕いける!!」
と、自身に暗示をかけ、テンションを上げた上で意気揚々と学校へと赴くのだ。
実にバカバカしいが、これが男としてのサガなのだからもうしょうがないのだ。
しかし決して、「あいつ、チョコレート欲しくてしょうがないんじゃないの?」
と、周りに悟られてはいけない。
これは、何と言うか高校生男子の下らないプライドというやつで、理由を説明するのはややこしいのだが、とにかく男子間の中で、
「チョコレートが欲しいということがバレたらなぜか恥ずかしい!!」
という雰囲気というか考え方が蔓延していたため、いざバレンタインデーを迎えたところで、
「プリーズギブミーチョコレート!!」
という、戦後間もなくの日本のような情景が繰り広げられる事はない。
というわけで、男子どもはみな、どいつもこいつも朝、鏡の前でテンションを上げてきたにも関わらず、
「別にチョコレートなんか欲しくねぇし。」
「こんなイベントなんて興味ねぇし。」
「お菓子メーカーの陰謀には乗せられねぇし。」
などと虚勢を張って、反体制的なしかめっ面を浮かべた上で、一日の学校生活を送るのである。
そして、女子の皆様方は、そんな男子どもがしかめっ面を浮かべながらも若干そわそわしていることにちゃ~んと気付いており、
「男子って、バカよね~。」
と、持参したチョコレートを女同士でバリバリと食べてしまうのが常なのであった。
とはいえ、少数ではあれど女の子からチョコレートを見事ゲットする輩も毎年存在する。
そういう輩は大抵、ずっと前からしたたかに準備を進めている人間である。
彼らは、2月に入ってからではもう遅いとでも言わんばかりに、3学期が始まってすぐ、つまり1月上旬にはもうバレンタインを意識し、お洒落したりイメチェンしたり女子に優しく接してみたりと、異性に好感を持たれるように努力しているのだ。
もちろん僕は、そんな輩を柱の陰から殺意のこもった目で見つめる側の人間だったので、彼らの喜びも、その努力も知る由は無かった。
ちなみに、そんな準備や努力すらもしていないのに何故か毎年山のようにチョコレートをもらえるような男。
こんなのはもう、僕とは身体を構成する分子や遺伝子のレベルで何らかの違いがあると思われるので、こういう連中は端から論外だ。
ここまで書けば、今これを読んでいる方々にも、高校時代の僕の戦績が何となく想像できるのではないかと思う。お察し下さい。
毎年2月14日。
下駄箱や自分の机をいくらまさぐっても汚い上履きと、使い古した教科書しか出てこないし、放課後いくら遅くまで残っていようが、もらえるのはチョコレートではなく「早く帰れ」という先生のお小言くらいだしで、意気揚々と朝学校へと向かった僕は、帰るときにはもうすっかり意気消沈している事がほとんどだった。
小学校の時からずっと高校時代まで、かくも辛酸を嘗めるかのごとき体験をしてきたおかげで、大学時代はすっかり落ち着き、
「世間はバレンタイン・・・でも僕、仏教徒。」
と、まるで菩薩のように穏やかな心で2月14日を過ごす事が出来た。
※これは負け惜しみではありません。ありませんったらありません。
しかし、いくらモテなかろうが興味の無いふりをしようが、「一個くらいもらいたい」というのが健全な日本男児としての純粋な欲望であることは事実であると思う。
「別にもらえなくてもいいや」という言い分は、裏を返せば「できれば欲しかった」という事である。
そして、そんなモテない男代表である僕のささやかな願いが初めて叶ったのは高校2年の時だった。
高校2年のバレンタインデー。
僕は毎年のように髪型セット時間をいつもより長めに設けて、意気揚々と学校へ行った。
小学校からの経験により、それがある程度意味を成さないことは薄々と感じていたが、もしかしたらという事があるかもしれないので、僕は電車に間に合うギリギリの時間まで鏡を睨みつけていた。
そして、そのもしかしたらは僕が最も喜びえない形で、見事現実のものとなった。
事が起こったのは昼休み。
朝、鏡の前で気合いを入れたのにも関わらず、それまで下駄箱にも机の中にもチョコレートの影すら見当たらず、今年の収穫も例年通りかとうなだれていた僕に、後ろから声を掛けた人間がいた。
「おい、びぶ子、チョコレートやろうか!?」
チョコレートをやるという、文字通り甘い言葉にいざなわれ思わず振り向くと、そこには僕の予想と期待を見事に裏切ってくれるような光景が待ち構えていた。
僕に声を掛けたのは、Eさん(仮名)という、同じクラスの女子だった。
彼女は女子ではあったがあまり女の子らしくない感じの女の子であった。
彼女の外見的特徴を分かりやすく言うと、ちびまる子ちゃんに出てくるミギワさんに空気入れを差し込み、空気を詰め込んでパンパンにしたような人、とでも言えば想像がつくだろうか。少なくとも、現代の日本で一般的とされる美的感覚において賞賛されるタイプではないと言える。
だのに自分では自分の事をカワイイと思い込んでいるフシがあり、性格面においては自分より立場の低い女子や、僕のようなその他大勢系の男子に対しては冷たい物言いをするタイプの、何と言うかや~な感じの女性である。
彼女はいつも数人の友人とつるみ、根も葉もない噂話や、誰かの陰口ばかり叩いているような人間だったので、僕は正直あまり好きではなかった。
彼女は哀れみの色を浮かべた目付きで僕をじろじろと眺めると、ほれ、と言って、キットカットが大量に入った袋を僕に差し出した。
要するに、その袋の中からキットカットを1つ取りやがれという事である。
「う・・・。」
当然のことながら、僕は迷った。
ここで、このままチョコレートを受け取る事は実に簡単である。
受け取れば、曲がりなりにも「バレンタインデーにチョコレートをもらった」という事実が残り、今までの「数年連続チョコ獲得個数0個」という不名誉極まりない記録に終止符を打つことができる。
しかし。
僕の中にも、男のプライドというものが存在する。
バレンタインというのは、夢見る高校生男子びぶ子にとっては、
「まぁ無理だろうけどもしかしたら可愛らしい女の子がちょっとはにかみながらチョコレートをくれる可能性がなきにしもあらずだから頑張っちゃうもんね」
という萌えイベントの一種でもあったので、こんな女だかトドだか分かんないような嫌われ者から哀れみのチョコをもらうというのは果たして如何なものか。
これを読んでいる男性諸君であれば、
「そんな、女だかトドだか分かんないようなヤツから、よりによって哀れみでチョコレートをもらうくらいならもらわない方が、いやむしろ死んだ方がマシだッ!!」
と考える人もいるのではないかと思う。
さらに、そもそも長年チョコレートを1つももらえないでいると、だんだんバレンタインデーというものに少なからず幻想を抱くようになる。
最初は、
「もらえたらいいな~。」
などと軽く考えていたのが、思春期という時期を謳歌するうちに、
「あの子から、もらえたらいいな~。」
「あの子から、こんなシチュエーションでもらえたらいいな~。」
と、どんどん具体的な方向へと妄想が進んでいく。
そして具体的になればなるほど、実現する可能性は低くなっていく。
なまじもらった事がないために、いざもらう際には、より幸福感の強いドラマチックな内容を求めてしまうという理屈。
これは、結婚願望の強い人間が、より理想的な相手を求めるうちに収拾がつかなくなり、結局結婚適齢期を大幅に逃してしまう現象と似ている。
かくしてそんな「チョコレートのみならずドラマも求めちゃう心理」に見事に当てはまっていた高校時代の僕は、Eさんの「哀れみチョコ」を目の前に、まるでメドゥーサに睨まれた戦士のように、ぴきーんと固まってしまった。
脳内で激しい葛藤が起こった。
「受けとれば大人の仲間入りだぞッ!!」
「しかし、僕個人のプライドはどうなるんだッ!?」
「でも、くれるって言ってるんだからもらうべきなのではッ!?」
「いやいや、僕の『初めて』をこんなヤツに捧げるワケにはいかんぞぉッ!!」
「そうだそうだッ!!ここで妥協してはいかんぞぉッ!!」
「僕の『初めて』はもっと清楚で可愛い女の子のためにとっておくのだぁッ!!」
何だかすっかり処女のような心境に陥ってしまった僕は、脳内で意見を巡らせ「ここは妥協してはいけない」という、間違いなく将来結婚が遅れるであろうと思われる結果をはじき出した。
深い意味は無いんだから素直にもらえばいいじゃないのというご意見もあろうが、よりによってEさん一派から情けをかけられたとあっては、さすがの僕も黙ってはいられない。
要するに、クラスでもあまり良く思われていないような連中から、僕はあからさまに格下であると思われているワケである。
日頃から「あんたが私たちを嫌ってんじゃないの。私たちがあんたの事を嫌わせてやってんの。」とでも言わんばかりの生活態度を誇っている勘違いちゃん達から、僕は哀れに思われているワケである。
これはもう、彼女らを殺して僕も死ぬしかプライドを守る術は残されていないくらいの勢いじゃないか。
目の前に出されたキットカット。
これを受け取った日には、僕は「きっと勝つ」どころか、男として負けである。
日本男児たるもの、命は捨てても誇りだけは捨ててはならない。
よって、ここは多少無理をしてでも断るべきだ。
バレンタインとは関係無しに軽い気持ちで受け取るという技量は、当時の僕には無かったし、何より今しがた昼飯の唐揚げ弁当を平らげたばかりである。今の僕の胃袋にチョコレートはお呼びでない。
僕は、あくまで紳士じみた対応で、
「いや、いいよ。」
と、彼女らの申し出を断ろうとした。
すると、僕が言うよりも早く、Eさんはイラッとした口調で、
「いるの!?いらんの!?」
と僕に言葉を浴びせた。
イラ立った彼女の語気は荒く、ノミや蚊くらいなら軽く殺せるんじゃないかと思うほどの覇気を秘めていた。
「あ、え・・・あの・・・じゃあ、いただきます・・・。」
かくして僕は、日本男児としてのプライドを捨てた。
たったの一言であっさりと彼女に気圧された僕は、熊のように頑丈な彼女の手からキットカットを受け取り、そのままバッグの中に入れた。
僕の後ろの席では、「あんなんあげた内に入らんわ!!ぎゃはは!!」と、彼女らのかしましい笑い声が昼休みの間中響いていた。
放課後、同じ電車に乗り合わせた友人K君は、僕を見てにんまりと笑った。
「お前も俺と同じで今年も収穫はどうせ0個じゃろうが?」
「え!?あ、うんそう!!そうなんよ、俺今年も0個で例年通り!!はははは・・・。」
もらったはずなのに、優越感を微塵も感じられないとは果たしてどういうことか。
もらったはずなのに、収穫ゼロの友人より傷心しているのは果たしてどういうことか。
プライドをズタズタにされた僕は、暗~い気持ちに苛まれながら家路についたのであった。
夜、明日の予習をしようと思いバッグを開けると、昼間にもらったキットカットが出てきた。
僕は、それをゴミ箱に入れようとしたが踏みとどまった。
「・・・キットカットに罪は無いッ!!」
僕は光のような速さでバリボリとキットカットを噛み砕いて飲み込んだ。
おかげで全然甘くなかったが、何だか涙のしょっぱさが混じっているような気がした。
【コメント返信】
thingさん>
リクエストありがとうございます。遅くなりましたがコーラス配合版をピアプロにアップしておりますのでご活用頂ければ幸いです。
きなこ。さん>
色々DLして頂いてるようで光栄です。ありがとうございます!
盆暮れ以下略、アップしておきましたのでコブシ回して歌ってやって下さい!
矢尾田亜紗美さん>
あー、全然大丈夫です!ご自分のペースでゆっくりやって下さい!何か急がせてしまってるようでこちらこそ何かスイマセンホント!
僕は楽譜を書いたり読んだりするのは苦手で、鼻歌をそのまま形にしてるだけなので才能とかは特に無いと思ってんですが、どうなんでしょう。