育成ーいくせいー立派に育て上げること。
「これ、ちゃんと育てなよね」
軽い調子で孤光はそう笑った。
何をですか?と問われたら一般的には我が子や弟子や教え子の事だと考えるだろう。
でもこれを育てるのはお前の責任だとその場にいた全員から無言で黄泉の腕に満場一致で手渡された『これ』は彼の目の中に入れても痛くない我が子修羅でなく色んな感情が入り混じった上で数年考えたのち結局愛しいと結論づけた蔵馬(外見年齢推定三歳)だったのだからその驚きは如何許りだっただろうか。
魔界広しとは言え内臓骨格まで完全に化けられる種族は希少だ。それが可能な種族と言うだけで闇のマーケットでは値段が跳ね上がる。その上外見の年齢と性別の操作まで出来るのだから妖狐と言う種族は神ー居るとしてだがーの恩寵を得て居るのに違いないと阿呆らしい噂がまことしやかに語られるくらいには希少な生得的能力持ちだと言える。
しかしそれは、あくまで『妖狐蔵馬』のみに与えられた能力であった筈。南野秀一の肉と魂と融合した今現在の『蔵馬』ではまだ数十年は習得不可能だと黄泉は他ならぬ蔵馬本人から聞いている。以前古代書の記述通りに作成した薬で子供の姿から一週間ほど元の姿に戻れなくなった時にこの耳でしっかりと聞いたのである。
それがどうしてこうなっている?
困惑しながら腕の中の蔵馬を見る。大変都合の宜しい事に黄泉の側頭部には頭伝針がしっかり装着されていて困惑しながらもその柔らかで愛らしい幼児を視覚でも堪能することが出来た。まず何より可愛い。惚れた欲目を抜きにしても可愛いかった。大きな瞳柔らかな薔薇色の頬唇は桜色で不思議そうに黄泉を見上げている表情も可愛い。細い身体は黄泉の実子修羅よりも軽く何処か甘い匂いもする。赤子特有のあのミルク臭い匂いを思い出して黄泉は苦労したワンオペ育児赤子時代編(正味二時間くらい)を振り返り一瞬泣きそうになった所
べちん!
と小さな手がフライング気味に平手打ちをかましてくれたおかげで涙は引っ込み、みてくれだけなら天使か妖精かと間違われるのも無理ではない愛らしい蔵馬くん幼児形態から
「おまえキモい」
と舌ったらずな好いたらしい声でいつものように可愛いくないお言葉を賜わり我にかえれたのでした。
で。
何故に蔵馬がこんな身体になってしまったのか疑問を黄泉が膝に乗せた本人に聞いたところ簡潔に一言『精気不足』と告げられた。
確かに黄泉が最後に蔵馬に精気を与えたのは大統領府から魔界深部のとある地方に棲息する危険生物の存在確認と捕獲などという多分人間界の何かに影響された馬鹿らしい依頼をこなす為に癌陀羅を四カ月程留守にした前日だった。しかもバタバタしていたのでキスのみしかしていない。
初めから四カ月と言う依頼ならば黄泉は断固として断ったのだが色々な事件?が重なり(
それを一つずつこと細かに記して居たらそれだけで一冊の冒険小説が発行されるので割愛する)中でも一番重要な点だけを記せば『交代要員の確保が出来なかった』から癌陀羅に戻れなかったのだ。その為当初二週間の予定だった滞在はズルズルと伸びた。
四カ月もの期間修羅と蔵馬に会えないばかりか電波障害で携帯端末も使えず声も聞く事叶わず何の因果か上層に繋がる道が崖崩れで塞がりーこれを地元の老人たちは危険生物の祟りだとぬかしやがりーそろそろ黄泉の我慢も限界を迎えようとしたあたりで
「キツネがヤバいのにいいご身分だな!?おい!」
といきなり現れた軀に胸ぐら捕まれて大統領府に連行され何故か雪菜とおててを繋いで修羅の服を着込んでいた小さい蔵馬(姉妹の様で大変眼福でした有難う御座います)を渡され冒頭のセリフを孤光に言われたのだった、と思い返す。
何度考えてみても自分は大して悪くないよなぁ、無論蔵馬も悪くない、と黄泉は思う。
悪いのは交代要員を確保しなかった大統領府だ。どうせアレはやりたくないとかコレがないと行かないとかオレんとこの人員割けって言うんならそれなりの報酬は貰うからななどと宣言したであろうやつらが悪い。諸悪の根源その一である軀は修羅と共に携帯ゲームに興じその二の棗は両手に抱えきれない程の衣装を黄泉の目の前に積み上げ
「これ全部着せて撮影宜しくね、写真集作るから」
などと宣いやがり、憮然とする蔵馬の頭を撫でてニコニコと笑う始末。
「……すまんなあ、黄泉。ワシ達もこうなる前に蔵馬に色々提案したんだがな」
心からすまなそうに言う煙鬼は魔界の良心だと黄泉は切実に思う。
「美人ちゃんが嫌って言うからよ。そう言われちゃオレ達はなんも出来ないだろ?」
ニヤニヤ笑いながら九浄も会話に参戦。……こいつは良心ではない。
「あ、男が嫌って言うからオレがキスしてみたけど女じゃ上手く行かないみたいだな」
軀の発言に何人かが色めき立ったが本人は全く気にはしていない。黄泉も少々気にはなったがそれよりも九浄の発言の方が大事だったので思わず膝に居た蔵馬を抱き上げまじまじとその顔を見問う。
「……誰の精気も貰ってないのか?」
再会当初なら兎も角妖化の進んだ今の蔵馬は精気補給でしか生命維持が出来ない。
けれども性交でなくともキスやハグでなら、高い妖力ー引いては純度の高い精気ーを有した者とならば精気補給は微量ながら可能だったと記憶している。それを何故。
不貞腐れた表情と声で蔵馬は返した。
「……だって、そんな気にならなかったんだからしょうがないだろ」
絶句する黄泉を眺めて
「凄ーく美味しいもの食べてしまうと普通のものだと味気ないですよね、蔵馬さん?」
と、うふふと口元に手を当て笑う雪菜の発言に皆一瞬声を失った。
おほん、と咳をして場の注目を集めた時雨が言う。
「……いつまでもこの姿のままでは蔵馬殿の生命も危うい。拙者から言わずとも黄泉殿はお気づきだろうが一刻も早く蔵馬殿を元の姿に戻すよう尽力して頂きたい」
うんうんと頷く一同の中にいつもは居るはずの二人がいない事に遅ればせながら黄泉は気づいた。……幽助と飛影がいないと。
「蔵馬を元の姿に……」
ぽつりと黄泉が呟くと目敏くそれに反応した軀が楽しそうに笑い言う。
「ガキはウチで預かってやるからよ。時雨の計算だと五日くらい朝から晩までヤりまくれば
何時ものキツネに戻るってよ!」
ー至極分かりやすい説明ではあるがお前は少しオブラートに包むと言う事を覚えた方が良いとその場にいた男性陣は同時に心の中で思った。
一日目。
とは言っても。
流石の黄泉でもこの三歳児蔵馬に欲情する事は難しい。
いくら元は食べ頃のぴちぴち十代ボディだよー、しかも半分お兄さんのお好きな人間だよ!
据え膳食わぬはナントカって言うだろう!素直になんなよ〜!とどやされても黄泉には幼児を抱く趣味はない。昔五歳児(具体的には二年くらい前)蔵馬に手を出そうとしてたじゃねえかと意見されても無いったらないのだ。
確かにこの小さな蔵馬は可憐で幼女っぽい可愛いさがある。見るからに男児!な修羅とはまた違う方向の可愛いさが爆発しまくっているがそれとこれー抱けるかどうかーは別だ。
冷や汗をこっそりかきながら黄泉は寝台に座り脚をブラブラさせている蔵馬を見る。
(まさかとは思うが、抱いてくれとか言わないだろうな)
そんな風に考えながらふと装着したままだった頭伝針に手をやる。
普段ならば一、二時間の使用で外すが今回ばかりはそうも行かない。
蔵馬を癌陀羅に連れ帰ろうとしたところ修羅が強硬に反対した為これから数日間、煙鬼が用意した宿に二人で投宿する羽目になったからだ。大統領府の宿舎では色々不都合もあるからでもあるが。
修羅はいつもの蔵馬は大好きだがこの小さな蔵馬に対しては微妙な感情を抱いているようなのだ。普段蔵馬にべったりなのにも関わらず今日は軀の隣に座っていた事でもわかる。皆の注目が蔵馬に集まるのが原因かと思うがそれだけではないだろう。まるで自分の子供の頃を追体験している気分で父親としては複雑でもある。
絶対パパと蔵馬が二人だけで帰るの許さないと怒鳴る修羅に負ける形で宿に泊まるハメになったが何しろ初めての投宿先。
煙鬼が用意しただけあって質実剛健な宿ではある。
飾り気など一切無く部屋は四畳程度の広さに寝台が一つとイスとテーブルが配置され後は何も無い。露台に置かれた寝椅子だけが不釣り合いに優雅な休暇感を演出しているのがおかしい。
そして安全性は不確かだ、通常なら従者として妖駄が同行するので不便はないが流石に彼まで癌陀羅を留守にさせるのはまずい。(蔵馬に精気を与えて元の身体に戻す、平たく言えばイチャつき三昧な日々を送る場に他人がいては気まず過ぎるとの理由が一番大きい理由ではあるが。)
それになによりここがいくら煙鬼が懇意にしている宿とは言っても癌陀羅と同程度信頼出来る訳ではない。
彼には悪いが宿の者には二人を『黄泉と蔵馬』でなく『旅の親子連れ』と認識させている。それくらいの自衛手段はとるべきだろう。魔界政府関連施設や政府関係者のコミュニティでなら多少気は抜いていられるがそれ以外の場所で身を守る事を忘れられる程黄泉も蔵馬も呑気ではない。更に言えば今の蔵馬の状態は危険極まりない。身体が幼児になっただけでなく妖気も幼児だ。(頭の中身は普段のままであるが)。
蔵馬がこんなに幼く頼りない外見では攫われる可能性は常よりも跳ね上がる。ほんの少し目を離した隙に子供が居なくなるのは魔界ではまだ日常茶飯事でもある。だからこそ少々不便だが頭伝針を外す訳にはいかない。などと考えているのを知ってか知らずか蔵馬はベットからぴょんと飛び降りると黄泉に向かってこう言った。
「ふろ入るからかみあらって」
以上です。
Pixivにアップしたものより少し多めにサンプル化してみました。
後ほど漫画たちもアップします。
「これ、ちゃんと育てなよね」
軽い調子で孤光はそう笑った。
何をですか?と問われたら一般的には我が子や弟子や教え子の事だと考えるだろう。
でもこれを育てるのはお前の責任だとその場にいた全員から無言で黄泉の腕に満場一致で手渡された『これ』は彼の目の中に入れても痛くない我が子修羅でなく色んな感情が入り混じった上で数年考えたのち結局愛しいと結論づけた蔵馬(外見年齢推定三歳)だったのだからその驚きは如何許りだっただろうか。
魔界広しとは言え内臓骨格まで完全に化けられる種族は希少だ。それが可能な種族と言うだけで闇のマーケットでは値段が跳ね上がる。その上外見の年齢と性別の操作まで出来るのだから妖狐と言う種族は神ー居るとしてだがーの恩寵を得て居るのに違いないと阿呆らしい噂がまことしやかに語られるくらいには希少な生得的能力持ちだと言える。
しかしそれは、あくまで『妖狐蔵馬』のみに与えられた能力であった筈。南野秀一の肉と魂と融合した今現在の『蔵馬』ではまだ数十年は習得不可能だと黄泉は他ならぬ蔵馬本人から聞いている。以前古代書の記述通りに作成した薬で子供の姿から一週間ほど元の姿に戻れなくなった時にこの耳でしっかりと聞いたのである。
それがどうしてこうなっている?
困惑しながら腕の中の蔵馬を見る。大変都合の宜しい事に黄泉の側頭部には頭伝針がしっかり装着されていて困惑しながらもその柔らかで愛らしい幼児を視覚でも堪能することが出来た。まず何より可愛い。惚れた欲目を抜きにしても可愛いかった。大きな瞳柔らかな薔薇色の頬唇は桜色で不思議そうに黄泉を見上げている表情も可愛い。細い身体は黄泉の実子修羅よりも軽く何処か甘い匂いもする。赤子特有のあのミルク臭い匂いを思い出して黄泉は苦労したワンオペ育児赤子時代編(正味二時間くらい)を振り返り一瞬泣きそうになった所
べちん!
と小さな手がフライング気味に平手打ちをかましてくれたおかげで涙は引っ込み、みてくれだけなら天使か妖精かと間違われるのも無理ではない愛らしい蔵馬くん幼児形態から
「おまえキモい」
と舌ったらずな好いたらしい声でいつものように可愛いくないお言葉を賜わり我にかえれたのでした。
で。
何故に蔵馬がこんな身体になってしまったのか疑問を黄泉が膝に乗せた本人に聞いたところ簡潔に一言『精気不足』と告げられた。
確かに黄泉が最後に蔵馬に精気を与えたのは大統領府から魔界深部のとある地方に棲息する危険生物の存在確認と捕獲などという多分人間界の何かに影響された馬鹿らしい依頼をこなす為に癌陀羅を四カ月程留守にした前日だった。しかもバタバタしていたのでキスのみしかしていない。
初めから四カ月と言う依頼ならば黄泉は断固として断ったのだが色々な事件?が重なり(
それを一つずつこと細かに記して居たらそれだけで一冊の冒険小説が発行されるので割愛する)中でも一番重要な点だけを記せば『交代要員の確保が出来なかった』から癌陀羅に戻れなかったのだ。その為当初二週間の予定だった滞在はズルズルと伸びた。
四カ月もの期間修羅と蔵馬に会えないばかりか電波障害で携帯端末も使えず声も聞く事叶わず何の因果か上層に繋がる道が崖崩れで塞がりーこれを地元の老人たちは危険生物の祟りだとぬかしやがりーそろそろ黄泉の我慢も限界を迎えようとしたあたりで
「キツネがヤバいのにいいご身分だな!?おい!」
といきなり現れた軀に胸ぐら捕まれて大統領府に連行され何故か雪菜とおててを繋いで修羅の服を着込んでいた小さい蔵馬(姉妹の様で大変眼福でした有難う御座います)を渡され冒頭のセリフを孤光に言われたのだった、と思い返す。
何度考えてみても自分は大して悪くないよなぁ、無論蔵馬も悪くない、と黄泉は思う。
悪いのは交代要員を確保しなかった大統領府だ。どうせアレはやりたくないとかコレがないと行かないとかオレんとこの人員割けって言うんならそれなりの報酬は貰うからななどと宣言したであろうやつらが悪い。諸悪の根源その一である軀は修羅と共に携帯ゲームに興じその二の棗は両手に抱えきれない程の衣装を黄泉の目の前に積み上げ
「これ全部着せて撮影宜しくね、写真集作るから」
などと宣いやがり、憮然とする蔵馬の頭を撫でてニコニコと笑う始末。
「……すまんなあ、黄泉。ワシ達もこうなる前に蔵馬に色々提案したんだがな」
心からすまなそうに言う煙鬼は魔界の良心だと黄泉は切実に思う。
「美人ちゃんが嫌って言うからよ。そう言われちゃオレ達はなんも出来ないだろ?」
ニヤニヤ笑いながら九浄も会話に参戦。……こいつは良心ではない。
「あ、男が嫌って言うからオレがキスしてみたけど女じゃ上手く行かないみたいだな」
軀の発言に何人かが色めき立ったが本人は全く気にはしていない。黄泉も少々気にはなったがそれよりも九浄の発言の方が大事だったので思わず膝に居た蔵馬を抱き上げまじまじとその顔を見問う。
「……誰の精気も貰ってないのか?」
再会当初なら兎も角妖化の進んだ今の蔵馬は精気補給でしか生命維持が出来ない。
けれども性交でなくともキスやハグでなら、高い妖力ー引いては純度の高い精気ーを有した者とならば精気補給は微量ながら可能だったと記憶している。それを何故。
不貞腐れた表情と声で蔵馬は返した。
「……だって、そんな気にならなかったんだからしょうがないだろ」
絶句する黄泉を眺めて
「凄ーく美味しいもの食べてしまうと普通のものだと味気ないですよね、蔵馬さん?」
と、うふふと口元に手を当て笑う雪菜の発言に皆一瞬声を失った。
おほん、と咳をして場の注目を集めた時雨が言う。
「……いつまでもこの姿のままでは蔵馬殿の生命も危うい。拙者から言わずとも黄泉殿はお気づきだろうが一刻も早く蔵馬殿を元の姿に戻すよう尽力して頂きたい」
うんうんと頷く一同の中にいつもは居るはずの二人がいない事に遅ればせながら黄泉は気づいた。……幽助と飛影がいないと。
「蔵馬を元の姿に……」
ぽつりと黄泉が呟くと目敏くそれに反応した軀が楽しそうに笑い言う。
「ガキはウチで預かってやるからよ。時雨の計算だと五日くらい朝から晩までヤりまくれば
何時ものキツネに戻るってよ!」
ー至極分かりやすい説明ではあるがお前は少しオブラートに包むと言う事を覚えた方が良いとその場にいた男性陣は同時に心の中で思った。
一日目。
とは言っても。
流石の黄泉でもこの三歳児蔵馬に欲情する事は難しい。
いくら元は食べ頃のぴちぴち十代ボディだよー、しかも半分お兄さんのお好きな人間だよ!
据え膳食わぬはナントカって言うだろう!素直になんなよ〜!とどやされても黄泉には幼児を抱く趣味はない。昔五歳児(具体的には二年くらい前)蔵馬に手を出そうとしてたじゃねえかと意見されても無いったらないのだ。
確かにこの小さな蔵馬は可憐で幼女っぽい可愛いさがある。見るからに男児!な修羅とはまた違う方向の可愛いさが爆発しまくっているがそれとこれー抱けるかどうかーは別だ。
冷や汗をこっそりかきながら黄泉は寝台に座り脚をブラブラさせている蔵馬を見る。
(まさかとは思うが、抱いてくれとか言わないだろうな)
そんな風に考えながらふと装着したままだった頭伝針に手をやる。
普段ならば一、二時間の使用で外すが今回ばかりはそうも行かない。
蔵馬を癌陀羅に連れ帰ろうとしたところ修羅が強硬に反対した為これから数日間、煙鬼が用意した宿に二人で投宿する羽目になったからだ。大統領府の宿舎では色々不都合もあるからでもあるが。
修羅はいつもの蔵馬は大好きだがこの小さな蔵馬に対しては微妙な感情を抱いているようなのだ。普段蔵馬にべったりなのにも関わらず今日は軀の隣に座っていた事でもわかる。皆の注目が蔵馬に集まるのが原因かと思うがそれだけではないだろう。まるで自分の子供の頃を追体験している気分で父親としては複雑でもある。
絶対パパと蔵馬が二人だけで帰るの許さないと怒鳴る修羅に負ける形で宿に泊まるハメになったが何しろ初めての投宿先。
煙鬼が用意しただけあって質実剛健な宿ではある。
飾り気など一切無く部屋は四畳程度の広さに寝台が一つとイスとテーブルが配置され後は何も無い。露台に置かれた寝椅子だけが不釣り合いに優雅な休暇感を演出しているのがおかしい。
そして安全性は不確かだ、通常なら従者として妖駄が同行するので不便はないが流石に彼まで癌陀羅を留守にさせるのはまずい。(蔵馬に精気を与えて元の身体に戻す、平たく言えばイチャつき三昧な日々を送る場に他人がいては気まず過ぎるとの理由が一番大きい理由ではあるが。)
それになによりここがいくら煙鬼が懇意にしている宿とは言っても癌陀羅と同程度信頼出来る訳ではない。
彼には悪いが宿の者には二人を『黄泉と蔵馬』でなく『旅の親子連れ』と認識させている。それくらいの自衛手段はとるべきだろう。魔界政府関連施設や政府関係者のコミュニティでなら多少気は抜いていられるがそれ以外の場所で身を守る事を忘れられる程黄泉も蔵馬も呑気ではない。更に言えば今の蔵馬の状態は危険極まりない。身体が幼児になっただけでなく妖気も幼児だ。(頭の中身は普段のままであるが)。
蔵馬がこんなに幼く頼りない外見では攫われる可能性は常よりも跳ね上がる。ほんの少し目を離した隙に子供が居なくなるのは魔界ではまだ日常茶飯事でもある。だからこそ少々不便だが頭伝針を外す訳にはいかない。などと考えているのを知ってか知らずか蔵馬はベットからぴょんと飛び降りると黄泉に向かってこう言った。
「ふろ入るからかみあらって」
以上です。
Pixivにアップしたものより少し多めにサンプル化してみました。
後ほど漫画たちもアップします。
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